終業式が終わって放課後になると、ともちーが俺の席に寄って来た。
「よ〜っし、じゃあ昨日言った通り湊の見舞行こうぜ」
何故か無駄に明るいともちーに、ミヤがツッコミを入れた。
「その前に俺の検診だろうがよ・・・まぁ、検診つっても完治した後の確認みたいなもんだし、
実際に動かしても平気か診るだけだからよ・・・・・・お前ら先行っててもいいぜ?」
「いーって、お前が一人で泣かない様に一緒に行ってやるって!」
「バッッカ、誰が泣くかよ」
ともちーの軽口に、ミヤが呆れる。
俺はアイツのことをどう切り出したらいいのかわかんなくて、二人の会話を眺めつつタイミングを見計らっていた。
「つかさ、順平さっきからなんで黙ってんの?」
「お前も風邪移ったのか?」
気付くと二人が俺の顔を覗き込んでいた。
俺は“今だ”と思って小さく息を吸うと、二人に“事実”を告げた。
「・・・アイツ・・・さ、死んだんだ」
言った後に他にもっとまともな言い方があったんじゃねえかと思ったけど、
言っちまったモンは仕方ねぇ・・・俺は腹を括って二人の反応を待った。
「・・・・・・は?」
最初に反応したのはともちーだった。
「おまえ・・・何言っちゃってんの?・・・いくら何でもその冗談はきつくねえ?」
若干放心したような顔が徐々に怒りを混ぜた顔になって俺を睨む。
「・・・・・・・・・」
俺が無言でいると今度はミヤが、
「・・・順平、さすがにそれは笑えねぇって」
と苦笑している。
「・・・・・・・・・・・・」
それでも俺が黙っていると、
ミヤとともちーが顔を見合わせる。
「・・・え、マジ・・・・・・なの?・・・冗談抜きで?」
有り得ないとでも言うようにともちーが俺を見る。
「・・・・・・・・・」
ミヤも真顔になって俺の方を見ている。
「・・・嘘じゃねぇさ・・・・・・ホントに、アイツ死んじまったんだよ・・・」
と言うと、
俺はミヤにいきなり胸倉を掴まれた。
「!?」
俯いた目線を無理矢ミヤに合わさせられる。
「・・・なんでだ!・・・・・・なんで、・・・なんで死んだ!?」
怒ったような泣きたいような顔をして、ミヤは怒鳴る。
いつのまにか教室は俺らだけで、
春の陽射しにてらされた教室にミヤの怒鳴り声が響く。
「・・・なんでっ・・・・・・イキナリ・・・そんな・・・」
俺を掴み上げた手は怒鳴る内に力を失っていった。
「宮本・・・」
俺は掴まれたシャツを直しながら、
「・・・昨日、急に・・・肺炎、こじらせてさ・・・・・・んで、そのまま・・・」
昨日桐条先輩と示し合わせた“死因”を告げた。
「・・・んなことで・・・アイツが、死んだってのか?」
ともちーが呟く。
「・・・俺に肩貸しても平気そうだったのにな・・・・・・」
幾分か落ち着いたミヤが言う。
そのあとは誰も言葉を発しなかった。
しばらくして誰からとも無く教室を後にした。
見舞どころじゃなくなったってのに、俺とともちーはミヤの検診についてきた。
多分特に理由は無かったと思う。
ただ、このまま別れて帰るにはちょっと・・・って空気だった。
無気力症の患者が退院して閑散としている病院の廊下で、俺とともちーは壁に背をもたれかけてミヤを待つ。
『・・・外科の二階堂先生・・・・・・二階堂先生・・・いらっしゃしましたら四階ナースステーションまでお越しください・・・』
そんな院内放送が廊下を通り過ぎてった時、
ぽつりと、ともちーが呟いた。
「・・・アイツも、ここにいるのか?」
「ああ」
アイツの身体はあれから親戚が引取に来るまでここで預かられるって先輩が言っていた。
「・・・そこの・・・曲がってちょっと行ったとこにさ」
と続けると、
「そっか」
ちらりとその方向を見て、それからすぐに視線を戻して言った。
俺もつられて同じ方を見ると、見慣れた人影が角を曲がるのが見えた。
「・・・!」
思わず眼を見張ると、ともちーは見てなかったのか不思議そうな顔を俺に向けた。
「どうした?」
「・・・いや、なんでもねぇ」
俺はそういうと浮かせた背をまた壁に預けた。
(・・・今の・・・・・・ゆかりっちか・・・?)
