「これは…!?」
寮の床に現れた扉の下には、広大な砂漠が広がっていた。
先がぼやけてどこまであるのかが全く見えない砂漠に埋まる様にして扉が立っている。

「これが、”時の狭間”…この周辺の地下に、恐らく木の根のような形で
 広がっていると思われる未知の領域です」
アイギスが周りの情景を確認するのを見て、メティスが言った。

「いつの間に、ラウンジの地下に、こんな…」
茫然とするアイギスに、メティスは淡々と説明を加えていく
「初め、時の狭間は、閉じられたごく狭い場所でした。それが、ある日を境にみるみる広がりだして、
 最後に、あなたたちの寮に繋がったんです」
「やはり見た目の通り、人が作った空間じゃない訳か。タルタロスのように、何か厄介な力で
 ”発生した”という事かも知れないな…」
美鶴が思案げに腕を組み呟くと、順平が肩を落とし、うんざりしたように言った。
「ったく…そういうのもう、カンベンしてくれよ…」

「言葉だけじゃ伝わらないかも知れませんが、この中は、時の流れが普通じゃないんです
 時間の空回りも、出られなくなった事も、間違いなくこの場所の影響でしょう
 あなたたちが無事に助かるには、何とかして”この時の狭間を消し去る”しかありません」
メティスはアイギスの方を見ながら、“助かる方法”を提示してくる。

「消すって言われても、そんなのどうすれば…」
ゆかりが戸惑ったように言うと、
「とりあえず、最も簡単で可能性の高い方法は、既に試しました。…”あなたたちを消すこと”です
 時の狭間が、まるで引き寄せられるみたいに寮と繋がったこと…そして、時間の空回りを、
 あなたたちだけはなぜか”自覚”できていること…明らかにあなたたちは、今回の”原因”と
 深い関わりがあります」
メティスはあっさりと言い放った。

「だから襲ったのか?私達を消すために…」
美鶴が渋い顔をしながら言うと、順平がメティスに噛み付いた。
「んな、知るかよ!こんな場所、見るのも初めてだっつの!」

しかしメティスはそれを意に介さず
「他の方法で時の狭間を消すとしたら、後はもう中に入ってみるしかありません
 原因をじかに探し出して叩くんです」
またあっさりと言った。

「それはつまり…戦う覚悟で”探索しろ”ということか?」

美鶴の言葉にメティスは頷いた。
「アイギスを守るなら追加装備を着せるべき、と私が言ったのは、そのためです」
その言葉にアイギスが自分の身体を改めて眺めると、鉄鋼弾のついたベストに、熱を逃がすラジエータ、
それに目を保護する為のゴーグルといった追加装備が施されていた。
「ごめんねアイギス…あの子が、“アイギスを助けたいなら着せるべきだ”って言うから…
ここから出てきた装備をあなたに着せたの」
風花が申し訳なさそうに囁いた。

「待ってよ…冗談でしょ?タルタロスん時みたいな事を、またやれっての!?」
「つか、オマエの言葉まる呑みにして、こんな、いかにもな場所に突っ込めっかよ!」
ゆかりと順平が再びメティスに噛み付くと、
「じゃあ、他に手があるんですか?
 寮の地下がこうなって、時間が空回りを始めて、出られなくなって…」
メティスは二人を見返して言いかけると、そこで初めて風花が大声を上げた。

「あ、出られないって事は…食べる物とかは!?もし何十日もこのままだったら…
 食べ物とか全部無くなって…私たち…飢え死に!?」
他の全員もその事に思い至ったのか、はっとしたような顔をする。
「ありえねーッ!!」
順平が思わず叫ぶと、メティスだけは冷静に

「今のままが長引けば、更に危険が増すかも知れません。でも全員が助かるとしたらこれしか無いから、
 敢えて言ってるんです」
きつい口調で言うメティスを見かねたのか、アイギスがそこで口を出した。
「わたしたちだって、もちろん助かりたいって思ってる。でも敵として現れたあなたに、
 身の安全を簡単に預けられないのは分かるでしょ」
「だいたい、目的からして信用ならん。アイギスを守ると言っていたが、お前にとってどういう得になる?」
真田がさらに詰問すると、メティスは真田を睨み叫んだ。
「得って…私は本当にただ、大事だから…!たった1人の姉さんなんですよ!?」

そんな彼女に美鶴は冷静に言った。
「その件は…少し事実と矛盾するな。アイギスはラストナンバーで、彼女より後に同系機は造られていない
 それに、君がこの”時の狭間”に初めから居たような口ぶりなのも解せない。ここは”不明領域”で、
 外と繋がって無かったんだろ?」
その言葉にメティスは怒りを萎ませ、困ったように俯く。
「そ、それは…」
「アイギスを守る為に俺たちを襲ったってのも、考えてみれば兵器としてはあり得ん行動だな」
「それは…私は…その…」
真田の追及にも困ったように俯いたままだった。

「つーかさ…今度こそちゃんと答えろよ。まだなんか企んでんなら、2度もやられる気はねえからな…」
順平が彼女を睨むと、メティス開き直ったようにまた怒鳴った。
「わ、私の事は…いいでしょ!?知ってどうなるんですか!それに、時間を無駄にできないって、
 さっき言った筈です! ほら、ついてきてください それとも、全部あきらめる気ですか?
 なら最初から私に討たれて欲しかったです!」
「なんだとっ!?」
その場がまた一触即発の空気に呑まれそうになった時、再びアイギスが口を開いた。

