ワゴンから降りると、入り口の前でジンさん、マリ先生、ハルが伏見さんと一緒に待っていた
「おはよう みんな 昨日は良く眠れたかしら?」
俺たちの姿を見つけたマリ先生が保健の先生らしく体調をたずねてくる
「俺はフツーに眠れましたよ」アツロウが朗らかに答えている
「アタシはあんまり眠れなかったよ 作った曲が気になってさ・・・」
とハルは頭をかいていた。
「・・・・・・全員そろったな じゃ、中に入るぞ」
やり取りが一段楽した所で 伏見さんが俺たちに中に入るように促した

ビルの中は、普通のオフィスと同じような造りで、スーツ姿の人が慌しく行き交っている
俺たちはその中を伏見さんとイヅナさんの先導で歩いていた
エレベーターで5階に上がり、廊下の中ほどに差し掛かったとき
見慣れた人物と行き会った
「・・・ミタカじゃないか」
意外そうに足をとめたのは 俺の従兄 ナオヤだった
「あれっ ナオヤさん・・・・・・だよな?」
「・・・たぶん」
アツロウが思わず疑問系で俺に尋ねる
どう見てもナオヤなんだけど・・・・・・俺も自信なくなってきた
なぜなら、ナオヤは普段の着物姿じゃなくて、めったに着ないスーツ姿だったから…
黒地のスーツにチャコールグレーのシャツ、それから臙脂色のネクタイをしてるけど、
正直歌舞伎町で会ったチャラ男・・・なんだったんだろアイツ・・・・・・
あれみたいな感じで どうみてもホストにしか見えないのは何故だろう・・・
「・・・そんな眼で見るな 俺だってこんなもの着たくなかったさ」
ナオヤがばつが悪そうにネクタイを緩めて言う
呆ける俺達を前に 言い訳するようにさらに続ける
「今朝突然政府の連中・・・要はこいつらだな こいつらについてこいと半ば無理やり呼ばれたんだ。
その際にそんな格好ではダメだとか何とか抜かしやがるから、仕方なくこんな格好をしているというわけだ・・・
スーツなど窮屈でかなわん 大学の卒業以来だと思っていたんだがな・・・」
そう言って鼻を鳴らすナオヤはなんだか照れてるようにも見える。
「あ、そうか ナオヤさんはプログラムの設計者だった だから呼ばれたのか・・・」
とアツロウが眼をキラキラさせて一人でふむだのうむだの納得していた
俺は俺でナオヤのスーツ姿を改めて見て

よくみれば確かに大学卒業前に買ったスーツだ
俺が全部黒系赤系で統一させたんだっけ・・・
ナオヤの髪が映えるかと思って黒にしたんだけど・・・大学で悪目立ちしたらしいな・・・・・・
なんて感慨にふけっていると、

不意にナオヤが
「・・・おい ミタカ お前、ちょっと来い」
そういって俺を手招きする
「何?俺、これから政府の人と話し合いしないといけないんだけど」
時間あるのかな?
「あぁ、それは知っている だが今奴等は俺の話についてなにやら話し合っていたから
恐らく小一時間は待たされるぞ・・・だからお前たちは先に行け
そこの角の部屋だろう?」
そういって奥の扉を指差し、伏見さんに確認を取る
「ああ、そうだが」
伏見さんは突然の展開に若干ついていけず 戸惑いながらも返事を返した
「ミタカは話が終わったら俺が送ってやるから 先に行って待ってろ」
「あ じゃあ俺も俺も!」
アツロウがやっぱり眼をキラキラとさせてナオヤに向かって挙手をする
「いや、今回はミタカとだけの大事な話だ 今度また新しく開発したプログラムを見せてやるから今日は大人しくしておけ」
ナオヤはそういってアツロウをなだめ、集団の中から俺の腕を取って歩き出した
「お前らはもういい 道順は覚えた 警戒しなくともここで何かをするつもりは無い」
ナオヤは一緒にやってきた政府の役人に言い捨てて、俺を連れてさっさと歩き出す
そして手近なあまり使われていないらしい部屋に入り、俺に向き直った

