「ごめんごめん…遅くなった」
そういいながら「BER EIJI」の扉を抜けると、
すっかり宴会の様相を呈している店内が広がっていた

「おそーい! もう、どこまでいってたのよ!」
と、ミドリちゃんやアマネと料理を並べていたユズが頬を膨らませる。
「…あれ、後ろにいるヒト…誰?」
ちょうど皿を運んできたケイスケが、俺の後ろにいる人物について尋ねてきた

「あッ…えぇ……っと…」
俺の後ろのカイドーを見たアツロウが、何故か口ごもる
「?」
ケイスケはアツロウの妙な態度に首を傾げている

アツロウはそんなケイスケを見遣り、再び俺のほうを見ると
(おいっ、何でカイドーつれてきてんだよ!)
と目線で訴えてきた
「?」
最初は俺も思い至らなかったけど、ようやくその事実に思い至った
…そうか、そういえば封鎖内でカイドーはケイスケを探してたんだっけ…
そこに気づくと、俺もアツロウから伝染したのか、なんだか妙に焦ってしまった。

(しょうがないだろ!行き会ったんだから!!)
焦りながら目線で言い返すと
(だからってお前…この状況でこの鉢合わせは無ぇだろ!)
とアツロウがちらちらとケイスケを気にしながらまた訴える。

「…どうした?はいらねぇのか?」
俺の後ろでもカイドーが怪訝そうにしている。
「あ…あぁ! ゴメン」
俺はあわててその場を退いた
「ちぃーす」
カイドーが若干頭を屈めながら店内に入る。

「あっ…貴方は…」
案の定ケイスケがカイドーに反応する

(あっちゃぁ〜…)
アツロウが額に手を当て、大げさに天を仰ぐ
けれど、予想したような事態にはならなかった。

「おう、久し振りだな…」
カイドーも若干目線を逸らしながら挨拶すると、店の奥へ歩みを進めていった
そのまま奥へ消えると
「うっす、邪魔します…」
というのが聞こえた
カイドーの言葉に、まだ厨房で調理をしているらしいジンさんが
「お、カイドーじゃないか!どうした急に・・・…さては夕飯の集りか?」
冗談めかしたジンさんの言葉に、カイドーは
「は、違いますって!…俺ぁミタカに誘われて……」
「そうか…ミタカに誘われたともっともらしいウソをつきながらタダ飯か!」
という(わざと)能天気そうなジンさんの言葉に
「………」
怒りを押し殺したらしいカイドーのため息が聞こえた

「えっと…」
微妙においていかれたケイスケや俺、アツロウが厨房のやり取りに目を向けていると、

「あら、お客さん?」
と追加の買い物を終えたらしいマリ先生とハルが帰って来た。
「え、ええ…」
ずっと厨房のほうを眺めていたケイスケが返事をすると

「だぁーかぁーらぁー!俺ぁミタカに…」
「そーかそーか、ミタカをダシにタダ飯食おうとなぁー・・・」
「ちょっジンさん!?俺もいい加減怒りますよ?」
「ふうん?…やるか、タダシ…なら表へ出ろ」
「えっ……いや…」

見たいな会話がさっきからずっと続いている
「…なんだ、カイドーじゃん」
ハルが荷物を空いている机に置きながらつぶやく
「もう、タダシ君ったらまた年上の人にあんな態度とって…」
マリ先生が厨房に入っていく

「…………」
俺たちは顔を見合わせる
そしてまた厨房に目をやる

「だぁーッいい加減にしやがれ!!」
「相変わらずだな本当に」
「………ッこの!」
「こらタダシ君!駄目じゃないの年上の人に向かって!!」
「…っぎゃあぁ!!! ま、マリ姉!」
「なーに?人を化物みたいに…」
「いや…んなつもりぁ…」

再び俺たちは顔を見合わせる
「………」
そして数秒笑いをこらえた後、大爆笑した。

「あれ、カイドーってマリさんと知り合いだったんだ?」
と一人ハルが吃驚していた。

×

宴会が始まった店内は、まさに賑やかの一言に尽きた。
ハルのライブにユズだけでなく他のみんなも酔いしれ、
カウンターでは酔いつぶれたイヅナさんが突っ伏し、
その脇では何本ものワインやウィスキーのビンを転がした伏見さんとマリ先生が杯を交わしている。
ジンさんはそんな二人の会話に加わりながら酒を追加したり料理を配ったりと慌ただしく行きかっている。

俺たち未成年は封鎖内での思い出話に花を咲かせたりした。
(途中でミドリちゃんがジャア君を思い出して泣いてしまい、なだめるのに苦労した)
カイドーとケイスケは完全に和解したようで、今ではなにやら力がどうのとか議論を交わしている。
アマネはユズやミドリちゃんたちとファッションや最近の流行について尋ねており、それなりに楽しそうだった。
アツロウはそんな3人に突っ込みをいれたり(物理的な意味で)入れられたりしながら、
こんなところでもPCと改造COMPを持ち出して作業をしていた。

