教室に着くと、真っ先にともちーが俺の前にやって来た。
「おいおい お前ら揃って殿様出勤かよ?昨日も卒業式途中でボイコットだしよー・・・
 ちょっと早い卒業の思い出作りかっての」
明らかに面白がってる声音に乗ることが出来なくて、俺はついつい尖った態度を取っちまった。
「・・・・・・何でもいーだろーがよ、俺っちにも事情ってのがあんの」
「へぇ、伊織にも事情なんてモンがあんだな」
背後からの別の声に振り返ると、机一つ隔てた後ろにミヤが立っていた。
「・・・で、どしたんだよ。お前らの寮の連中だけ遅刻で、しかもアイギスさんと岳羽さんは
 なんか近づくなオーラ出しまくってるし、有里は昨日から休みだし・・・・・・」
ともちーが俺の肩に手を回して秘密の話しをするみてーに声を潜めて聞いてきた。
「・・・ん、そういや有里休みだな・・・・・・」
ミヤもアイツの机に一瞥をくれてから、机を回り込んで話の輪に入った。

俺はとりあえずとっさにデマカセを考えて、内心二人に謝りながら言った。
「・・・湊がさ、風邪ひいてんだよ。 でよ、去年の台風ん時にアイツ昏睡?
 みてーな感じだったからみんな心配しちまってさ・・・ゆかりっちとか
 最近アイツといい雰囲気だっだじゃん?アイちゃんはこっち来てからずっとだし・・・だから余計に、な」
胸に広がる罪悪感を感じながらやっとのことで言うと、
「はー・・・この時期にねぇ・・・・・・アイツも難儀だな」
ともちーが人事のように言う。
「まぁ俺みてーに怪我したとかじゃねーなら大丈夫だろ」
ミヤが自分の脚を叩きながら言う。
「そーいやお前のその脚はもう大丈夫なのか?」
ともちーがミヤの脚を覗き込みながら言う。
「おうよ!根性でバッチリだぜ・・・・・・っつっても明日も検診日なんだけどな」
ミヤが苦笑しながら言う。

「みなさん怪我に病気に大変ですねー・・・まぁ俺は健康体だけどなー?・・・・・・
あ、そーだ なぁ、明日って終業式でガッコ早く終わんだろ?」
ともちーが何かを思い付いた顔でにんまりした。
「そうだけど・・・それがどうしたんだよ」
俺はイヤーな予感を感じながら返事をする。
「・・・だからさ、ミヤの検診の帰りにコイツの寮寄ってお見舞いしてやろーぜ 
順平達の卒業式ボイコット騒動も教えてやりてーし」
とニヤニヤ顔で俺を指差す。

・・・・・・・・・やっぱり・・・
オイオイどうすんだ俺、こんな時の対応なんて聞いてねーぞ・・・

嫌な予感が的中したことに焦りながら、しどろもどろで言い訳を作る
「いや・・・でも・・・・・・寝てるかもしんねーぞ?」

ともちーはそれがどうしたと言わんばかりに
「まぁそんときゃアイツの寝顔でも激写して帰ればいいさ。お前知らねーかもしんねーけど、
 アイツ結構下級生とかにカッコイイって言われてんだぜ?
 ・・・・・・・・・だからさ、撮った写真を高額売却で一稼ぎ!・・・・・・てのは流石に冗談だけど」
俺とミヤの呆れた表情を見るとともちーはさすがにたじろいだ。

その後で気を取り直して
「・・・でも起きてなくても誰かが見舞に来たってのはなんか嬉しいだろ?」
と、マジメな顔で言われた。

俺はもう引くに引けなくなって、
「・・・ま、まぁ桐条先輩とかに聞いてみるわ。・・・今先輩達の荷物の片付けとかで慌ただしいからよ・・・・・・」
俺がその場から逃げようとすると、
「・・・順平 どこいくんだよ?もーすぐ授業始まるぜ?」
背中にミヤの声が掛かった。

俺は振り返ると、
「・・・鳥海センセーんとこ、アイツ休みってことまだ言ってねーんだわ」
と言った。これはホントだぜ・・・・・・っつっても単に忘れてただけなんだけどな
「おー そっかぁ」
ミヤはソレ以上追究してこなかった。



「シツレーしまーす」
俺は職員室に入ると、鳥海センセーの姿を探した。
暫く視線をさ迷わせるとすぐにセンセーを見つけた
センセーはじぶんの席らしいトコで何か悶々としていた。

「あー・・・今後どー対応したらいいのかしら・・・・・・改めてヨロシク?今後ともヨロシク?
 ・・・・・・・・・それともいっそのこと何も無かったふうを装う?・・・ってこれはムリか・・・・・・
 それともやっぱ告は・・・・・・ってムリムリ、ソレはないわ」
頭を抱えてぶつぶつ呟いてるセンセーにただならぬ空気を感じたけど、
次の授業がエコ田っつーことを思い出したからとっとと済ませることにした。

「あのー・・・鳥海センセ?」
俺がちっさく声を掛けながら肩を叩くと

「うゎおぅっ!?」
となんかスゲー反応が帰ってきた。

俺がびっくりした姿勢で固まっていると、
「・・・な、なんだ伊織か・・・・・・脅かさないでよ。何?先生に何か用なの?
 ・・・・・・あ、昨日のボイコット謝りに来たとか?・・・だったら別にいーわよ。
 特に怒られもしなかったし・・・あ、でも聞いてよちょっと!昨日のあれで江古田先生
 の愚痴に付き合わされちゃってさー・・・もー長いったらありゃしない・・・・・・
 最近の若者はどーの、生徒会長がどーのって・・・・・・ホワイトキックって、
 アンタの話の方が白けるわよ!・・・・・・あー、思い出したら腹立ってきた。
 やっぱデパ地下の高級スイーツ請求しちゃおうかしら・・・・・・」
一気にセンセーが喋りはじめた。

