躊躇っていた指を、ようやくボタンに載せる
それからボタンを押そうとして、また躊躇う。

さっきからそれの繰り返しだった

「・・・・・・はぁ・・・」
溜息と一緒に座っていたベットに背中から倒れ込む。
携帯の電話帳には、今年卒業した先輩の名前が表示されている

“平賀慶介”

(・・・何て言ったらいいんだろ・・・・・・)
そんな事を考えながら携帯を眺める
“彼”の死を、どんな風に言ったらいいのか
そればかり考えていた。

けれどなにも浮かばなくて、かれこれ二時間近く過ぎてしまった。

(・・・逃げたら・・・ダメだよね)
今の自分はペルソナ使いになる前、自分は何も出来ないと塞いでいたあの頃と
変わらない・・・そんな気がする。
(・・・私が、しっかりしなきゃ・・・みんなの支えになれるように・・・・・・)

逃げてはダメだ
そう自分に渇を入れて、ベットから起き上がる
それから、携帯の『通話』ボタンを押した。



数秒のコール音の後、先輩はすぐに出た。
『・・・もしもし山岸さん?・・・なんだか卒業した後に声を聞くと久し振りって感じが
 するねー どうしたの急に・・・部活の事で何かあったのかい?』

人懐っこい先輩の声を聞いたら、伝えるのが怖くなった。
けど、もし彼のことを教えなかったら、きっと先輩は悲しむだろう・・・
そんな事を考えながら、小さく息を吸って電話越しの先輩に話しかける。

「あの・・・先輩・・・・・・その、有里君の・・・事なんですけど」

『うん?やっぱり来年度の部長は僕としては彼がいいなあ・・・中途入部だけど、彼なら
 うちの管弦楽部を引っ張ってくれると思うんだよね・・・・・・あ、山岸さんが部長やっても
 いい部活になるんじゃないかな・・・復学してからすごく頑張ってたし・・・そういえば
 彼・・・卒業式休みだったけど、風邪でも引いたのかい?もしあれなら症状を教えて
 くれれば対処の仕方とか、指示出来るんだけどさ・・・それかうちの病院に予約入れられないか
 父さんに頼んでおくけど・・・・・・』
相変わらずの先輩の明るい声を遮って、言った

「あの、それが・・・昨日未明に・・・・・・有里君・・・・・・・・・」
『・・・えっ?』
「・・・昨日、肺炎で・・・・・・」
そこまで言ったところで先輩が私の言わんとすることを察した。

『・・・そんな、急に・・・・・・おととい様子見た時点ですごく辛そうとか、熱が高いとか・・・
 気づかなかった?寮母さんとか、そういう人がちゃんと病院連れてったの?』

「・・・その、おとといまでは・・・そんなに辛そうには見えなくて・・・四日もちゃんと学校
 来てましたし・・・・・・でも・・・・・・・・・ごめんなさい・・・」
私はなぜか分からなかったけど、謝ることしか出来なかった。
先輩はそこで落ち着いたのか、さっきよりも声を落として

『あっ・・・ゴメンね・・・責めるみたいな事・・・・・・僕なんかよりも、友達の山岸さんの
 方が何倍も辛いのにね・・・・・・ホント、ゴメン・・・』
「いえ、いいんです・・・ちゃんと病院行くように言ってれば、もしかしたら・・・」

彼がいなくなってから、私がずっと気になっていたのはそこだった。
四日に会った時に彼の顔色が悪いことに気づいていながら、
ちゃんと病院に行こうって言わなかったから・・・
それで何かが変わるかって言われたら、変わらないかもしれないけど、
もしかしたら・・・って、ずっと考えてた。

『・・・そっか・・・・・・今日は、わざわざ僕にそれを?』
「はい・・・桐条先輩が、彼のお別れ会をしようって言ってくださって・・・それで」
私がそういうと、
『桐条さんが?・・・・・・そっか、彼・・・生徒会もやってたもんね。小田切君がよく彼を
 褒めてたなあ・・・・・・』
と懐かしむように言った。

「先輩・・・浪人したって聞きましたけど・・・・・・こられますか?」
『もちろんだよ 僕は彼のおかげで医者の道を進むって決心できたんだ。だから・・・
 その彼のお別れなら・・・行くのは当たり前だよ』
私の言葉に先輩はすぐに頷いた。

