ラウンジから集まった全員が、アイギス達が見つけた扉の前に合流すると、 アイギスは扉の前に立ち、扉をしげしげと眺めていた。 「この扉は…」 アイギスの呟きに、メティスが頷き答えた。 「どうやら…第一の”終着点”みたいですね」 「想像してたより、だいぶ広いな…こんなのを、あと何回こなすんだ?」 真田がメティスに問いかけると、メティスは肩をすくめて言った。 「私にも詳しくは分かりません。でも、”扉の間”の様子から考えると、一度や2度じゃ済まない感じですけど」 その答えに、ラウンジの下に広がる扉の間を思い出す。 あの空間には、まだ幾つもの扉が残されている―――― 「うえっ…やっぱり?」 大方予想は付いていたのか、ゆかりがげんなりとして俯いた。 「目指す”発生源”は、全ての源な訳ですから、普通に考えれば一番奥でしょう」 「どのみち 最後まで行き着くしかないって事か…」 「まるで本当にタルタロスの再来だな」 「構造にも、部分的に似た所があります」 「つーか、ご丁寧に“シャドウ”まで居やがるしな…やれやれ…もう2度と見ないで済むと思ってたのによ …けど、そう言や影人間なんかはすっかり居なくなったのに…なんでだ?」 「それも探るしかあるまい…なにしろ、分かるまで出られないんだからな」 真田の答えに、順平はまた大仰にため息をついた。 「ハァ…」 その時、天田がふと俯いた。 「ん…?どうした?」 荒垣が尋ねると、 「いえ…別に。ただ…何て言うか…辛い事とか、沢山あって、ようやく平和に戻れたのに… だから僕、”ちゃんと生きよう”って決めてたのに…これじゃ全然、昔と何にも変わって無くて…」 「天田…昔と変わってねぇ、って気づけるだけでも…進歩だろ」 荒垣がそう言うが、天田は聞かない 「気付くだけじゃダメなんです!ちゃんと生きて、大事な人を守れるようにならなきゃ…」 「天田君…」 メティスは場の会話をしばらく眺めていたが、ふと呟いた。 「ここは、時の流れが普通じゃない場所…“過去”を感じたとしても、少しも不思議はありません そういうものに触れるきっかけなんて、ここには幾つもあるんですから」 その言葉に、宇海が首をかしげる。 「どういう意味…ですか?」 メティスは宇海を一瞥すると、見た方が早い…とでも言うように扉の前まで歩いて行く。 すると、扉はメティスが近くに来ると、音もなく開いた。 向こうにはただまっ白い光があふれており、皆は光に包まれたと思うといつの間にか 扉の向こう側に出ていた。 光の眩しさが収まると、そこには何度も足を運んだ事のあるポロニアンモールが広がっていた。 「ここは…え…ポロニアンモール?でも、私たち、たった今まで…」 「どうなってる…?外へ出られたのか?」 突然の出来事に皆が驚きを隠せないでい中、コロマルだけが周囲を確認するように走り出した。 「でも、なんか変だよな…つーか…妙に暑くないスか?」 そんなコロマルを眺めながら、順平が尋ねる。 その言葉に全員が周囲の気温に気付く。 確かに、暑い…現在の月光館学園の冬服では暑すぎるくらいだ。 おかしい、ここは確かにポロニアンモールだが…何かがおかしい そう思い始めた一同に、ふと声をかける人物がいた。 「お前たち…」 見ると、すぐそこにある交番の黒沢巡査が厳しい顔をして立っていた。 「黒沢さん」 真田が答えると、黒沢巡査は真田の前に立ち、聞いてきた。 「どうした…こんな平日の昼間に。学校はどうなってる」 「いえ、今、春休みなんで…」 瞬間的にゆかりが答えると、巡査は呆れたような顔をして言った。 「春休み…?何を言ってる、今は6月だろうが、しかも何なんだ、 後ろの仮装してる2人は、それに、見ない顔もいるな…もしかして何かの行事か?」 