・再び都内某マンション
「・・・うわ、本格的に降ってきた」
俺がPCから顔を上げて窓を見ると、空はさらに暗くなり
いつの間にか小雨からざあざあとした本降りになっていた。
俺はPCに光が反射して見づらくなくのが嫌で部屋の電気を付けてなかったけど、
流石に暗いと思って廊下側の壁にあるスイッチをいれる。
すると雨模様を映し出していた窓が光を反射しかわりに部屋の様子を映し出した。
“ピンポーン”
丁度その時にインターフォンが鳴った。
俺は玄関の鍵とチェーンを外し、ドアを開ける
すると玄関前には
封鎖内で見た翔門会の礼拝服じゃない、黒っぽいワンピース姿のアマネが立っていた。
当然というか何と言うか、頭にあった大きな花飾りも付いてなかった。
けどその神秘的な雰囲気は相変わらずで、小柄な身体からオーラみたいなもんを雨で湿る空気に滲ませていた。
「・・・お久しぶりです」
ぺこりと頭を下げるアマネに俺は思考を打ち切って、
「ああ、久しぶり・・・元気だった?」
と尋ねた。
アマネはちょっと首を傾げて
「はい、あれから母の元に身を寄せております」
と言った。
「そっか、今日はどうして俺んとこに?ってか携帯に連絡してくれれば良かったのにさ」
と言うと
「・・・いえ・・・その、月森さんからの連絡が途絶えまして・・・もしかしたら貴方の元にいるのでは・・・と思い訪問したのですが・・・」
と言いにくそうに言った。
「連絡・・・? アイツなら学校にも来てないし・・・携帯も繋がらないんだよな」
と俺が言うと
「・・・いえ・・・そうではなくて・・・」
なぜかアマネは口ごもった
俺はその態度に俺達の前からいなくなったミタカに繋がる何かを感じとって
「・・・もしかして・・・アイツのこと、何か知ってんのか?・・・教えてくれ!
アイツが今どんな状態なのか・・・何してんのか・・・・・・頼む、お願いだ!」
とアマネの肩を掴み頭を下げると、アマネは一瞬の躊躇いの後頷いて、続けた。
「・・・現在天使は魔王と成った彼に・・・人間界に於ける神の敵を排除させているのです・・・
私は神魔の声を聞けるという性質から、彼等の命を月森さんへと連絡する任を
与えられていました・・・今日も彼に一人お願いしたのですが・・・いつもなら、彼から
連絡があるのですが、今日は一切の反応が無くて・・・・・・」
「・・・それってさ・・・・・・つまり・・・アイツに人殺しさせてるってことだよな・・・?」
俺が呆然と呟くと
「・・・ですが、神の御心の下に命ぜられたことです。・・・ですから・・・・・・彼が罪に問われる事も
排除された人間がメディアに上がることも一切有りません」
アマネは目線を逸らし、俯いた。
「アイツがやらされてるのって・・・要するに汚れ役じゃんか・・・・・・神が自分でやればいいのに
自分の手を汚したくないから、魔王になっちまったアイツを利用してるだけじゃんか・・・!」
俺がアマネに詰め寄ると、
アマネは俯いたまま、さらに小さな声で呟いた。
「・・・・・・それが・・・、・・・神に仕えるということなんです・・・」
「・・・!」
俺はそんなアマネの態度に、彼女も責任を感じているんじゃないかと考えた。
自分が天使に言われるままアイツを救世主にしちまったから・・・
「・・・・・・あ・・・っと・・・、ゴメンな・・・・・・急にカッとなっちまって・・・」
俺はさっきまでの自分の態度を思い返し、恥ずかしくなった。
自分より年下の女の子に八つ当たりなんて・・・
「・・・いえ、いいんです・・・・・・」
アマネは顔を上げて、少しだけ微笑んだ。
「・・・すみません、お邪魔しました・・・・・・私も、天使達にまた・・・
こういう事を控えてもらえ無いか・・・頼んで見ます・・・」
そういって最初と同じ様にぺこりと頭を下げてドアの連なるマンションの廊下を
歩いて行った。
俺は玄関先に立ったまま、霧でぼんやりと霞んだビル群を眺め、雨音に耳を傾ける。
(ミタカ・・・・・・お前・・・大丈夫なのか・・・・・・?)
今も変わる事の無い親友を想いながら。
・再び廃工場内
床に多数のチンピラが転がり呻いてたりうずくまったりしている中で唯一無事な男を見る。
フードに隠れた俺の顔がどう見えたのかは知らないけど、
男は尻餅を付いたまま
「ひッ・・・た、助けてくれ!・・・い、いやだ・・・っ・・・来るな・・・来るなぁ・・・・・・ッ」
と全力で俺を拒絶しながら、後ずさる。
俺はそんな男を何の感情も交えずに見下ろし、普通の歩調で近づく
この男が何をしたのか、何をしてきたか、妻がいるのか子供がいるのか実は不倫の真っ最中なのか
そんな事は一切興味が無い。
ただ、言われるままに殺すだけだ。
どうせ見放された俺には何もないのだから
男の前まで来ると、屈んで男の首を掴み上げる。
「ヒィ・・・ッ」
俺よりも背の高い男は軽々と俺に持ち上げられる。
「・・・・・・・・・」
じたばたともがく男を眺め、とっとと済ませようとした時
「&%#=<*\~./]";%#&!!!」
男が言葉になってない言葉を喚き、一層暴れる。
「・・・・・・っ」
それで倒されないよう身体に力を入れた時
「!」
ドスリと、自分の右腕に響く、有り得ない音を聞いた
俺はそこから噴出す痛みと熱に顔をしかめながら
首を掴む手に一層の力を込める。
「・・・ごめんなさい」
そして男は動かなくなった。
俺は男を放り出すと、雨の中を駆け出した。
・都内某マンション
俺は部屋でPCの前に座ったまま、作業をするでもなくぼんやりとしていた。
アマネから教えられたミタカの事情
アイツが学校に来ないのは多分天使や神関連のことをやってるんだろうってことは
見当がついてた。
(…けど、だからって…こんな……こんな役割ってねぇよな…)
心中でぼやきながら、俺は思案する。
俺から天使達に接触する機会はほぼ無いと言ってもいい。
俺にはアマネみたいな性質はないし、COMPも使えない今、ただの人間だ。
…だからといってこのままミタカを都合のいい駒みたいに利用する天使達を放置したくもない。
(一番可能性があるのは…やっぱナオヤさんを探すこと…だろうな…)
あの人なら、この状況からミタカをなんとかする方法を見つけ出せるかもしれない。
正直他力本願だって事は分かってた。俺の自己満足だとも思う。
それでも俺は俺の親友を放ってはおけなかった。
ナオヤさんが行きそうなところを考えながら、念のため携帯にメールを入れてみようと携帯を開いたとき、
”ドンドンドンドンッッッ!!”
