・14:30 ヒルズ前 「…はい、…了解、私も合流し封鎖解除の準備に入ります」 イヅナさんはそう言って手にしていた無線を戻すと、俺たちに向き直って笑顔を作った。 「今日の夕方頃、封鎖が解除される事が決定したわ…これも全て貴方達のおかげよ…本当にありがとう。感謝の言葉もないわ」 その言葉に俺たちは顔を見合わせた。 「…やったぁ!私たち、ホントに封鎖を解除させちゃったんだ…!」 「よっし、長い道のりだったぜまったく!」 「…これで、また元の日常に戻れるんだね…」 「…パパ、やったよ!あたし…あたしたち、やったよ!!」 「終わったのね…ようやく……みんなお疲れ様」 皆が思い思いの言葉で喜びを分かち合っているとイヅナさんが 「封鎖は準備の出来た駅から順に解除されると思うわ。 本来ならちゃんとお礼をしなければならないんだけれど…私も封鎖解除の準備に行かないと」 と言った。 それを聞いてアツロウが、 「…いいっすよ、お礼なんて!俺たちは出来る事をしただけなんすから… イヅナさんもありがとうございました。俺らに協力してくれて…ホント助かりました」 と言って頭を下げた。 イヅナさんはその様子を見て微笑むと 「…ありがとう、そう言って貰えるとこれまでの苦労も救われるわ ……じゃ、私はもういくけど…皆道中気をつけてね!」 と言い残して走り去った。 それを皮切りとしたように、他の皆も自分たちの帰路へと向かい始めた。 「…じゃあね、アツロウ、ミタカ!一週間本当にありがと…また、学校でね!」 「封鎖は終わっちゃったけど、また会おうね!イベントとかやるから…見に来てね!」 「月森君…ボクは…君に会えて本当に良かった。君のおかげで、ここまで来られた… ありがとう……それじゃあ…」 「御貴君…クドラクの事…、今回の事…本当にありがとう。明日からあの人の分もちゃんと前を向いて 生きていける気がするわ…また、どこかで会いましょう!」 1人1人が声をかけて、封鎖の外へと帰っていく。 後には俺とナオヤ、それからアツロウが残された。 「…アツロウ?帰らないの?」 俺が尋ねると、アツロウはちょっと笑ってナオヤの前に行くと、 「ナオヤさん…その……手伝ってくれて…ありがとうございました!」 深々と頭を下げた。 ナオヤはそんなアツロウの態度に 「…ゲームに負けたのは俺だからな…仕方あるまい…今回は弟子の発想力と弟の可能性を 見られただけでも良しとするさ」 と言って青山霊園で見せたような笑みを浮かべると下駄を鳴らして歩き出した。 俺はナオヤを追いかけながらアツロウを振り返り、 「アツロウ!いろいろありがとな!お前が居てくれたおかげで…俺、すごく助かったから…じゃ、またな!」 と声を張り上げて手を振ると、アツロウも満面の笑みを浮かべて手を振り返してくれた。 ナオヤに追いついて斜め後ろを歩いていると、 「…お前は帰らんのか?」 と横目で俺を見ながら聞いてきた。 俺はナオヤの眼を見返しながら 「うん、疲れたし…俺ナオヤん家泊ってもいい?」 と聞いてみた。冗談半分で言ったつもりだったんだけどナオヤは 「……好きにしろ」 とだけ言ってまた先を歩きだした。 この辺りはまだ封鎖が解除されていないのか交通はマヒしたままで、 六本木から歩いて青山まで行かなければならなかった。 ナオヤの家に着いた頃には全ての封鎖が解除されて、日が傾きかけていた。 「シャワー借りるよ?」 俺が言うとナオヤはまた 「好きにしろ」 と呟いてパソコンの前で何やら作業を始めていた。 俺はナオヤの部屋の箪笥から勝手に服を拝借すると、 早々にバスルームへ向かった。 × バスタオルで頭を拭きながら居間に戻ると、ナオヤはさっきと同じようにパソコンの前に座っていた。 「何やってんの?」 画面をのぞきながら聞いても 「…あぁ」 と生返事をするだけで答えが返ってこない 「…………」 少し考えた俺は両手でナオヤの頭をつかみ、強引にこちらを向かせてみた。 「…何だ」 嫌がるでも振り払うでもなく、ただ呼ばれたから返事をしたというように 俺を見返すナオヤと眼を合わせたまま何を言おうか困っていると 「手を離せ……汚れるぞ」 ナオヤは頭をつかんだままの俺の手を外してくる 「…いいよ、別に」 「…また風呂に入れる手間と俺の家の水道代が勿体ない」 そんな事を言って、またパソコンに向き直ってしまう ちゃんと相手にしてもらえず俺は、ナオヤの耳元でもう一度言う 「だから、何やってんのってば」 パソコンの画面には、良く分からない英数字や記号が表示されていて、 俺にはさっぱり理解が出来なかった。 画面の方を向いたままのナオヤは、薄く笑いながらようやく返事を返した。 「…これはラプラスメールだ」 その台詞がナオヤの行っていた作業の答えだと気づくのに、数秒かかった。 「………これが?」 「そうだ」 はっきり言ってとてもそうには見えなかった。 こんな英数字から未来が予知できるなんて、想像がつかない 「フフ…信じられんか?」 