「・・・ミタカ、今回の悪魔退去の手腕 見事だったな」
「そりゃどうも」
「だが、何故お前は俺の誘いに乗らなかったんだ?」
「さあね それで本題はなんなの?」
ナオヤの質問には答えずに、俺は話の先を促した
別にごまかしたいわけじゃないけど それは今すべき話じゃないからだ。
「フ・・・そうだな では本題に入ろう・・・お前はこの後、
政府との話し合いで、今回の顛末だけでなく・・・お前自身についても聞かれるだろうな」
ナオヤは俺を指差しながら この後行われるらしい話し合いの予想を語りだした
「お前自身というよりは・・・そうだな、お前の中にあるベルの力についてだ」
ああ、そういうことね ナオヤは俺が頷いたのを見て さらに話を続ける
「現在悪魔は全て東京から消え去ったが、お前の力一つでまた呼び出すことができる
何せお前は万魔を統べる王なのだからな」
そういえば昨日のバ・ベルとの戦いで、俺はそういう存在になってしまったらしい
自覚も実感も何も無いんだけど
「恐らく、奴等はお前の監視を求めてくるだろう まぁ 憲法があるから
おおっぴらな監視ではなく、定期的な接触・・・お前たちの引率にいただろう
STFの人間が・・・奴等がその仕事を負わされるだろう その際に お前は政府に対して
お前自身とお前の周囲の今回の関係者に対する危害を加えないという話を持ちかけろ」

ナオヤの先読みはほとんど当たる。だから今回もそれの一環で俺に何か対策を
立てさせようとしてるんだろう・・・でも、どうしてそんな話を持ちかけるんだろう・・・

「いいか、必ず持ちかけろ さもなければ政府の敵になり得ると分かった段階で
消しにかかる無能な奴等だ・・・お前達の命など一瞬だぞ」
俺の不可思議そうな顔を見て取ったのか、その話を持ちかける真意を伝えてくる
「・・・そうだな 奴等はただ話を持ちかけるだけでは納得しないだろう 
この際、お前の取り込んだベル神の情報でもくれてやれ アマネが詳しく説明してくれるだろう
この情報と引き換えで お前は必ずお前の関係者に危害を加えないという交渉を成立させて置け」
「・・・・・・つまり、政府は俺を殺す可能性があると?」
今の話を聞いている限りでは、そういう風に捉えられる
まぁ、せっかく消した悪魔をまた呼ばれちゃ政府もたまったもんじゃないだろうけど・・・
「そうだ、お前を殺せば永久に悪魔がでないと奴等は考えるだろう・・・
もしくは、再び悪魔を呼び出し、軍事力として国連常任理事国入りを狙う馬鹿が現れんとも限らん
お前の力をそんな下らんことに使われてはたまらんからな」
あ、そっちの意味もあるのか・・・さすがナオヤが考えることだ。常に先へ先へと向かっている
「じゃあ、ベル神のことは全部喋っちゃっていいんだね?」
「構わん もう存在しない奴等のことを喋った所で何の意味も無いからな・・・
だがミタカ、交渉が成立した後は必ず奴等の呑んだ条件を公式文書にして提出させておけよ」
「どうして?」
そこまでする必要あるのか?
「・・・奴等は条約や法律の裏を書くのが得意だからな・・・口約束ではいつ反故にされんとも限らん。
必ず交渉の証拠を握っておけ・・・そうすればお前も、お前の周りの奴等も安泰だ」
ナオヤって、とことん政府が嫌いだな・・・まぁ、俺もあんまり好きじゃないんだけど
とりあえず従っておいて損はなさそうだ
「分かった そういう風に交渉しておくよ ありがと 直兄」
普段はナオヤと言ってるけど、昔は直兄と呼んでいた
その癖がまだ抜けないんだ
「フ、気にするな 愛しい俺の弟よ」
ナオヤもまんざらではなさそうだな・・・
「さて、話も済んだ 奴等のいる部屋へ戻るぞ」
ナオヤは俺の手を引いて部屋を出た



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