自分の仮面に気付いてからは、元々たいして楽しくなかった人生が、ますますつまらなくなっていった。

学校で仲の良いクラスメイトといれば確かに楽しかった。
けれどみんなが僕と仲良くしているのは僕の外側だけを見ているわけで、
本当の僕を知っているわけじゃない、僕も僕で彼ら彼女らの外側だけで、素顔や内面を知っているわけじゃない。
引き取られてからいくつかの学校を転々としたけれど、クラスメイトや教員は、両親がいないというだけで同情したり、
からかいのネタにする奴、気の毒そうな顔をしつつも内心で見下しているような奴

今まで生きてきてほとんどの人はそうだった

そうじゃない人もいたけれど、僕は叔母との一件から人を信じるのが苦手になっていたから、
本当の意味での友達とは言えなかったと思う。

本当の友達の意味も、本当の自分ってのが何なのかもわからないまま
上辺だけの優等生を続けて、上辺の人間関係を続けて
愛想笑いで本音を隠して生きて来て
もう、僕はどうでもよくなってしまっていた
家で叔母の顔をうかがいながら息を潜める人生も
上辺だけで中身の伴わない学校生活も
両親も友達と呼べる人も居場所も無い自分にも

次第に僕は一人を好むようになり、集団にもあまり入らなくなった。
中学3年からは一人暮らしを始め、叔母達からも離れた(叔母はともかく、叔父も事情を察したのか反対しなかった)。
それでも仮面を外すことは出来なくて、やりたい事も将来の夢も無い事に押し潰されそうになりながら、
生きているとはいえないような人生を音楽で繋いで、パターン化した日常を無為に食いつぶす日々が続いていた。

そんな時に舞い込んできたのが、月光館学園校への転入の連絡
正直どこにいても何をしても同じだと思っていた。けれど、この転入が、僕の人生と僕自身も変えた。

影時間に立ち向かう、特別課外活動部としての生活、
普通の高校生としての、みんなとの生活
いつの間にかそれが僕の仮面を壊し、それも僕自身なんだと教えてくれた。本当に大切だと思える、かけがえのない居場所と仲間達・・・

そして
親しい人の死や、近しい人の裏切りを乗り越えて辿り着いたのは、衝撃の事実だった。
10年前の事故と、僕が此処に喚ばれた理由、影時間と綾時の関係とその正体

「・・・・・・・・・」
今はもう会うことの出来ないトモダチを思い浮かべ、溜息をつく。

あの時、お互いに立ちたくなかった立ち位置で向かい合い、戦った時の事を思い出す。

『知恵の実を食べた人間は、その瞬間より旅人となった…
アルカナの示す旅路を辿り、未来に淡い希望を抱く…
しかし、アルカナは示すんだ…
その旅路の先に待つものが、"絶対の終わり"だという事を。
いかなる物の行き着く先も…絶対の"死"だという事を!』

次々にアルカナを変えながら多角的な攻撃をしかけてきた綾時―――ニュクス・アバター


『・・・終わらせよう、これが君達の選んだ道なんだ』


あの時君は、滅びの宣告者としての務めを果たしながら、望月綾時として泣いていたんじゃないかって

自分のせいで、世界が滅んでしまう
自分のせいで、トモダチを殺してしまう
自分がいるから――

そんな風に自分を責めていたんじゃないかって、戦いが終わった今になって考える。
僕にとって、あいつは倒すべき“敵”じゃなくて いつも道を示してくれた大切なトモダチだった。
それは、君もじゃなかったのか? 綾時・・・
なのに、どうして一人で全部背負って行ってしまったんだろう・・・
どうして、僕も一緒に背負わせてくれなかったんだろう
大きすぎる問題だとは思うけれど、一人であれだけ苦しむあいつは見てられなかった。
それと、お前特別なんだろ 何とかしろよと罵られても何も出来ない自分が情けなかった。

綾時、僕は君に――



ドンドンドン

不意に、扉を叩く音が聞こえ 思考を中断された
「はい?」
首を扉に向けながら返事をすると、聞き慣れた順平の声がする
「あのよー、真田先輩のトレーニングマシンの梱包手伝ってくんねえ?
 あの人無駄にでかくて重いヤツばっかもっててさ、俺らだけじゃ終わんねえんだわー 
やっぱ女子には頼みづらくてよ・・・」
「おい伊織、無駄にでかくて重いとはどういう意味だ!?」
部屋に居るのか、遠くから真田先輩の声も聞こえた。
「あ す、スンマセン・・・・・・」
順平が慌てて謝っているのに思わず苦笑が漏れる。
「悪いな有里、無理なら構わないんだが・・・」
先輩がまた遠くから声を掛けてきた。


