翌朝俺が目を覚ますと、居間にいたはずが寝室のベッドで横になっていた。 いつ移動したのだろうと考えたけど、覚えが無い。 あくびを噛み殺しながらベッドを降り、とりあえず部屋を出る。 居間に向かうととうに着替えたナオヤが、テレビを見ながら朝食を取っていた。 食卓に当たり前のように自分の分が並んでいるのを見て、少し嬉しくなった。 「おはよう」 声をかけると、ナオヤはそこでようやく俺に気付いてテレビに向けた目線をこちらに向けた。 それから、笑っているような、苦笑しているような微妙な笑みを見せると 「寝相が悪いのは相変わらずか…」 と呟いた。 「………?」 俺は意味が判らず暫くナオヤの顔を眺めていたけれど、 ナオヤの目線が俺の方…というより、俺の頭の辺りに向けられている事で気がついた。 頭に手をやると、髪が酷い寝癖になっている事が分かった。 「………………」 唖然としてナオヤを見ると、今度は面白がるようにニヤニヤとした笑みを浮かべている。 俺が何か言おうと口を開くと、それを遮るようにナオヤがしれっと呟いた。 「…何だ、俺は何もしていないぞ?」 「〜〜〜〜〜ッ」 その辺りで俺の中の何かが限界を超えた。 戸口から身を翻して洗面所へ行き、急いで髪を直し始める。 恥ずかしさのあまり、居間で食事を続けているであろうナオヤに悪態をつく 「なんでっ、なんで昨日…俺が寝た後に乾かしといてくれなかったんだよ!」 言うと、居間からナオヤの返事が聞こえてきた。 「知らん、俺はお前が寝ていたから布団へ運んだまでだ」 正論なんだけど、確かにナオヤが俺の髪を乾かす義理はないんだけど、それでも言わずにはいられない 「な、なら俺が戻ってきたときにすぐ言ってくれればよかったんだ!」 小さい子の我儘みたいな事を言うと、 「お前は今年で幾つになる?そんな寝ぼけた事を言う歳だったか?」 案の定あっさり切って捨てられた。 「けどっ、気づいてたんなら……起こしてくれたって………ッ」 ろくに反論も出来なくて、だんだん尻すぼみになりながらも言う。 「………………………」 そこでふと、ナオヤの返事が返ってこない事に気がついた。 櫛を持った手を動かしながら居間の方へ声をかけると 「ナオヤ?」 「…起こしたら起こしたで、お前は機嫌が悪くなるだろう」 「……ッ!?」 すぐ後ろで声が聞こえてきて、文字通り飛び上るほど驚いた。 ナオヤはそんな俺の態度に対して特に反応は見せず、 鏡越しに俺を見やると 「貸せ」 と呟いた。 「………え?」 状況が飲み込めないで同じく鏡越しにナオヤを見ていると ナオヤは小さく息を吐いて俺の手から櫛を奪うと、未だに酷い事になっている 俺の髪に櫛を入れ始めた。 「ちょ、ナオヤ………」 「動くな」 突然の事に振り向こうとすると、それより早くナオヤの手が伸びてきて 俺の頭を押さえ、櫛に髪を通し始めた。 寝癖の事で恥ずかしいような照れくさいような、それでもナオヤに髪を整えてもらえる事で 嬉しいような何とも言えない気持ちになっていると 不意に、インターホンが鳴った。 「…ッ!?」 吃驚して戸口を振り返るとまた、インターホンが鳴らされた。 ナオヤも作業を止めて戸口に目を遣っている。 「……………」 そうしている間にも、3秒くらいの機械的な間隔で呼び鈴が鳴らされている。 「………ナオヤ」 窺うようにナオヤを見上げると、ナオヤは俺にそこに居ろと言い捨てて玄関へ向かって行った。 放置された俺は、とりあえず鏡で髪がいつもと同じくらいにまで整っている事を確認して、 居間に戻って朝食を摂る事にした。 「……相変わらず和食なんだな…」 机に並べられた料理を眺めながら、席について手を合わせてから食べ始める。 焼鮭、白米、味噌汁、浅漬け、納豆……典型的な日本人の食卓というような料理に順に箸をつけながら、 付けっ放しになっていたテレビに目を向ける。 『………昨日午後10時に行われた記者会見では、今回の東京封鎖の原因はテロ組織による東京山手線 の通る駅への毒ガス攻撃であると説明されており、自衛隊を派遣し市民の安全を確保するための封鎖であった との報告がなされました。…しかしながら、山手線内に残された都民へのインタビューでは、山手線外へ 出ようとした都民が射殺された……十分な救助活動が行われていなかったなどの話があり、政府の対応の 問題点が指摘されています……それを受け国会では、本日より東京封鎖事後検証委員会を設置する方向で…』 淡々としたアナウンサーの声と共に、封鎖で破壊された東京の街並みが映し出されている。 封鎖から一夜明けた今でも、まだその被害が生々しく映っている。 (……こんな中を…俺たちは生き延びてきたんだよな…………) 突然に巻き込まれた東京封鎖、COMP、契約、翔門会、ベル・デル、王位争い…… たった一週間の中で起こった事が、鮮明に蘇って来る。 ナオヤに言われた事、チャラ男に言われた事、アマネ…レミエルに言われた事……自分自身が決断した事。 そう言ったものすべてが一気に蘇ってきて、俺は無理矢理に思考を閉じた。 俺は気持ちを切り替えるように一気にお茶を飲み干すと、一向に戻ってこないナオヤの様子を見に行くことにした。 居間を出て玄関の方へ向かうと、ナオヤと来訪者であろう人物が言い合いをしているようだった。 「…ですが……月森氏の技術がなければ……」 「知らん、俺は確かに奴らに協力をしたが、貴様らに協力をしたつもりは一切無い」 「そこを何とか……このままではせっかくの技術を利用する手立てが…」 「…それでも貴様らは日本政府の技術開発の人間か?俺が組んだプログラムは俺のみが扱えるような代物には していなかったはずだが?……恐らく俺の弟子ですら動かせるぞ」 「………しかし……」 話の断片から、今後利用されるであろうサーバーに関する話らしいという事が分かった瞬間、 俺は廊下を飛び出していた。 「ナオヤッ、その話!」
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