ナオヤは防犯とかにはやたらと気を配る性質なので
(だから何でもかんでもプロテクトをかけるんだよね…)
鍵が開いているということは、一応室内にいるのだろう

いつも勝手に上がりこんでいるので
今回もそうしようと玄関に入り込み、戸惑った

 

神に協力したような俺が来て、
何と言えばいいのだろうか
ナオヤは、俺が憎いか?といっていた
そんな相手に俺が来ていいのだろうか
そう、思ってしまった

 
でも、俺は ただナオヤに会いたいわけじゃない
俺が神に協力した本当の理由を伝えたかったんだ。

言訳にしか聞こえないかもしれない
戯言に取られるかもしれない
それでも、俺はただ盲目的に神に従う傀儡じゃないって事を

(……よし…)
 

意を決して室内に上がりこみ、足音を立てないように
慎重に廊下を渡る
このまま真直ぐ行くと
右にキッチンとバスルームがあり
奥にリビングと寝室があるはずだ
歩いていく途中にキッチンを覗いてみたけど

ナオヤの姿は無く、生活感の無いキッチンとバスルームへと続く扉があるだけだった

ならばおそらくリビングだろう
そう結論付けて 奥へ向かう


リビングにはデスクトップ型のPCと
コタツに置かれたノートPC、
それとCOMPらしきものや
良くわからない基盤だとかコードだとかが
乱雑でない程度におかれていて、

カーテンはすべて閉まっていた

「まだ寝てるのかな……」

仕事柄徹夜が多いらしいとアツロウが言っていたのを思い出した
封鎖のせいで、疲れて寝ているのかもしれない
そう思って、さらに奥の寝室へ向かう



「……………ナオヤ…」 
ナオヤは、確かにそこにいた
けれど眠っているというよりは
停止している、と表現したほうがいいかもしれない
ベッドではなく床に座り、ベッドの脚のほうに体を預け
俯いているナオヤがいた

どこも悪いようには見えなかったけど
憔悴しているように見えた

(……どうしたんだろ…)

だから俺はいつものように心配して
不用意ににナオヤに近づいた。

「ナオヤ? どうした?大丈夫か?」
そう声をかけながら、ナオヤの横に回って肩をゆする


ナオヤの頭がぐらぐらと揺れるだけで、人形のように反応が無い。


「………………ん……」
2〜3回揺すったらようやく反応があった


やっぱり眠っていただけだったのかと安堵しかけたら、

 

ゴッ!!

 

突如として床に叩き付けられ、自分の頭が床とぶつかる鈍い音を聞いた

 

何が起こったのかと体を起こそうとすると
2本の長い腕が伸びてきて、俺の首筋に絡みついた

「がっ……は………!……ぁ…?」

とても人間の出す声とは思えないような音が
俺の喉から漏れる

その間にも、伸びてきた腕はさらに俺の首筋を締め上げる

「ぐっ…ぅ………っあ……!」

辛うじて目線だけを腕のさらに向こう
その腕の持ち主へと向けると

 
泣いている様な、怒っている様な、無表情のナオヤの顔があった

俺と目が合っても
表情を変えず
ただただ万力のような力を込めて
俺を締め上げる。

……ひゅーっ……ひゅーっ……

そんな音がのどから漏れている
それと同時に
俺の視界が端から黒くなり
ノイズが混じったようにナオヤの顔が見えなくなってくる

「…ぅあ………ぁ……っは…………ナオ……ヤ………っ…」

ナオヤに呼びかけようと思っても
喉は余り使い物にならず
呼びかけられた本人の手によって握りつぶされてしまう

 

なおやはおれをうらんでいるんだろうか

 

そんなことをふと思った
あんなにも大切にしてもらって、COMPを渡して、俺たちが死なないようにして
それで魔王になってほしかった従弟が

自分のだいきらいな神様に付くと知ったとき
ナオヤはどれだけショックを受けたんだろうか

 
黒いノイズに侵食されて、最早顔すらわからなくなっているナオヤに

腕を伸ばす

その腕が直哉に届いているかは判らなかった
ただ、届けばいいと思って腕を伸ばした

 

「…なぁ、ミタカよ 何故お前だけが神に愛されるんだ?」

 

さっきよりは腕の力を緩めて(とはいっても呼吸が出来るようなものではないのだけれど)
ナオヤが俺に、というよりは

独白に近い言葉を掛ける。


「俺もお前も、どちらも等しく神の子だったはずだ」


「それが何故 愛されるものと愛されないものを生んだんだ?」


「…ミタカよ、なぁ……何故だ?」

 

次第に言葉が歪に変容し始め
俺への呪詛に変わっていく

 
「お前が、羊飼いでなければ」

「お前が、お前でなければ」

あぁ、その先の言葉 何が言いたいのか…判るよ……

ノイズに侵食されすぎたせいで、俺はもう部屋の中も、ナオヤの顔も
何も見えなかったし鬱血でもしているのか、頭の中がぼんやりしていて
ただ雨音に俺の喉が立てる音が混ざるだけで

おれというにんげんのしこうがつかいものにならなくなってきているのだとしても

 

「……お前さえいなければ!!!」

 

これまでで最高に呪詛のこもった叫びとともに
これで終わりだといわんばかりに腕に力がこもる

「……ぐぅ…………ぁ………、……っは……、……、……………ぅあ……」

何かを謝りたかったけれど
もう俺の声は声じゃなかった気がする
何かを伝えたかったけれど

もう届かない

徐々に力が入り
それによって狭まっていく思考の中で俺は思った

 
俺は、ここで壊れてしまうのだから もう 何も届けられない
俺の腕がようやく床に落ちた

ああ、ちからがはいらなくなってきたな・・・・・・





俺の体から力が抜けるのとは逆に、ナオヤの腕はまだまだ
力を込めてくる
機械の様に、俺を殺すという命令を全力で遂行しようとする様に。



「……、………、……っ………、……、……ぁ…………」





こうなってから、どれくらいたったかな……
体の感覚がなくなってきた
1時間くらい、こうしているような気がするけど
たぶん、まだ数分だろう
部屋が薄暗いせいか
部屋全体が停止してるように見える…
雨音をBGMに、俺はナオヤに殺される

俺はナオヤに殺されるなら
もう、それでもいいと思った


それでナオヤの気が済むのなら……






「ナオヤさんっ!!!! ミタカ!!!」





突如としてその凍りついたような
止まったような時間が破られたような気がする
俺にはもう何も見えなかったから
あまり覚えてないけど




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