「・・・お前、真田明彦か?」

牛丼屋の前で俺に声を掛けた奴は、初対面だが良く知る人間だった。
雑誌などでよく取り上げられた日に焼けた顔。
夕焼けの中でも目立つ白い歯

「・・・・・・早瀬か」
俺がそう返すと嬉しそうに
「ああ、早瀬護だ・・・お前は良く知られて居るからあまり初対面の様な気がしないな」
と俺が思ったのと同じ様なことを言って笑った。
それから店を指差すと、
「今から夕食か?良ければ一緒に食わないか・・・ここで会ったのも何かの縁だ」
そういいつつ店の中へ入って行った。



「・・・アイツには手紙を寄越したがやはりもう一度会いたくなってな、土日を利用して
 また厳戸台へ来てみたんだ」
言いながら牛丼を掻っ込むと、すぐさまカウンターに向かって
「お代わり!次もつゆだく大盛で頼む」
と器を差し出した。
俺は
「そうなのか」
とだけ呟いて目の前の牛丼に集中する。

それから二杯目を掻っ込みはじめた早瀬が
「・・・お前・・・・・・本当に飯とプロテイン並べて食うんだな」
と呟いた。
早瀬の視線を辿ると、カウンター席に置いておいた外食用のプロテインの錠剤が
目についた。
「・・・ああ、食事もトレーニングの内だ」
「そうか、有里がお前の事を心配していたぞ・・・あれだけ栄養を摂って減量が必要な
 ボクサーとしては大丈夫なのか・・・ってな」
早瀬はそういって笑うと、俺に断りを入れてプロテインの容器をしげしげと眺める。
「問題無いさ、摂った以上にトレーニングしているからな」
と俺が言うと
「それも聞いたぞ。自分も先輩のようにしっかりとしたトレーニングをしないといけない
 なんて言ってたな・・・あと、先輩は努力家で尊敬している・・・とな」

(・・・有里が俺のことをそんな風に・・・・・・)
アイツがいなくなって初めて聞く、アイツが俺へ抱いていたであろう感情に
(言ってくれれば・・・もっと効率の良い筋肉の鍛え方を教えてやれただろうに・・・)
今更しても遅い後悔がよぎる。

「アイツは良い選手だと思わないか?・・・陸上は初めてだとか言いつつも大会上位入賞だろう
 あの時こそ俺が勝ちを譲らなかったが・・・今後はどうなるか分からん。だが・・・
 そこがアイツのライバルとして楽しみな所でもある」
「・・・そうか、そうだな・・・・・・」
そういえば戦いの時もアイツの動きは中々目を見張るものがあった。
上手くペルソナと通常武器を使い分けていた様に思える。

「・・・アイツはどうしてる?元気に陸上やってるか?」
早瀬がそう尋ねた時、俺はどう答えるべきか迷った。
確か美鶴がアイツの死はひとまず肺炎ということにしてくれと言っていたが・・・

「・・・・・・何だ、季節の変わり目で調子でも崩したか?」
黙り込んだ俺に早瀬は笑いながらそう言った。それから、
「もしそうなら見舞にでも行きたいんだが・・・」
と呟いた。
俺はそれを遮って、
「・・・いや、アイツは死んだ・・・・・・肺炎だそうだ」
とだけ何とか言った。
早瀬はそれを聞くと
「何!?肺炎だと・・・・・・・・・惜しいことをした。アイツは選手としてだけじゃない
 人間としても優れた奴だった・・・くそっ・・・」
と呟いた。それから呼吸を整えると
「・・・・・・すまないな、急に取り乱すような真似をして・・・良ければ・・・アイツの葬儀の
 日取りか何かを教えてもらえないか。今日の列車で帰る予定だったが・・・アイツの事
 ならばそうもいかないだろう・・・」
と真剣な顔をして言った。
俺は美鶴から聞かされていた“お別れ会”を思い出し、その日時を教えてやった。
「・・・明日の・・・午後一時か・・・わかった ありがとう。必ず行く」
早瀬はそれだけ言って店に代金を払うと、静かに出て行った。

残った俺は冷めた牛丼を掻っ込み代金を払うと、暗くなりかけた寮への道を歩いた。



寮に戻った俺は誰も居ないラウンジを抜けると、真っ直ぐに自分の部屋へ入った。
後ろ手に扉を閉めると、沸き上がるどうしようもない怒りに思わず悪態をつく。
「・・・クソッ、何故だ!何故お前まで死ななければならない!!・・・・・・両親、美紀
 シンジ・・・そしてお前だ!・・・俺が何をした!?何故俺の大切な人間ばかり俺の手の
 届かない所に行っちまう!・・・・・・ッ・・・何故俺は大事な奴を守ることが出来ない!?」
怒鳴りながら、何度も拳を扉に打ち付ける。
何度も、何度も

(・・・守るための力じゃないのか・・・手遅れにならないために力を付けてきたんじゃないのか・・・・・・)

「・・・俺は・・・・・・俺はッ・・・・・・畜生ッ!!」
もう一度強く扉を打ち付ける。
その憤りは暗い部屋に虚しく響くだけだった。
(・・・何が足りない?・・・・・・俺が大事な物を守るには・・・・・・何が必要だ・・・?)

今の俺には答えを見つけることは出来なかった。
ただ胸の奥には無力感だけが広がっていた。


「・・・有里・・・・・・すまない、・・・俺はお前すら守ることが出来なかった」
守られていたのはいつも俺達の方だった。

俺の後悔すら暗い夜空に飲み込んで、大切な人を失ったまま夜は更けていく。
雲一つ無い空にはそんな俺達を嘲笑うかのように月が輝いていた。




←戻 次→


フレーム未対応、携帯電話の方は以下のリンクから戻ってください。
対応している方がこちらを押すと携帯用Topに戻ってしまいますのでご注意ください

◇Index
◆Top
◇Novel