「わた…し…」 確かラウンジでメティスと戦闘を行っていたのではなかったか。 それから、頭部に衝撃を受けて……アテナが”彼女”のペルソナに変わって… 落ち着いてきたことで、先ほどの状況が把握できるようになってくる。 けれど彼女はラウンジではない、これまで見たこともない場所に座っていた。 突然の状況に混乱を隠せないでいると、目の前に座る老人が再び口を開いた。 「ほう…これはまた…とびきりの珍しいお客人ですな。 貴方は”人形”…それとも“人間”…フフ…どうも、私と似た定めをお持ちのようだ」 ”人形”か”人間”か…その言葉にそうかもしれないと感じながら、アイギスは状況を明確にしようと 目の前の老人へと問いかけた。 「あの…ここは、一体…あなたたちは…」 「おっと…申し遅れましたな……私の名は、イゴール。こちらに控えておりますのはテオドア… 共に、この”ベルベットルーム”の住人だ」 老人はその問いに笑みを浮かべると、自らの名と傍らに控える男性を手で示した。 男性もまた丁寧に名乗りを上げる。 「テオドアと申します。お見知りおきを」 それから老人はまるで何かを懐かしむようにもう一つの問いに答えた。 「ここは…精神と物質の狭間にある部屋……何かの形で契約を果たされた方が訪れる場所… そう…貴方は”契約”をなされたのです…”ワイルド”の力にお目ざめになった事でね。 今から貴方は…この、ベルベットルームのお客人だ」 アイギスは老人――イゴールの言葉に、疑問を隠せないとでも言うように小さくつぶやいた。 「ワイルドの力…?」 イゴールは疑問が出ることも承知だとでも言うように頷くと、机の上の山の中から一枚のカードを取り出した。 そのカードには戦車が描かれており、彼がカードに手をかざすと絵柄が犬と旅人を描いた愚者へと替わった。 「ご存じのはずです。複数のペルソナを持ち、使い分けてゆける力… つい先日まで、ここの客人だった少女も同じ力を持っておりましたな」 その言葉にアイギスは椅子から立ち上がり、イゴールに問いかける。 「あなたは”彼女”を知っているんですか?」 イゴールはまた慇懃に頷くと何かを思い出すように眼を閉じ、満足げに囁いた。 「フフ、存じておりますとも。彼女は見事”命のこたえ”にまでたどり着いた…」 「命のこたえ…」 彼女がたどり着いたという”こたえ”…そして今現在の、彼女の状態… 彼の言葉に、アイギスは彼女がああなってしまった理由がそこにあるのではないかと感じ始めていた。 イゴールはそんなアイギスの様子を眺めながら手に持ったカードをまた山の中へ戻すと、 「貴方の得た“ワイルド”の力は、それへと至る前ぶれなのです」 と説明した。 ペルソナを自由に扱う”ワイルド”の力……”命のこたえ”……そしてそれに辿りついたという、彼女……… そんな事を連想ゲームのように考えたアイギスの口からは、自然とその疑問がこぼれだしていた。 「こたえに辿りつくというのは…もしかして……”終わりを迎える”…という意味ですか?」 イゴールはその言葉に対し、 「命あるものはみな、こたえを求める旅路にあり、旅の終わりで、それを知る… 貴方にもし、絆で結ばれたご同朋がおいでなら、このように覚えておかれるとよいでしょう… 心の力が一つに集う時…いかなる扉も開かれる……あの少女の時も、そうでございました 私から申し上げられるのは、ただそれだけでございます。」 明確な回答を告げず、どこか深遠ともとれる言葉を口にした。 「……」 なんと答えていいのか、アイギスが口を噤むと 再びイゴールが眼を見開き、言った。 「さて、あまり長くお引き止めする訳にも参りませんな… どうやら”試練”の始まりが、貴方を待っているようだ」 その言葉に遅れて、彼女の体を違和感が襲った。 「…!? 今の感じは…!」 辺りを見回しても、先ほどと変わらずエレベーターは どこともわからない外の光を時たま映しながら動き続けている。 再びイゴールにどういうことかを尋ねようと彼を見ると、 「…貴方には、必ずしも私どもの助けが必要となりましょう…これをお持ちなさい」 イゴールは自らの手から何かを取り出した。 それはひとりでに浮き上がり、アイギスの手のひらまで吸い込まれるように移動してきた。 思わず手に取ると、それはこの部屋と同じ青に染められた鍵だった。 「次からこちらへは、ご自身の足でこちらにいらっしゃるがよろしいでしょう」 鍵を眺めているうちに、だんだんと彼女の視界が狭まりはじめた。 慌ててイゴールを見るが既に景色が遠くなっており、彼女の集音マイクにイゴールの囁き声が響くだけだった。 