それから後ろに立っていたアイギスとメティスそれから宇海を見ると、 本当の事を知らない巡査はますます不可解だという顔をした。 しかもメティスは、そんな事などつゆ知らず、物珍しそうに噴水を眺めている。 「あ、いえっ…その、これは…」 慌ててゆかりが弁明しようと口を開くが、黒沢巡査はそれを遮って 「…まあいい。お前たちが少し特別なのは知ってる だが、それを何かの”口実”に使うようなら、しっかり取り締まるからな…忘れるなよ」 それだけ言って交番の中へ戻っていった。 「あーもー…」 ゆかりが何かを諦めたようにため息をつく中、交番に貼られた掲示物を見ながら美鶴が呟いた。 「掲示物の日付が、全て2009年…カレンダーもだ もしかして、6月というのは……去年の六月か?」 その言葉に即座に真田が反論を返す 「馬鹿を言うな…じゃあここは、”過去の世界”だとでも言うのか?おい、アイギス妹!」 それから、メティスに確認を取ろうとするが、メティスは噴水を眺めたまま返事を返そうとしない 「聞いてるのか、おい!?」 「あなた…こんなものが珍しいの?」 真田が怒鳴るのを遮ってアイギスがメティスに近付き尋ねると 「いえ、そ、そんな事ないです。街にある物くらい、ちゃんと知ってます。 これは”噴水”、向こうのは”お店”…」 メティスは慌てて弁解を始めた。 その様子がアイギスにはかわいらしく見えて、アイギスは微笑んでこう言った。 「確かに、わたしもたまに来て、噴水を眺めることはあるけど…」 「そ、そうなんだ。なら私といっしょ…」 嬉しそうに顔を輝かせるメティスに、アイギスはさらに言った。 「でも今居るここは、あなただけじゃなくて、わたしたちから見ても、何かが変。 教えて、ここは本当は何処なの?」 メティスは小さく頷くと、再び皆に向き直って 「…来る時、扉をくぐりましたよね。あの扉は”時の狭間”の色んな所にあって、それぞれ ”過去”へ通じてるんです」 そう答えた。 「じゃあ…本当に“去年”なのか!?」 驚く真田に、メティスは冷静に説明する。 「季節も時間も違ってるのを、他にどう説明しますか?もっとも完全な過去じゃなくて 記憶にある場面へ飛べるだけみたいですけど。今居るここも、たぶん他の場所へは 繋がってないと思います」 順平も唖然として眼を瞬かせている。 「過去の世界って、オイオイ…」 そんな中で、メティスがさらに言う。 「でも、好都合じゃないですか。ここなら“補給”ができます。手に入れた物は、 時の狭間が消えない限りは実際に使えると思いますよ。もしかすると、扉の先が この場所だった“意味”は…それなのかも知れません。あなたたちの意思が、反映されたのかも」 「なんつーか…ずいぶんと肝の据わった奴だな…」 荒垣が感心しているような、呆れているようなそんな顔をして呟いた。 「……」 物珍しげに色んなものを見て回るメティスを眺めていると、隣で風花が安心したように言った。 「でも、とりあえず良かった…何とか飢え死にだけはしないで済みそう…」 ひとまず、わたしたちたちは補給路を手に入れる事が出来た。 …そこが”時の狭間”と呼ばれる訳を、わたしたちは初めて知った。 過ぎ去ったはずの時間に、触れてみる事のできる場所… …でも、今思うと、この時わたしたちが言葉を失ったのは、驚きだけじゃない何か… たとえば、“救い”のようなものを、無意識に感じていたからかも知れない。
アトガキの様なもの
今回は扉の終着点のお話だったり、え、過去!?な話だったり…
11話とまとめて書いたら長くなったので、分割です。
この後はちょっとだけ会話を入れて、また次の探索へ〜といった
流れになるかと思います。
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