天田君が買い物に行った後から、ぽつぽつと人が訪れはじめた。
部活で一緒だった宮本君に、マネージャーの西脇さん
それからクラスメイトの友近君・・・
他にも私達が知らなくて誘えなかった人が、誰かから聞いたのかわざわざ集まってくれた。

お別れ会の始まる1時には、ラウンジには沢山の人が座って喋ったり、
あるいは有里君の思い出話をしていた。
けど、ゆかりちゃんと真田先輩はそれぞれ予定があるとかで、その場には居なかった。
アイギスもずっと部屋にこもったままだった。

1時になると、桐条先輩が皆の前に立って話しはじめた。
それまで話をしていた人は自然と話を止めて、先輩の方を見た。
「・・・今日は、彼の為に忙しい中集まってくれてありがとう…
 彼との別れを惜しみ、これだけの人が集まったことに同じ友人として大変嬉しく思う。
 ・・・・・・一人一人順番に、彼に別れを告げてやってくれ・・・」
そう言って先輩が下がると、誰からとも無く祭壇の前へと並びはじめた。



「…有里……俺さ、お前に会って…エミリ………叶先生に告って……それから、いろいろあって
 ……ホントの恋愛ってもんが、ちょっとわかったような気がする……お前のおかげだ ありがとな
 俺、大人になったら…お前みたいに女の人が沢山寄ってくるようなすげー恋愛してやるからな
 だから……見てろよ…すぐ、俺もお前みたいな魅力的な男になってやるから…」


「…俺は、勝ちしか見えてなかった。ぶっちゃけ”体”とか”仲間”とか…そういうの全部二の次で…
 根性がありゃあ出来ねえモンなんて無えって……思ってたんだ けど、お前にヒザの事バレて…
 話聞いてもらったり、肩貸してもらったり…そういう事で、勝ちより大事なモンがあんだ…って気づけた
 俺の借りは…もう、お前に…返せねえけど……その分、俺…お前より、早瀬より速くなって………
 日本一の陸上選手になる 絶対……今、ここでお前と約束したからな……忘れんなよ…」


「……何か、こういう雰囲気だと…また泣いちゃいそう……昨日、ミヤに連絡もらって…涙枯れるんじゃないか
 って位泣いたのに……ホントは、春休みとか…ちょっとだけ……ホントにちょっとだけ…有里君と…
 遊びたかったのに…前みたいに、手…引っ張ってもらいたかったのに……もう、触れないトコに行っちゃったんだね…
 ……今は悲しいけど……悲しいしかないけど……キミに貰ったアタシの夢…きっと叶えてみせるから…
 キミみたいにかっこいい走りする選手、いっぱい育てて見せるから…だから……応援しててね…」


「有里君……私…貴方と一緒に戦ったり……お喋りしたり…お料理見てもらったり……この一年間、
 凄く幸せだったと思う自分の個性を認めてもらって……自分でも認められるようになって…ちゃんと、
 前を見て歩けるようになったと思う…私にしかできないことがあるって……気づかせてもらったから…
 だから…これからも、私にしか出来ないこと…まだあると思うから……貴方に教えてもらった事…
 生かせるように、頑張るね……ホントに、ありがとうね…」


「…君がもうこの世にはいないというのは……不思議な感じだな……つい数日前も、君と話していたのに……
 もう今年からは君と学校で会うことも、話すことも無いんだと思うと…………やはり、寂しいよ……もし、
 僕が君に会わなかったら…きっと僕は生徒会で規律を正そうと躍起になって…それから、あのタバコ事件みたいなことに
 なっていただろう……僕は、君に気づかせてもらった事を本当に感謝している…ありがとう………僕は、生徒会じゃない…
 一人の生徒の立場から…これから頑張っていこうと思うよ」