「確かにわたしたちには、もうここへ踏み込むしか道はないのかも知れない…でも、そういう事を言うなら、
 あなたと一緒には行けない」

メティスはその言葉に愕然としたような顔をした。
「え、私…抜きで? はは、そんなの出来るわけ…わ、私は、この時の狭間の事を一番知ってて、
 あなたたちには、私が、必要で…」
そこまで言ったところで、順平が呆れたように言う。
「はあ?なに勝手に決めてんだ」

唖然とするメティスに、アイギスは諭すように言った。
「戦いは命がけのもの。貴方が仲間をそんな風にしか考えられないなら、一緒には行けない」

「そんな…」
メティスは最早泣きそうな顔になっている。

「残念だったな。ぜいぜい1人で取り残されてろ」
順平が追い討ちのように言うと、
「…! 1人で…残る…」
「…それとも、敵にならんようにここで引導を渡しておくか?」
真田もまたメティスに対し厳しい態度を取る。

「そ、そこまでしなくても…」
二人の態度に風花がメティスを庇おうとすると、

「…めん…なさい」
メティスの方から小さな声が聞こえた。

「ごめんなさい…私…アイギスに嫌われたくない…言う事聞く!
 聞くから…置いてかれたくない…」
ほとんど泣きそうになりながらメティスが言う。

「……」
アイギスはそんな彼女の様子をただ黙って眺めているだけだった。
「…今さら猫かぶったって遅せーっての」
順平が吐き捨てるように言うと、天田がそれに対し呟いた。
「でも、アイギスさんを守りたいって動機に裏が無いのは、本当なのかも…」
「…どうします、先輩?連れて行きますか?ハァ…なんかもうやるしかないんなら、私的には
 事が早く済む方でいいって感じですけど」
ゆかりが美鶴にメティスの処遇を求めると、美鶴はみんなの前に立ち、言った。

「みんな、ちょっといいか。どうやらまた以前のように、探索と戦いをしなければならなくなった
 そこで思ったんだが…今回、私は現場の指揮をアイギスに任せようかと思う
 ペルソナを付け替える力を得た者が中心に立てば、全て前と同じにやれるだろ
 そして、指揮する君が認めるなら…メティスを同伴してもいいと思う」

「…全部前と同じってわけじゃないですよ」
アイギスは天田がそう呟くのを複雑そうに見遣ると、メティスの前に一歩進み出た。

「わたしを守りたい気持ちがあるなら、わたしたちみんなの為に戦って。仲間を傷つけるなんて
 絶対ダメ。…約束できる?」

諭すように彼女の眼を見て言うと、メティスはすぐに笑顔になり頷いた。
「うん!」約束する!」

「フン、面倒が起きなきゃいいがな」
真田がどこか苛立たしげに呟くのを横目で見つつ、荒垣がアイギスに対し尋ねた。
「そうだ、お前…今も話に出たが、”アイツ”と同じ力が目覚めたって…どういう事だ?」
するとアイギスは困ったような不安そうな顔をして自分の掌を眺める。
「それは…自分でも、よくわからないんです。このままじゃ、また”別れ”が降りかかると思って、
 怖くなって、そうしたら急に…」

「メティス…だっけ?あんたは何か知らないわけ?」
ゆかりがメティスに話を振ると、メティスは困惑したように彼女を見返すと
「そんな、会ったばかりですよ?…と言うか、同じ力を持つ知り合いがいるなら、
 その人に訊けばいいんじゃないですか?」
と言った。

「……」

その言葉に、誰もが複雑な顔をするのに、メティスは気付いていなかった。

「しかし、また戦いとなると…この姿って訳にはいかないな」
重苦しい空気を切り替えるように美鶴が呟くと、真田が同じく自分の私服を眺めながら言った。
「まあ、俺やお前も書類上はまだ月光館の学生だしな」
美鶴はひとつ頷くと、風花の方を見て言った。
「山岸、済まないが、作戦室へ行って全員分の腕章を取って来てくれるか」
風花はその言葉に、一瞬宇海の方を見て、それからまた美鶴の方を見る

「あの…全員……っていうと…」

その様子に彼女の言わんとする事を察したのか、美鶴が再び頷く。
「…ああ、”彼女”の分も含めてだ」

「わかりました…あ、そうだ、床が開いたときに出てきた物…作戦室に運んだんで、追々調べてみます
 何か分かるかも知れないですし」
そういって寮のラウンジへつながる階段を上って行った。

「よし、いったん戻ろう」
風花が登って行ったのを確認し、美鶴が皆に声をかける。
その声で皆が彼女のあとに続くと、時の狭間にはメティスとアイギスが残された。
アイギスが登らないのかと言うようにメティスを見ると、彼女は言いづらそうにアイギスに声をかけた。

「あの…アイギス?」
その声に階段の方を向きかけた身体をメティスに向けると、彼女はは俯きがちになりながらも
アイギスを見つめ、小さな声で呟いた。

「あの…私、ちゃんと言う事聞くから、その…姉さんって…呼んでいいですか?」

これまでずっと肉親と呼べるものを持たなかったアイギスにとって、その言葉はとても温かく響いた。
「……」

すこしの戸惑いと、それ以上に胸に広がる喜びに微笑むと、アイギスはその願いを聞き入れた。
「…どうぞ」
「ありがとう…姉さん!」
メティスは花が咲いたように微笑むと、先に行った仲間を追って階段を駆け登って行った。




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アトガキの様なもの
なんだかんだ言って、ようやく本編入れそうです。
待たせてしまい本当にすいません。
P3の時よりも進みが遅いような気がしますが、どうぞ気長にお付き合いくださいませ



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