「わかった。今行くよ」
立ち上がると、いつのまにか倦怠感は消えていた。ただ、腕に力を入れ過ぎていたのか、
肘の筋肉が若干強張っていた。
僕はそれをほぐしながら、扉へ向かった。

「・・・・・・うわぁ、すごいですね コレ」
僕が思わず声をあげると、順平がそれに同意して
「だろ、まさに圧巻!だよなぁ」
と部屋に置かれたトレーニングマシンやトロフィーを眺める。

真田先輩の部屋には所狭しとトロフィーや楯等が並び、床や机の上にはダンベルや重りといったトレーニング道具、
そしてフローリングの床にはゆうに180cmを越えるようなトレーニングマシンが設置されていた。
作戦室のカメラから前に見たことはあったけど、実際に見てみると順平も言ったようにまさに圧巻だ。
恐らく隅に置かれた冷蔵庫にはプロテインや栄養補助食品が山となっているんだろうな・・・

順平が部屋を物珍しげに眺めるのを止め、先輩に向き直る。
「・・・で、先輩 コレどやって梱包するつもりなんすか?」
マシンを見ていた先輩も順平の方を見て、また自分のトレーニングマシンに眼を遣り、
「・・・・・・奇遇だな、俺も今同じ事を考えていた」
と言った。
「・・・運び込んだ時はどうしてたんすか」
自分の持ち物にもかかわらず微妙に情けないことを言う先輩に順平が聞くと、
「いや、あの時は業者が全部やっていたからな・・・俺は部屋の外に出ていた」
「・・・・・・・・・」
しれっと自身の無知を漏らした先輩に、順平だけでなく僕も呆れてしまった。

「・・・とりあえず、トレーニングマシンは後にして、周りの片付けられる物から片付けませんか?」
僕の提案に二人は一も二も無く頷いた。
「よし、ならまずそこら辺のトロフィー類からやるぞ」
「あ、じゃあ俺新聞とか貰ってくるっス」
それぞれ役割を決めて作業を開始した。


・・・しばらくして僕たちは、大分片付いた部屋で再びトレーニングマシンを見遣っていた。
「・・・で、振り出しに戻るんすけど」
「・・・・・・ああ」
「どうしましょうか・・・」
つぶやきながら、このトレーニングマシンをどうやって梱包するか考えていた時

「・・・あの、分解して片付ければいいんじゃないですか?」
背後から声が聞こえた
「!?」
振り返ると、開けっ放しになっていた扉から天田が顔を出していた。

「・・・あれ、お前・・・・・・てかここって高等部の寮じゃなかったっけか?」
僕が何かを言う前に順平が疑問を発する。
・・・そうか、今は記憶が無いから天田がこの寮にいる事の説明がつか無いのか・・・
僕にしてみれば白々しいような質問に何かしらの複雑さを覚えていると
「あ、夏休みに初等部の寮が誰もいなくなるから、ってこっちにいれてもらったんです」
天田の返事に、順平がまた疑問を発する。
「・・・誰に?」
「え?・・・・・・あれ、えーと・・・誰だったかな・・・ごめんなさい、ちょっと忘れちゃいました」
顎に手をやって頭を捻りながら天田も要領を得ない返答をする。
天田をここに連れて来たのは理事長・・・・・・幾月だったから・・・みんな覚えてないのかもしれない
「そんな事はどうでもいいだろう、今はコイツの梱包が先決だ。 ・・・天田・・・・・・だったか?」
順平がまた何か言おうとするのを遮って、先輩が天田に向き直る。
「あ、ハイ 初等部の天田乾です。五年生です」
天田は先輩の質問に嬉しそうにぺこりと会釈をした。
「分解すればいい、と言ったな」
先輩はトレーニングマシンをぱしんと叩きながら言った。
「こういうのは・・・多分、ボルトとかナットとかで繋がってるから・・・
 それを外せば段ボールにも入ると思うんですけど・・・取扱説明書とか、無いんですか?」
何故出さないのか、とでも言いたげな天田の台詞に、僕たちは揃って声を上げた。
「そうか、その手が有ったか!」
「・・・っはー、小学生に指摘される俺っちって一体・・・」
「で、先輩 説明書・・・持ってますか?」
僕の台詞に、先輩が手前の棚を開けてなにかを漁り出した。
「ん、待ってろ・・・確かこの辺に・・・」
それを契機に、また梱包作業が始まった。

「ドライバーとか持ってきますね」
と行って席を外していた天田も加わって、四人で黙々と作業を続けた。



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