「私……有里さんに会う前は…ただ独りでびくびくしてるだけでした……でも、有里さんが話しかけてくださって…
 仲良くしてくださって…自分から、行動できるように…なってきたんです。生徒会も…またやってみようとおもうんです……
 会長のようにしっかりとはいかないえすけどでも、有里さんのおかげで変われたところを、もっともっと伸ばしてみたいって……
 思うんです…前の私だったら…ずっと怖がってるだけだったけど……有里さんに背中を押してもらったから…私、頑張れるんです
 ………ありがとう、ございました……」


「湊……俺…去年は、良くオマエに突っかかって……カッコ悪かったよな……ハハ………けど、あん時マジで俺…オマエの事…
 羨ましかったんだ…けど……チドリと会って…将来のこととか…考えるようになって……ニュクスのこと知って…
 自分のそーいうみっともねえトコも、しょぼいプライドとかも……認められるようになったと思うんだ……オマエが、
 活動部引っ張ってなきゃ…俺、そういうもん表に出さずに行ってたかもしんねえと思う…だから、ありがとな……
 オマエはずっと、俺の親友だぜ…」


「…有里さん……僕は、復讐のためにここに入って……ずっと、それしか考えてなくて………大人なんか、
 信用できないって 思ってました。けど…あなたは僕のことを子供扱いせず、ちゃんと見てくれてたと思います……
 ありがとうございました…僕は……荒垣さんの分も、あなたの分もちゃんと生きて見せます。
 ……立派な、大人になってみせますから…」


「有里君……君は、フリーパスで診てあげるっていう約束……叶えられなくなっちゃったね………僕はずっと自分のやりたいことが
 わからなくて…どっちつかずで…なさけない部長だったと思うよ……けど、君はみんなみたいに僕の進路を決め付けたような事を
 言うんじゃなくて……”僕”はどうしたいのかって事を言ってくれたね……僕は、君のその言葉で 決心できたんだ…ありがとう
 これから、沢山勉強して……立派な医者になって…君を救えなかった分、沢山の人を救えるよう…頑張るよ」


「…えっと……有里…君、久しぶり……風花の友達の…森山夏樹です。…っと…昨日、風花に聞いて急いできたんだ……君は、何か
 風花のコト…ずっと支えてくれてたみたいで…えっと……アリガト…あと………6月ごろ…風花と一緒に、アタシやマキ達のコト…
 助けてくれた…んだよね……これも、ありがとう…君は、こんなに沢山の人に惜しまれて…ちょっと羨ましいかな………あ、ゴメン
 何か妙な事言って………じゃ、またね…」


「有里…久しぶりだな……やっぱり会いたくなってちょっと帰ってきちまった……けど、驚いたぜ…帰ってきたら、お前にはもう
 会えなくなってたんだからな……俺は、もう一度お前と戦いたかった。もう叶わないが…俺は陸上を続ける。お前の学校の……
 宮本って奴もなかなかいい動きをするからな…前に話したが…俺のライバルは俺自身だ……これから、俺が俺に負けないよう…
 見ていてくれ……俺は決して負けないからな…」


「なんで……キミが死なないといけないんだろうね………ネトゲで、N島…キミにあって……自分の言動を省みて……もっとちゃんと
 教師やってみようって思った矢先に…キミがいなくなって……アタシの変わり様…一番キミに見て欲しかったのに……けど………
 キミは死んでも後悔なんてそんなにしなかったんじゃない? 大事なのは、自分の心で決めたかって事……前に言ったよね…
 あの時キミは、ちゃんと何かを決めた眼をしてた……先生も…これから頑張るから……先生がそっち行ったらまたあの頃みたく
 お喋りしてね」


「まさか…湊ちゃんがわしらよりも先にいっちまうなんてなぁ……息子といい…神さまはひどいことをするもんじゃて……わしらみたいな
 老いぼれを生かして…湊ちゃんみたいなぴっちぴちの若者を攫って行っちまうんだから…また息子を喪った気分じゃよ……婆さんも横で
 ずっと泣いとるわい……湊ちゃんは女泣かせじゃのう……わしらはこれからもずっとあの古本屋に居るから…またいつでも、お盆にでも
 会いにきておくれな………わしら、湊ちゃんに会えて幸せじゃぞい…息子の柿の木の事…湊ちゃんがおらんかったら…わからんまんま
 じゃったから……ホントに、ありがとうな……湊ちゃん」