「では、その時まで。ごきげんよう…」 真っ暗になった視界の中で、アイギスはぼんやりと先ほどのやり取りを思い出し、考えた。 わたしはかたつて…”生きる”と決めた。 それからのわたしに起きた、色々な変化… ”ワイルド”への目覚めが、 もしも”命”に近付いている事なら… その果てにある”こたえ”というのは、 やっぱり、終わるということ…? その時彼女は…自分でも驚くほど自然に、特別な痛みもなくそう感じていた事に気づいてはいなかった。 × 今でもたまに夢に見る、大きな満月 横転した車と、立ちつくす自分。 両親を、彼女の名前を呼ぼうにも、声が出ない 鼓膜の中をブレーキ音が反響していて、妙に世界は静かだった 擦りむいた足を叱咤して辺りを探し回ると、すぐに彼女は見つかった。 けれど彼女以外にも、何か奇妙な存在がそこにいた。 襤褸を纏った異形と戦う、月明かりを反射する金髪の少女 彼女はそれをじっと、じっと眺めているだけで動こうとはしない 僕はなんとか彼女のもとへ行こうとするけれど、いつもの夢と同じように足はそこで動かなくなる。 そうしているうちにも異形と少女の戦いに決着がつく。 膝をつく少女と、それをただ見降ろす異形。 そして彼女 僕がその先を見たくないと願っても、見開かれた眼は視線を逸らすことはない。 それから それから……少女の手が、彼女に ただそこに立っていただけの、彼女の躯に ゆっくりと けれど確実に の ば さ れ て ―――僕の絶叫が夜空を震わせたが、僕自身には聞こえなかった。 × 「……ッ!?」 夢の中の自分の悲鳴に強制的に意識を覚醒させると、見知らぬ部屋のソファの上で毛布を掛けられていた。 「………?」 身体を起こすと背中と腕に痛みが走り、額から濡れタオルがずり落ちた。 それから辺りを見回すと、奥の方で美鶴と見知らぬ男女が立っており、なにやら話をしているようだった。 「…だから、アイツが誰なのか説明してくださいよ」 「落ち着け…天田」 「それはアイギスが目覚めてからだ。正直…今の状況では私も含め落ち着いて状況を把握できないだろうしな…」 「…でも…私たち以外にもペルソナ使いがいたなんて……」 「ってか…彼、なんで召喚器の使い方知ってんの……?」 「そもそも、奴だけじゃない…お前らを襲ってきたっていう…アレの処遇も考えんとな」 「…オイ?聞いてんのかよ?………って寝コケてるし!……ますます何なんだコイツ…」 「……あの………、あ…」 声をかけようとしたところで、向かいのソファに寝かされていたらしい金髪の少女も眼を覚ましたようだった。 「……、……」 ゆっくりと眼を開け、身体を起こした所で白い柴犬がよってきて彼女を心配そうに見やる。 「ワン、ワンッ」 その声に先ほどまで話をしていた全員が振り返り、数人がこちらまでやってきた。 「アイギス!」 「アイギス、…大丈夫なの!?」 「……わたし…」 アイギスと呼ばれた少女が顔をあげ、周囲に集まっている人々を見回した時にその人だかりの向こうにいた僕と眼が合った。 「…貴方は…!」 そこでようやく彼女以外の人々が僕に気付き、一斉にこちらを向いた。 「あ…あなたも起きたんだ……」 「よかった…」 何人かが安堵の声をあげる中で、先ほどの少年が僕を睨み、また声を荒げた。 「あなたは何なんです?どうしてアイギスさんを攻撃したんだ!…そもそもなんであの部屋に…っ」 少年がさらに言い募ろうとした所で、美鶴がそれを遮った。 「待て天田、それは私が説明する…」 それから僕の方を見て、“説明してもいいか”というような視線を向ける。 その視線に小さく頷くと、彼女は全員を見据え、僕が誰なのかを告げた。 「…そこにいる彼は…“彼女”……侑里深宙の兄だ」
アトガキの様なもの
ベルベットルームと回想メインの今回。
台詞が大半な感じになってしまっているような気がします。
ようやくオリジナルキャラの正体も明らかになって、いよいよ本格的(?)に
スタートするかな…といった具合です。本当はこの回でスタート予定が
まとめきれずベルベットルームでの会話でほぼ一話使ってしまいました…orz
のばされて の描写は管理人が好きなラノベ作家さんの文章を意識してみました。
気になる方いらっしゃったらなおしますね
次回から(多分)探索なのでまたその辺もどうするか考えつつやっていきますので
どうぞよろしくお願いします。
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