ナオヤが笑って言うと、俺は素直に頷いた。 「…そもそも、ラプラスメールって何なの?」 俺の問いに、ナオヤは何を言っているんだとでも言いたげな顔で 「それならお前が言っていただろう…”未来を予知するメールだ”と…」 しれっと言ってきた。 「そうじゃなくて!」 俺が言いたいのはそういう事じゃない と続けようとした時、ナオヤが俺の言葉を遮って言った。 「ラプラス…という数学者を知っているか?」 正直に首を振るとナオヤは苦笑して 「ピエール=シモン・ラプラス……このラプラスメールの基となった…”ラプラスの魔” という概念を主張したフランスの数学者だ」 と説明を続けた。 「え!?」 「…なんだ、ラプラスメールはゼロから俺が作り上げたとでも思ったか? さすがの俺でもそこまでの知能はまだ無いさ…フフ……続けるぞ?」 俺が頷いたのを見て、ナオヤはまた説明を続ける。 「この男は、古典物理学が席巻した近世科学において自著でこの様な論を主張した… ”もしもある瞬間におけるすべての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつ もしもそれらのデータを解析できる能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては 不確実なことは何もなくなり、その目には未来も過去同様に見えているだろう”とな」 昔の文章独特の小難しい言葉に頭をひねっていると、 「分かりやすく言えば…そうだな、天気予報の様なものだ」 ナオヤが例を出してくれた。 「天気予報?」 「ああ、あれは日本上空の雲の動き、気圧の変化から一週間の予報を割り出すだろう… それと同じように人間、交通、街…あらゆるものの変化を瞬時に読み取り、解析し その未来を予知する…それがラプラスの魔だ」 「…分かったような……分からないような……?」 「まぁいいさ、これを応用し俺が組み上げたプログラムが…ラプラスメールというわけだ」 誇るでもなく、自慢するでもなく淡々と言うナオヤに 「…じゃあさ、そのプログラムを使えば今後の未来も全部分かっちゃうわけ?」 俺がパソコンの画面を覗き込みながら言うと、ナオヤは首を振った。 「いや、残念ながらこのプログラムは狭い範囲での事象を割り出すのが限界のようでな… 封鎖当初は自衛隊と天使共による停電と情報封鎖によって山手線内のみで機能できていたが…封鎖が進み 魔界との霊的因子のバランスが乱れ始めた結果…有効ではない因子が多すぎて使い物にならなくなった」 「あ…だから途中で配信が中止されたんだね」 sorry! Prediction is impossible! Cancel delivery. 有効でハない因子ガ多すぎます。 ラプラスメールの配信を中止しまス。 みな■ま、有意_な_生■! あの日、ラプラスメールに表示された文章を思い出す。 日に日に文字化けし、読めなくなっていく文面はなかなか不気味な物があった。 「あぁ、プログラム自体はここから調整できたが…如何せんそのサーバーがベリトによって 魔界へ持ち去られてしまったからな…最終的には俺でもどうしようもなくなった」 「あのメール…封鎖内での行動の指針になってたけど、だんだん文字化けが酷くなってて 読めなくなってたんだよね」 俺がそう言うと、ナオヤは興味深そうに言った。 「ほう…メールの文面自体はシステムプログラムに従って送信されるようにしていたが… そこにもサーバーの影響が出ていたか…どれ、見せてみろ」 言われるままCOMPを差し出すと、ナオヤはすぐにパソコンとCOMPをつないで再び作業を始めた。 俺が見ている中、ナオヤはキーボードを叩きながら何やら呟いている。 「なるほどな…解析結果をサーバーへ送信した際に次元の歪みでも介入したか……面白い… やはりデータのやり取りとはいえ、魔界と人間界を何の補助もなしに行き来するのは至難の業…ということか」 それから10分くらい待ってもナオヤは止まる事を知らなかったので 「……何でもいいけどお風呂入ったら?お湯冷めちゃうよ?」 と言ってやったらようやく作業を止めて席を立った。 部屋を出ながらナオヤは 「…ヘッドホンが壊れているだろう、後で直してやるからそこに置いておけ」 とだけ言い捨ててバスルームへ向かって行った。
アトガキの様なもの
ようやく出せました、アツロウルート後日談的小説
序盤からどう書くか少し悩みまして、こんな感じになりました。
ナオヤルートで神の支配についてちょっと妄想を入れたので
アツロウルートでもラプラスメールについて妄想入れてみました。
数学者ラプラスについての記述はウィキペディアを参照させていただいてます。
今後もちょくちょく妄想入れつつ書いていきますのでよろしくお願いします
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