Day After Route AMANE

・9月某日 都内公立高校

今日もミタカは来なかった。

8月の封鎖からもう二週間経った。
夏休みも終わって、また退屈で当たり前の学校生活が始まった。
その日常の慌ただしさに紛れるように、封鎖での経験も幾分か和らいで
あれは夏の夢だったんじゃないかと思うことさえも時々あった。
けど、新学期が始まって一度もミタカが登校していないことが日常に僅かな
ささくれを生じさせていた。
封鎖後の夏休みはなんとなく気まずくて、私の方から彼を避けていた節があったから
彼があれからどうしているかは判らない。

(ミタカが学校サボるなんて事なかったのに・・・)
授業が終わって帰る途中、校門へ向かう人混みの中に彼を探しながら、心中で呟く。
(・・・アツロウに聞いてもわかんないっていうし、どうしたんだろ・・・)
とりあえず歩きながら、今にも雨の降り出しそうな空を眺める。
彼もこの曇り空を眺めているんだろうか


「ちょっとユズーっ 何してんのよ!はやくはやく!」
「早くいかないと限定アイス無くなっちゃうでしょー」
「あ、でもユズはいつもチョコミントだからいっかー」


けらけらと笑いながら先を歩く友達が私を呼ぶ。
何気に勝手な事を言われてる気がする・・・
「ごーめーんー 今行くから!置いてかないでよー」
返事をしながら駆け出す。
途中で校舎の方を振り返ると、屋上に誰か立っているように見えた。
その姿は逆光になってはっきり見えなかった
もう一度よく見ようと立ち止まると、

「だーかーらぁー置いてくってば〜!」

また友達が私を呼ぶ。
それで我に返って私は彼女達の後を追いかけた。
その時既に人影は屋上から消えている事に気づかないまま




・夕刻 都内廃工場前

俺は学校の屋上から飛翔で移動すると、今朝言われた廃工場へやってきた。
携帯に連絡された位置をもう一度GPSで確認し、
パーカーのフードを被り直す。
それから僅かに小雨の降る、高層ビルに細長く切り取られた空を眺め、
多分に湿気を含んだどこか静謐な空気を肺一杯に吸い込む。
「・・・・・・・・・」
そして背後で口を開いていたかつての搬入口へ歩いていった。



・同時刻 都内某マンション

「・・・んー、なんっなんだこれ・・・・・・」
俺はPCのモニタに映し出された様々な記号や数字の羅列を眺めながら頭を抱えていた。
封鎖後ずっとPCの前で格闘してんのに、そのプログラムの傾向が見えて来ないのは何故だろう・・・
「やっぱナオヤさんて天才なのな・・・・・・ハァ」
ぼやきながらPCに繋がれた手の平サイズの機械を見下ろす。
これだけの大きさの中はブラックボックスなんて、どんだけあの人の頭の中は凄いんだ。

気を取り直してキーボードにまたプログラムを打ち込み、また修正する。
プログラムなのになぜかアッカド語やヘブライ語みたいな古典的なものが使われていて、
それがまた厄介さを三割増ししていた。
手っ取り早くコレの制作者に助言を仰ぎたかったけど、制作者であり俺の師匠のナオヤさんは、
封鎖での戦いの後俺達の前から姿を消した。

ミタカの事を“アベル”と呼び、俺達が神に従う事を拒み戦いを挑んできた、
俺達が決して敵と見なすことは無かった筈の人

アマネ――レミエルが言うには、ナオヤさんは“カイン”だったのだと聞いた。
かつて神に供物を拒絶され、そのため自分の弟を石で撃ち殺した原初の罪人だと。
そして現在までずっと転生を繰り返しているんだと。
俺はその話を聞いて、ナオヤさんの先読みや独特の発想はそこから来ていたと納得すると同時に、あの人を初めて怖いと思った。

誤解の無いように言うけど、あの時は対立したけど俺は今でもあの人を尊敬してる
ただ、紀元前・・・あるいはもしかしたら地球が出来た辺りからずっと、ずっと神を怨んできた。
その憎しみを、普段のどこか瓢々としたような態度の裏でずっと煮詰めてきたんだと思うと、
そして何度も何度も何度も別れや死を経験して来たんだと考えると、ナオヤさんの歩んできた人生が怖かった。
ミタカも“そんなのは拷問だ”と言ったけど、
天使や神の価値観はやっぱ俺達人間とは違うのか、それを“慈悲”だと言った。

それから封鎖が解除されて、
ミタカも俺達から連絡を絶った。
学校にも来ず、かといってナオヤさんを探している気配でも無い。
俺はそんな日常に無理矢理引っ張り込まれた非日常に違和感を感じながら、
とんでもないことが起こったのに以前と変わらず流れて行く日常に異常さを感じながら、
ただ非日常の断片を説き明かすことに没頭していた。
今考えればそれは神に従ったことに対する逃避だったのかもしれない。



・廃工場内

「っのヤロォッッ!!」
俺に向かってくるチンピラをあっさり避けると、
メールに添付された写真と俺を取り囲む連中を見比べ、目標の当たりをつける。

それから鉄パイプを振り上げたチンピラの、がら空きの腹に蹴りをぶち込み、
そのままそいつをその後ろにいた別の奴へとぶつける。
すぐ脇をナイフが掠めたけど構わず振り向き、その勢いを使いラリアットの要領で
男の鼻っ柱をへし折る。
そしてようやく目的の男に向かって足を進めると、

俺よりも年上の男は驚愕に眼を見開きこう叫んだ。
「おまっ、お前・・・なんだよ・・・何なんだよぉおぉぉおおおぉッッッ!!!」

俺はそのちんけな言葉に苦笑を漏らすと、自虐的に呟いた。
「―――――魔王だよ」




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