・・・お、女って怖ぇ・・・・・・・・・

「あー・・・・・・あの、センセー いっすか?」
センセーのマシンガントークを遮って、
「・・・今日湊・・・って、あ・・・・・・有里休みっす 風邪らしいっす。」
言うと、センセーは何でか脱力した
「・・・え、何 彼今日休みなの? なぁんだ早く言いなさいよもー・・・
一人で勝手にびくびくしてたの馬鹿みたいじゃない・・・・・・ってゴメンゴメン。休みなのね?」
「・・・そうっす」
出席簿かなんかに書き込みながら、
「・・・にしてもあの子よく休むわねー・・・いやよくってほどでもないか・・・
転校早々過労で一週間、九月にも風邪・・・意外と病弱なのかしら・・・」
とまた一人で呟き出したセンセーを放置して、
「じゃ、伝えたんで・・・お願いしまーす」
と職員室を出ようとすると、

「あ、伊織!何かあったら言いなさいよ!」
センセーの声が後を追いかけて来た。
何か・・・・・・ねぇ・・・ もう起こってんだけど・・・




授業が終わると、俺達は急いで寮に帰った。
もしかしたらアイツがフツーにソファに座ってんじゃないかって期待して、
けどまだ病院に居るのか、寮内に先輩達はいなかった。


先に帰って来ていた天田が、ソファからアイサツをしてきた。
「あ、おかえりなさい」

「うん、ただいま」
「・・・うぃっす」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

俺と風花は返事したけど、
ゆかりっちとアイちゃんはムゴンだった。
・・・まぁ、無理ないか
「・・・・・・・・・」
天田も理解してんのか、なんかいたたまれないカオをした。

五人でソファに座って、何をするでもなくぼんやりする。
「・・・なんで、こんな事になっちゃったんでしょうか・・・・・・」
ぽつりと、天田が言う。
「・・・ホントにね・・・・・・。なにかの間違いならいいのに・・・」
風花が不安そうに答える。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
それきり会話が続かなくなって、重苦しい沈黙が流れる。

間違い・・・・・・か、確かに間違いだったらどんなにいいか・・・
人としての重みがあるのに、そこに生まれるはずの温もりが消えて行く―――
俺はあの時のアイツを思い出して、思わず手を握りしめた。





暫くすると、先輩達が帰ってきた。
真っ先にゆかりっちが桐条先輩に駆け寄って、
「・・・先輩 アイツは・・・・・・アイツは一緒じゃないんですかっ!?」
「美鶴さん・・・・・・湊さんは・・・」
アイちゃんも先輩に尋ねる。

そんな二人の様子に真田さんは、
「・・・・・・ッ」
顔を逸らして眼を伏せた。

ゆかりっちとアイちゃんは、そんな真田さんをちらりと見て、
また桐条先輩に向き直った。
「・・・・・・・・・先輩・・・」


桐条先輩は、悔しそうに眼を伏せると、
「・・・・・・病院での検査の結果・・・彼が昨日未明既に・・・・・・亡くなっていた事が判明した・・・・・・・・・」

「そんな・・・」
風花は口許を押さえ、
「・・・っ」
天田も驚愕を隠せないでいる。
「・・・・・・マジかよ・・・」
俺は目の前が真っ暗になったような感じがした。

「な・・・亡くなった・・・・・・って・・・・・・死んだ、って・・・コト・・・?・・・・・・なんで・・・・・・どうして・・・?」
茫然と、ゆかりっちが先輩を見上げる。
先輩は、なんとか冷静を保っているような顔で、
「・・・・・・っ判らない・・・身体にも内蔵にも、どこにも損傷が無いんだ・・・・・・なのに・・・」
と言った
「な、ならタルタロスの時みたいに反魂香で・・・・・・」
天田が希望を滲ませて言う
「・・・・・・!」
ゆかりっちははっとして先輩を見る
けど横から真田さんが、
「・・・もちろん試したさ、反魂香も、地返しの玉も、リカームも・・・全部・・・・・・」
と言って俯いた。
「・・・そ、そんな・・・ウソよっ・・・・・・・・・いやああああああぁぁぁぁぁっっ!!!!」
ゆかりっちは、桐条先輩にしがみついて泣き出した。
「ゆかり・・・・・・・・・」
先輩もゆかりっちの背中に手を回して、静かに涙を流した。

「・・・・・・っ」
「有里さん・・・・・・」
二人につられたのか、風花と天田の眼にも涙が浮かんでいる。

「・・・・・・クソッ・・・何が力だ!・・・大切な奴を誰一人守れもしないで・・・・・・俺は・・・ッ畜生!」
真田さんが拳をカウンターに叩き付ける。

「わたしは・・・・・・わたしは、あの人の・・・傍にいるって・・・・・・
 いつでも、・・・わたしが・・・守から・・・って・・・・・・そう、言ったのに・・・ッ
 ・・・・・・約束っ・・・したのにっ!・・・・・・なのに・・・・・・・・・・・・」
アイちゃんがその場に崩れ落ちる。




嗚咽が響く中、俺はそこでただ立ち尽くすことしか出来なかった。




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