ミタカはうなされていた。
シーツを手が真っ白になるくらい握り締めて、
額に汗を浮かべて。

苦しそうに、呻く
「…ごめんなさい……ごめんなさい………」

誰にに謝っているんだろう…
俺が知らないところで殺した誰かだろうか
それとも…

俺はそんなことを考えながら、ミタカの汗をぬぐってやる
そのとき、また僅かに唇が開いて 名前が聞こえた

「ナオヤ…………助けて……ナオヤ…………いかないで……おれを独りにしないで……!」

眼からは涙が伝っている。
「ミタカ……」
俺は何も言えずにタオルを握り締めて立ち尽くす。
(何も…何も出来なくてゴメンな……俺………いつも、お前に背負わせるばっかりで…)
親友が悪夢に苦しんでいるのに、俺はその助けになることを何もしてやれない
人に頼るばっかりで、ミタカに寄りかかるばっかりで…

「…………」
何かの贖罪みたいにミタカの汗をぬぐい続けていると、

"ピンポーン"

不意にまたインターフォンが聞こえた。
(何だ…また……)
俺が振り向いた姿勢のまま固まっていると

"ピンポン、ピンポーン"

と今度は二度、鳴らされる
俺はまた立ち上がると、とりあえず玄関の靴置き場の血溜まりには適当にダンボールを
敷いて誤魔化して、玄関を開けた。

「やぁ、やけに開けるのが遅かったねぇ?」

現れたのは、俺の家を訪ねてきそうな人間の中で、一番有り得ない奴だった。


×

「お…おまえは……」
驚いて後ずさった俺をよそにそいつは一歩玄関に入り、
バネで閉まりそうになる扉を背中で押さえてにやりと笑った。
「ん〜 いい反応だねぇ…そういう反応ならこっちも退屈しないよ」

「な…んで…お前が……あの時、確かに…」
俺が狼狽していると
「まぁ倒されたのは認めるよ…ちょっと悔しいけどねぇ? あの後さぁ……うっかりしてたら魔王……
 ああ、ミタカ君に呼び出されちゃってさ…ま、ボクの事なんてどうでもいいよね?」
と勝手にぺらぺらとしゃべり始めた。
「じゃあお前はミタカの仲間……仲魔?なのか?」
呟くと
「まぁ、そんなものだろうね……ボクとしては共犯者って言われるほうが嬉しいけど」
とまた哂う
それから、
「ミタカ君に頼まれてた事が判ったから来たんだけどさ…君の所にいるんじゃないのかい?」
と続けた。

「ミタカなら……今中で寝てるけど……」
部屋の奥を示すと
「へぇ〜…なら寝こみを襲うチャンスじゃないのさ」
とか何とか言って勝手に上がりこもうとするチャラ男を蹴っ飛ばして止めると、
「痛いなぁ…冗談の区別くらいはつかないと嫌われちゃうよ?」
とさして痛がってないような口ぶりで嘯く。

「…まぁいいや、君に伝言を残していくから 彼が起きたら伝えておいてよ」
そういってドアにもたれていた背を浮かせる。
その背後でゆっくりとドアが動き、そして音を立てて閉まった。
それからこいつが言った言葉は、俺を凍りつかせた。

「月森直哉の居場所がわかった」

「……!」
眼を見開く俺をよそに、チャラ男は続ける
「なんかここ2週間くらいずっとあちこち移動してたみたいだけど…今は……どうやら
 自分のアパートにいるみたいだねぇ…彼は」
俺の反応を愉しむ様に、ニヤニヤと

「ホント苦労したよ……彼ほどかくれんぼが得意な人間なんて居ないんじゃないかな?
 多分ボクほど有能な悪魔じゃないと場所が変わるだけでてんやわんやだろうねぇ…クククッ…」

チャラ男が何か言ってるけど、俺の耳には入ってなかった。
(ナオヤさんが…見つかった……)
それで俺はどうすれば良いのか、皆目見当がつかなかったけど

「…それじゃあ…ボクは帰るからミタカ君にヨロシクね〜」
そういってチャラ男はドアを開けて俺に一瞥をくれると、部屋を出て行った。

「…あっ……オイ!」

慌てて追いかけると、マンションの廊下には誰も居なかった。
ただ薄暗いいつもの景色が見えるだけだった。

俺は狐に化かされたような気分になりながら部屋に戻ると、
ベットで寝ていたはずのミタカも居なかった。

「…あ…あれ……ミタカ?」
キッチンにも、バスルームにも居ない
(…………まさか、今の話…)
聞いていたとしたら、まず間違いなくアイツはナオヤさんのとこに行く。

……けど、ナオヤさんが俺たちから連絡を絶ったなら…神を怨んだままだったなら…
多分、ろくなことにはならない

俺は慌てて玄関を飛び出し、雨の中を駆け出した。



・青山 某アパート前



「ナオヤ? いないのか?」
目の前のドアを適当にたたく、しかし返答は無い

気づいたらアツロウの家のベットで寝ていて、
何かじっとりとした汗をかいていたけど
玄関先で声が聞こえて外へ出ようとしたら

「なんかここ2週間くらいずっとあちこち移動してたみたいだけど…今は……どうやら
 自分のアパートにいるみたいだねぇ…彼は」

という言葉が聞こえてきた。
俺はアツロウには悪いと思ったけど、すぐさま飛翔でナオヤのアパートへ飛んだ。

それから延々と扉をたたき続けてるけど、
部屋の主が現れる気配はない。

「ナオヤ!返事してよ 居るんだろ!」
また呼びかけながら、俺は考える。


俺がアマネ―――天使や神に協力することを拒み
「俺が憎いか」と叫んだナオヤの顔が浮かぶ
いつも何かを企んでいてニヤニヤしているようなナオヤの
あんなに辛そうな顔を俺は初めて見た
ナオヤが何を思って 俺にあの言葉をぶつけたのか
本当に俺が神に協力することを良しとせず、あそこに現れたのか

俺にはさっぱり理解できなかった

 

ただ、ナオヤが俺を殺したのだと、
そういっていた

 

けれど、俺はアベルじゃない
ナオヤだってカインの記憶を持っているだけで
カイン自身ではないんじゃないかと思う

それをどうしてあそこまで信じ込み、辛そうにするのかが俺にはわからなかった。

 
だから俺はナオヤに会いたかった。
たとえ拒絶されようとも
もう一度会ってちゃんと話をしたかった
ナオヤが俺を見捨てているのだとしても
 

「居るってわかってんだからな!ナオヤってば!!」
さっきからたたいているせいで、もう右手が痺れてきた
ロキはここに居るといってたけど、人の気配が感じられない。
雨で静まり返った住宅街に、俺の声が滲んで消える。

(…中で倒れてたりしないかな)
いつまでたっても反応の無い事に不安になって、とりあえず開いてはいないだろうドアノブをひねると

 

カチャリ

 

存外あっさりと、そのドアが開いた。




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