また玄関が誰かが来たと音を立てる。
(…インターフォンを使えば良いのに……)
俺はその盛大な音に嘆息しながら、さっきと同じように鍵とチェーンを外す。
すると、
「アツ、ロウ…ッ!」
さっきまで話題に上がっていた、ミタカその人がびしょ濡れで転がり込んできた。
「…え、ミタカッ!? お前 どうしたんだよ……こんなびしょ濡れで…ってかさっきアマネが…」
数週間振りに会う親友に何を言っていいものか、若干焦りながらその体を支えると
「ごめ…ちょっと…場所借りる…」
言うなり、玄関先にぺたりと尻餅をつく。
とりあえず俺はバスタオルを持ってきてびしょ濡れの体を拭いてやろうとすると、
ミタカの体から零れた雫がやけに紅いことに気がついた。
「お前…コレって……」
改めてミタカの体を見ると、右腕の付け根辺りから折りたたみナイフの柄が覗いていた。
「…お、おいっ……怪我してんじゃんかよ!!……俺、包帯とかっ…」
慌ててまた部屋に戻ろうとすると、
「…いい、……大丈夫だから…」
と俺の服の袖を左手で掴む
立ち止まって振り返った俺をよそに、
ミタカは左手をナイフの柄にあてがうと、
「…ぅ…ぐっ」
うめき声を押し殺しながらもあっさりとソレを抜いた。
床に転がるナイフと、
途端溢れ出す紅い血液
俺が持っていたバスタオルをあてがう前に、ミタカの右腕の傍にピクシーが現れた。
「うっわぁ〜痛ったそ〜…大丈夫〜?」
ひらひらと腕の周りを飛び回りながらピクシーが言う。
ミタカはあくまでマイペースな仲魔に苦笑すると、
「……大丈夫じゃないから呼んだんだよ…ゴメン、治して…」
と言った。
「おっけぇ〜 任せて!」
言うなりピクシーが両手をミタカの傷に向けると、青白い光がともり始め
ものの数分で傷はふさがってしまった。
ミタカはピクシーに礼を言うと、また帰還させた。
ピクシーは
「あ〜っ アッ君じゃ〜ん!久しぶりぃ〜 また遊んでねぇ〜」
と俺に手を振って帰っていった。
「………」
静かになった玄関で、俺が何か言おうと口を開くと
それよりも先にミタカが
「ゴメン…玄関汚した……」
と申し訳なさそうに言った。
「気にすんなって、お前の怪我の方が大事だろ?」
といってバスタオルを渡すと
「…ありがと」
礼を言いながらバスタオルを受け取った。
それからびしょ濡れのミタカを風呂に入らせて、
俺の服を貸してやった。
よほど疲れていたのか、俺がキッチンでコーヒーを作って持って来た時には
ベットの端に座ったまま眠っていた。
「たぶんまだ天使やアマネも来ないだろうからさ…今はゆっくり休めよ……」
俺はコーヒーカップを机に置くと、ミタカをベットに寝かせ布団をかぶせた。
それから自分はPCラック前の椅子に座り、その寝顔を眺める。
前にあっていたときよりも痩せた様に見えるその顔はまだ残暑が厳しいのに白くて、
目の下にははっきりと分かる隈が現れていた。
「…お前……今の今まで…ずっと……どこで、何してたんだよ…たった一人で…俺たちに何も言わずに…」
巻き込みたくないが故の行動なんだろうか
それとも…別の考えがあるんだろうか
俺はミタカの考えていることを読み取ろうと推測を巡らせる。
とりあえず繋がるかはわかんないけど、ナオヤさんに連絡を取ろうと廊下へ出る。
玄関に残った血溜まりを眺めながら、携帯を耳に押し当てる。
1コール、2コールと電子音が響く
…………3コール、4コール、5コールした所で、電話が留守電に切り替わった。
『…だだいま、留守にしております…ピーっという発信音の後に……お名前とメッセージを…』
合成音声をやり過ごし、一応メッセージを入れる。
「…あ、俺です…アツロウです……ナオヤさん?…今……どこにいるんですか…連絡、まってます…じゃ…」
メッセージを入れるのは3回目だったけど、もしかしたらナオヤさんのあの様子だと、
俺たちと二度と会わないのかもしれないと思った。
けど、もしもナオヤさんがミタカを”アベル”とだけじゃなくて”ミタカ”として見てたなら…
また、ミタカの前に現れるんじゃないかって期待もあった。
「……、………、……」
部屋のほうから、微かに声が聞こえてきた。
ミタカが眼を覚ましたのかもしれない
俺は携帯を仕舞うと部屋に戻った。
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