「有里……この一年間、活動部のリーダーとして本当に良くやってくれた。……君がいなければ…私は…父の宿願を果たすこと無く
 終わっていただろう……君と過ごしたこの一年間…本当にいろいろなことがあった。そのどれもが、私の中での大切な宝物だ……
 この一年を私は生涯忘れることは無いだろう…無論、君のこともだ……これからさまざまな事があるだろう…だが、たとえどんなことが
 あっても…私は運命から逃げない。それは、君がニュクスに立ち向かい…示してくれた方法だからだ……ありがとう…」







それから暫くは、みんな別れを惜しむように周りに居る誰かと彼の思い出話をしていた。
けれど日が傾いてくると、帰りづらそうに一人、また一人と帰っていった。
私と先輩がそろそろ片づけをしようと眼を見合わせた時、後ろから声をかけられた。

「すまんが、学生さん」

振り返ると、古本屋のお爺さんとお婆さんが立っていた。
「はい、なんでしょうか?」
先輩が返事をするとお爺さんは、
「これ…湊ちゃんへの香典なんじゃけど…湊ちゃんのお父さんお母さんに渡してもらえんかの?」
といって墨書きのされた不祝儀袋を差し出してきた。
「…お気持ちは、ありがたいのですが……」
と先輩が断ろうとすると
「頼む、年寄りのわがままと思って渡してもらえんかな…わしらに出来ることはこういうことしか無いんじゃ…
 何より、わしらみたいな老いぼれよりも先に、こんな若い子がいってもうたことが不憫でならんのじゃて
 湊ちゃんはわしらの息子同然じゃから…」
「…ご迷惑だとは思いますけれど……どうか受け取ってもらえませんか…ほんの、気持ちですから…」
と二人が頭を下げる。
そんな二人に桐条先輩は
「…わかりました、渡しておきましょう……御厚意、痛み入ります」
と不祝儀袋を受け取って頭を下げた。
私も慌てて頭を下げると、お爺さんとお婆さんはお礼を言って帰っていった。


先輩は二人の背を見送ると、預かった不祝儀袋を丁寧に額縁の前に置いた。
それから、せつないような何かを堪えているような顔をした。
「あの、桐条先輩…」
私が声をかけると先輩は
「どうした?」
すぐになんでもないような顔をしてこっちを見た。

「有里君のお葬式…本当に行くことは出来ないんですか……?」

そう尋ねると先輩は
「そうだな…ここから距離で考えると…泊りがけになるぞ……確か君らは明後日から一週間補習が入っていただろう…
 移動や宿泊については桐条でなんとでもできるが…流石に補習を休ませるわけには行かないぞ……?」
と顎に手をやって考え込んだ。

「…だから……先輩だけでも…行けないっすかね…」

いつの間に来ていたのか、横から順平君が付け足してくれた。
「何?」
先輩が聞き返すと、順平君は頭をかきながら封筒をさしだした。
「コレ……ともちーとかミヤとか…あと他のみんなが…献花代にって…集めて俺に渡してきたんすよ
 …俺の分も入ってるっす だから…誰か一人でも、アイツの葬式でてやれないっすかね…」
「私の分も入ってます…それから……ゆかりちゃんや、天田君、真田先輩も…アイギスも…」
私が付け足すと先輩は眼を見開いて、
「山岸……そうか、彼は本当に良い友人を持ったな……わかった せめて私だけでも葬儀には出席しよう」
そういって微笑んだ。
それから先輩は移動や喪服の手配をすると言って二階へ上がっていった。


「…私達の言葉……有里君に、届いたかな…」
私がつぶやくと順平君は
「当たり前だろ」
と力強く頷いてくれた。




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