俺は楽しそうなみんなを端のほうの席で眺めながら、今日の昼間に会ったチャラ男の言葉を思い返していた。


『君はもう踏み込んでしまったんだよ、引き返せない所まで・・・他の誰もが日常を楽しんでも、
君だけはずっと非日常に取り残される・・・・・・いずれは、呑み込まれるかもしれないねぇ・・・
その時、君は一体どうするんだろうね・・・・・・?』

俺だけが…ひとり、ずっと…
呑み込まれる……
「…逃げられない か…」
思わず口をついた言葉が、自分自身で痛かった

「アンタは会話に入らないのかい?」

気づくとハルが俺の隣に座っていた。
「…アンタさ、前にアタシに言ったよね。”自分のこと大事じゃないのか”って…」
「…そうだったね」
いきなりの話に若干驚きながら、俺はハルにその言葉を言った情景を思い浮かべた。

「…あれさ、今だから思うのかもしれないけど…アンタ自身にも向けられてたんじゃないの?」

「!」
核心をつく言葉に、俺は固まる。
「今のアンタ見てるとさ…なんか、そう見えるんだよね……って、
あ!…ゴメン、違ったら別にいいんだけどさ…」
とハルは慌てた様に付け足す
「いや、合ってるよ」
俺はユズたちを眺めた視線はそのままに、唇だけを動かす
「俺はあんまり自分自身に対してコレといって思ったことはないよ
…ないって言うか、思ってないわけじゃないと思うけど…なんていうか…そう、
客観 みたいな感じ」
日ごろ滅多に口に出さない感情を、ただその場の空気に滲ませる
「客観…?」
ハルがよく分からないというように聞き返す
「そう、客観。 自分の置かれた状況を感じてる自分と、
ソレを感じる自分をただ冷静に見てる自分がいるみたいな……
自分が自分じゃないみたいな……そんな感じ」
だから今もみんなとはしゃいだり出来ずに傍観に徹している。
「……」
ハルが思わず無言になると、俺もはっとなって
「…あっ、ゴメン…こんな空気にするつもりじゃなかったんだけど」
と言うとハルは
「あー…いいって、アタシが尋ねたんだからさ」
と言った。

「そ、そういえば…さ」
俺はあわてて別の話題を探す
「さっきのハルの歌…たしか封鎖内でも歌ってたよね。あれ、何てタイトル?」
「ん…アレかい?」
ハルは目を閉じて、それから誇らしそうに言った

「アレは『Reset』っていうのさ」

「Reset…」
俺がつぶやくと
「そ、…アヤさんが、初めてアタシに歌わせてくれた歌でさ。アタシのお気に入りなんだ」
と嬉しそうに言った。
「そっか…俺も、あの曲が一番好きだな」
と言うと
「おっ?いいこと言うねアンタ!」
と肩をたたかれた。

しばらくハルと話し込んだ後、
店内の時計を見ると、結構夜が更けてきている
俺は椅子から立ち上がると、ようやく潰れたらしい伏見さんとマリ先生に毛布をかけているジンさんに声をかけた
「ジンさーん、俺 用事あるんでそろそろ帰りますー…」
ジンさんはこっちを振り返って、
「ん…そうか?もしアレなら、泊まっても明日は定休日だから問題はないぞ?」
と気遣ってくれる
「いや、大丈夫 それよりもさ…残った料理…若干もらって帰ってもいいかなぁ?明日夜勤で親居ないんだ」
というと、
「容器はキッチンの戸棚にあるから、使ってくれ」
と厨房を指差した。
俺は礼をいいながら容器をいくつか借りると、残っている料理を手早く詰め込む
それから伏見さんとマリ先生が飲み残したらしい酒ビンを一本手に取ると
「あとさ…コレももらって行っていい?」
と聞いた
「おいおい…未成年だろうが」
と呆れるジンさんに
「いや…俺が飲むんじゃなくて」
というと、なんとなく事情を察したのか
「…しょうがないな…なら、定価の5割ってトコだな」
と言ってニヤリと笑った
「……ナオヤにツケといて」
俺はそういって料理の入った容器と酒ビンを抱え、夏の生ぬるい外気に身をさらした

「あれー?ミタカかえるのー?」
ユズの声に
「うん、また明日」
と返して、他のみんなにも挨拶をする

「またな」
「お気をつけて」
「あたしのイベント見に来てね!」
「それじゃあ…」
「店が開いてるときなら、いつでも遊びに来てくれ」

俺は手を振って扉を閉めると、
夜の静寂の中を歩き始めた。

しばらくすると、後ろから足音が聞こえてきた
「ミタカ!」
立ち止まって振り返ると、アツロウが追いかけてきた。
ある程度まで追いつくと、ひざに手をついて息を整えている
「どうしたのさ、アツロウ」
と俺が尋ねると、
「どーしたもこーしたもねぇって、…ナオヤさんとこ行くんだろ?」
といった。

「まぁ、そうだけど…」
と俺が答えると
「俺もあの人のところ行きたかったんだ。…やっぱCOMPの構造がいまいち難しくってさ…
直接聞いたほうが早いかと思ってさ」
とノートPCの入った鞄を示しながら言う。
「そっか…じゃ、一緒に行こうか」
「おうよ!」



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