一瞬だけだったけど、たしかにそうみえた。
(・・・けど、なんでここに・・・・・・もしかして・・・?)
思考に嵌まりそうになった時、丁度ミヤが診察室から出てきた。
「・・・待たせたな」
俺は一瞬で現実に引き戻されて、
「いいって ・・・ってか明日さ、アイツの・・・お別れ会・・・みてーなの、やるんだけどさ・・・来れるか?」
と俺が切り出すと
「・・・明日か?・・・・・・わかった」
「あのよ・・・結子・・・・・・西脇も誘っていいか?」
とすぐさま返事が帰ってきた。
「・・・ああ、誘ってやってくれ」
俺はもう一度アイツの身体がある曲がり角の向こうを見遣った。
それから何をするでも無く三人で商店街をぶらついた。
あまりテンションは高くかったけど、ぽつぽつとアイツの話をした。
俺ら全員、元気と空元気の中間の何かを振り絞ってるような感じだった。
「・・・文化祭の片付けの時はさすがに俺もヒヤッとしたぜ」
「あぁ・・・あん時か・・・修羅場・・・ってのがマジにあるもんだとは思わなかったぜ」
「あれは怖かったよな・・・」
「・・・結局アイツ、誰と付き合ってたんだろうな?」
「結子・・・ああ、ウチの部活のマネージャーと・・・ってのは部活仲間から聞いたけど」
「え、ウソ 俺は岳羽さんだと思ってた」
「俺は風花だと思ってたんだけどよ・・・なんか廊下で会った女子に桐条先輩とつきあってるってのも聞いたぜ・・・?」
「あーそれあの生徒会長の追っかけやってる子だろ?俺も聞いた」
「結局何なんだろうな・・・アイツ」
「多分あれだろ、誰に対しても誠実過ぎて周りが勝手に暴走するタイプだろ」
「誠実ねぇ・・・アイツあの状況気づいてたのか?」
「・・・気づいて無いっぽかったぞ」
「うわ、羨ましいなオイ・・・あれって一種のハーレムだろ?」
「・・・・・・なぁ、知ってたか?アイツ小学生とも仲良くなってたぜ」
「ちょっ!?それはマズすぎるだろ・・・いくらなんでも」
会話が一段落した時、ともちーが空を仰いで言った。
「・・・俺さ、高校卒業して・・・大学入ったら・・・アイツが羨むようなすっげー恋愛してやるんだ!」
ともちーの顔には妙に晴々とした笑顔が浮かんでいて、俺はともちーがアイツの死を“受け入れた”んだと思った。
ミヤも、
「そうだな、俺も部活休んでた分開いたタイム縮めて、ぜってーアイツが追いつけねぇような
結果だしてやる・・・・・・で、俺があっち行ったらアイツに自慢してやるんだ」
と拳を握った。
(・・・強いな、おまえら・・・俺も頑張んねぇと・・・)
「・・・あれ、真田先輩じゃね?」
気づいたら話題が別の方向に向かっていた。
ともちーの声に商店街を見ると、いつもの牛丼屋の前で真田先輩が誰かと立ち話をしているのが見えた。
「・・・一緒にいるの・・・・・・誰だ?」
俺が眼を懲らしていると、ミヤが半ば叫ぶように言った。
「早瀬だ!アイツなんでここに・・・」
・・・早瀬・・・どっかで聞いたような・・・
俺が記憶を漁っていると
「ああ、あの超高校級の?・・・だったらすげーなアレ、陸上の超高校級とボクシングの超高校級が会話してんだろ?」
ともちーが驚いたように言う。
ああ、そうだったな・・・アイツが夏の大会で上位入った時に優勝した奴だ。
「アイツ確かガッコ辞めて関西行ったって聞いたけどな・・・」
とミヤが首を捻っている。
「たまたま帰省してるだけじゃねーの?・・・てか暗くなってきたし、そろそろ帰る?」
ともちーのその言葉に辺りを見回すと、商店街は夕日でオレンジ色になっていた。
「・・・そだな、じゃ・・・また明日な」
「おう」
「じゃーなー」
俺達はそこで別れて帰路についた。
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