「・・・えっと・・・じゃあ、明日の午後一時から厳戸台分寮・・・あ、私たちの住んでる寮
 です。もし分からなければ私が迎えに行きますから・・・・・・」
『・・・わかった 駅降りてちょっと行ったとこだよね?必ず行くから・・・
 伝えてくれてありがとう それじゃ、明日ね』

最後にそういうやり取りをして通話を終えた。

「・・・・・・・・・・・・」
座った姿勢のままぼんやりとしていると、手の中の携帯が震えた。


『♪♪♪♪♪♪♪♪』


「わ・・・ひゃっ」
思わず小さな悲鳴を上げて飛び上がりながらも着信ボタンを押すと

『あ、もしもし風花?元気してた?』
「・・・夏紀ちゃん」

よく知る相手に安堵しつつも返事を返すと、夏紀ちゃんは明るい声で
『そっちさ、明日から春休みじゃん?もし風花がよければなんだけどさ・・・
 どっか行って遊ばない?あ、もしかしたら補習とか入ってたりする?』
と言った

「・・・明日か・・・明日はちょっと・・・・・・」
有里君のお別れ会があるから難しいな・・・
私が言い淀むと

『あー・・・そっか、まぁ明日じゃなくてもいいんだけどさ 風花の暇なときで』
「うん・・・ありがとう・・・・・・」

『風花さ・・・』
私が黙っていると、夏紀ちゃんは妙に神妙そうな声になって
「うん?」

『なんかあったの?』
と言った。

「・・・え!?」
『何て言うかさ・・・ホラ、前のお正月辺りの時みたいになんか溜め込んでる感じがする
 アタシじゃ話しくらいしか聞けないけどさ・・・何かあったら相談しなよ?』
と、あの時のように言ってくれた。

(・・・これじゃ前の繰り返しだね・・・・・・)
私は頭の中で思いながら会話を続ける。

「私に何かあったわけじゃないんだけどね・・・F組の有里君て・・・覚えてる?」
『うん、風花と同じ寮の人でしょ?あのちょっと中性的なカッコイイ子・・・彼が
 どうかしたの?』
「・・・・・・彼が・・・彼がね・・・・・・昨日、肺炎で亡くなって・・・」
『えぇッ・・・ちょっとそれ十分何かあったの領域じゃん!風花・・・・・・アンタほんとに
 大丈夫なの?』
夏紀ちゃんは私の心配をしてくれるけど、私は大丈夫

「私は大丈夫なんだけどね・・・みんな、ちょっと落ち込んでる・・・こんな時、私は
 どうしたらいいのかな・・・どうしたら、みんなに元気になってもらえるかな・・・」

『・・・自分よりもみんなの心配か・・・アンタらしいね』
夏紀ちゃんは電話越しにちょっと笑ったみたいだった。
それから
『・・・アタシはたいしたこと言えないけどさ・・・やっぱ、無理に気を使うより・・・
 いつも通りに過ごすのがいいんじゃないかな・・・と、思うんだけど』

いつも通り・・・有里君が居ない分、私がみんなを支えないと・・・
「そっか・・・わかった・・・ありがと、やってみるね」
『・・・お葬式とか・・・・・・いつから?』
夏紀ちゃんが遠慮がちに聞いてくる

「え・・・っと、明日の 一時からよ」
『そっか、じゃあ明日そっち行くから』
「・・・来てくれるの?」
私が驚いていると夏紀ちゃんは

『あったりまえじゃん!・・・風花の大事な友達だったんでしょ?』
と言った。
「うん・・・ありがとう・・・・・・じゃ、明日ね・・・」

通話を終えて、携帯を仕舞う。


(・・・ケイスケ先輩とは、先輩が卒業しても絆が残ってる・・・夏紀ちゃんとは、学校が
 変わっちゃったけどまだ繋がってる・・・・・・なら・・・有里君に・・・もう会えなくなっても・・・
 絆は、残ってるよね・・・?)
胸に手を当てて、窓の外を見る
外には麗らかな春の夕焼けが広がっていた。




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