次に目を覚ましたとき、
俺はさっきまで脇にあったはずのベッドの上で、布団をかけられていた


おきようとしたけれど
体が思うように動かず、なによりも喉が痛い

 

俺の動きを察知したのか
なぜかびしょ濡れでバスタオルを被ったアツロウが

「ミタカ、起きたか?」
と声をかけてきた。

「ぁぁ………」

声を出しても、掠れたような無声音しか出ない俺の声に
アツロウは苦笑して

「だいじょぶそうでは ないかもな」

そういってミネラルウォーターのペットボトルを差し出そうとして、
慌ててキャップを緩め俺に渡してくれる。

俺は力の入ってない手でそれを受け取り、
3割くらい零しながら飲んだ
冷たい水が喉を冷やし、多少は楽になってきた気がする


それで俺は、どうしてここに

 

それを考えたときに
これまでの経緯が思い出された

封鎖のこと
ナオヤのこと
そして俺がとった行動
ナオヤが俺にやったこと

そういうものが、全部頭の中にフラッシュバックした

「ナオヤ………」

とりあえず、ナオヤに声をかけると
ベットの脇に座って放心したような顔をしたナオヤが

目線だけをこちらに向けた
それから何かを堪える様に俺から目線を逸らした。
 

ナオヤの眼に浮かぶ感情は何だろう
怒り、後悔、それとも………憎悪…?
俺には推し量ることが出来ない。


ただ先程の凶行で傷めたらしい喉の鈍痛を感じながら、
神に従い対峙した時の事を思い出した。

”お前は俺が憎いのだろう?”

俺は憎んでなんかない
本当は……本当に憎んでいたのは………
そこまで考えたら、知らず知らずのうちに言葉が口をついて出た。



「…ナオヤは……俺が、憎い…?」

「!!」
俺の言葉にアツロウとナオヤの両方が俺を見る
アツロウは心配する様に、ナオヤはぎょっとした様に。

「……なんで、お前…そんなこと…」
アツロウが何か言おうとするけど、俺はそれを遮って


「だってそうだろ! ナオヤは……ずっと、俺を…大事にしてくれて…」
一緒に住んでいた時、夜勤であまり居ない両親の代わりに俺の世話を焼いたのは
授業参観に来てくれたのは、勉強を教えてくれたのは
それでいつも笑って、"お前は俺の弟だからな”って頭を撫でてくれたのは

「…それで……俺を、使って……神を………倒そうとして…」
俺に利用価値があったからじゃないのか?
それとも、ほんとに俺を愛してたの?

「なのに……俺…俺はッ………神に…ナオヤの嫌いな、神様に……付いて…」
途中から何を言いたいのか判らなくなってきて、俯いてしまう。



「…ミタカ、もういい」

俺はその声を無視して、半ばずり落ちるようにしてベットを降りると
ナオヤの襟首にしがみついて言った。
「…ナオヤは……俺なんかもう要らないんだろ!?」
俺から顔を背けたままのナオヤに、俺は怒鳴りつける

「…おい……ミタカ…」
アツロウが俺を止めようとするけど、
俺はもう収拾が付かなくなって、封鎖が終わってずっと溜め込んでいたものを、吐き出す。

…本当は、そんなことが言いたいんじゃなかった
ナオヤにそんなことを聞いて、肯定されるのも怖かった
ただナオヤに見放されることへの不安や恐怖が入り混じって、
俺は言葉を浴びせ続ける。

「なら……、俺を殺せばいいだろ………さっきみたいに…」
俺の目からはいつの間にか涙が流れていて、頬を濡らす。


「……なんだと」
ようやくナオヤからも反応があった
逸らした顔を、僅かに俺のほうに向ける
その顔は無表情で、それが逆にナオヤの怒りの強さを表していた。


「…俺は、ナオヤのため……って言ったら…押し付けがましいけど……でも、
 ナオヤの敵になるために救世主になったんじゃない……ッ…」
無表情を見返しながら、俺は叫ぶ


「…ナオヤに嫌われるなら、見捨てられるなら………救世主なんて、要らない…
 俺なんか……要らないんだ……なら、俺が憎いナオヤの手で……」

    いっそのこと殺してくれ

そう言いかけたところで、俺はナオヤに胸倉を掴まれた。



「…俺に、殺せと言うか…お前を!」
俺の声よりもはるかに強い声で、ナオヤは叫ぶ


「…俺が、どれだけ後悔したと思う?…俺が、お前を憎いなどと何時言った!?」

俺はその声に頭を殴られたような気分になった。
……ナオヤは…おれをにくんで、いない……?


「…なら、なんでっ……」
あんな事聞くんだ
言いかけたとき、アツロウが言った。

「…ミタカ……コレは…俺の推論だけどさ、ナオヤさんは……お前を本当に嫌って
 あの言葉を言ったんじゃないと、思うんだ……」

「…………?」
俺がアツロウを見ると、アツロウは俺とナオヤを交互に見て

「…その…なんていうか……お前もさ、自分の好きな人を…誰かに取られたら…
 嫌だって思うだろ?……ましてや自分の嫌いな人に自分の好きな人を取られたら…尚更ヤだろ?
 …だから、ナオヤさんもそれと同じ気持ちになったんじゃ…ないかな…と俺は思うん……だけど…」
後半からナオヤを伺いながら、アツロウは続ける。

…確かに…俺もアツロウやナオヤやユズを俺の嫌いな奴に取られたら嫌だ。
俺のことが嫌いで離れてったのかって思う……


思い当たる節の有る俺の顔を見て、アツロウは言った。
「…だからさ……なんていうか…そう、可愛さあまって憎さ百倍?…みたいな…
 ナオヤさんはお前を怨んであんな事言ったんじゃないんだよ……多分…」
本人の前で言ったことでアツロウの顔は真っ赤になっている。


「そう、なの…?」
俺がナオヤの服を掴む手を緩めてナオヤを見上げると、

「お前は俺に憎んでいて欲しいのか」
と聞いた。


それは絶対に嫌だ そう思って
首を激しく振ると


「……なら、そういう事だ」

それから俺の首筋にうっすらと残った痣を撫でる。
慈しむ様に、愛しむ様に
「…………すまなかったな、ミタカ」


それだけで、俺には十分だった。
俺はナオヤの首筋にしがみ付くと、声を震わせて泣き出した。
ナオヤはそんな俺の頭に手を回して、いつもしてくれるように俺の髪を撫でた。




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