戦いは…終わった…
タルタロスも、影時間も、消え去った。
奇跡は起こり…世界は、滅びをまぬかれた。
そして…街にも、平穏と普通の暮らしが戻った。
もう誰も、天変地異の事など覚えていない。
そして…季節は流れた。
……。
1ヵ月後…
僕は部屋で勉強をしていた。
冬休みも終わり、影時間もなくなった今
学生としての本分を全うしなければならない
タルタロス攻略に費やしていてなかなか勉強に手が回らなかったけれど
これからは十分に時間を割ける。
苦手分野の対策をしなければ……
―――ドクン
「……ッ」
奇妙な動悸とともに体の力が抜けた
全身に眠気にも似た倦怠感が広がり、
四肢の感覚が薄れていく…
僕は思わず感覚の無くなっていく両手で自身の体を抱き
それをやり過ごす
戦いが終わってから
たびたびこのような倦怠感に襲われることがあった
2月に入ってすぐは一週間に一度
その後は週を重ねるごとにその間隔が短くなってきて
今は日に2,3度 こういうことがある
しばらくは動くことが難しいけれど
じっとしていればじきに収まる
恐らく”あれ”の影響だと思う
けれど、僕にはまだ意識を手放せない理由がある
ニュクスを倒しにいく前にみんなと誓った約束
”たとえ記憶を失っても、卒業式までには思い出して再会しよう”
そう、いまみんなはS,E,E,Sだったときの記憶は無く、
普通の学生として過ごしている
”あれ”のおかげかは分からない、ただ一人 僕だけはその記憶を持っている
そのせいかたまに会話が食い違うけど、無理に思い出させることだけはしたくない
僕はみんなを信じている みんながちゃんと思い出してまた出会えることを
「――…………」
全身がだるい
体の内側を引っ張られるように眠気が襲ってくる
部屋は暖房で暖かいはずなのに
四肢は冷たく感覚が無い
僕は体を抱く腕に力を籠め、意識をつなぎとめようとする
(…まだ……まだそっちにはいけない……約束、を……果たして無い…)
こんなときに決まって思い出すのは、事故のこと、綾時のこと
そして――自分のこと
あの事故のことを当時の僕ははっきり覚えていなかった
気づいたら病院で2週間近くが立っていて
親戚の叔母夫婦のもとに引き取られることが決まっていた
そう、でも確かにあの時 確かに僕はムーンライトブリッジにいた――
・・・・
10年前のあの日、僕はいつもは夜勤で遅い両親とポートアイランドに来ていた
なんでも久しぶりに休みが取れたから
外食に行こうと父さんが言い出して、たしか桐条の経営するポートアイランドで食事を済まし、
帰宅する途中だった。
僕は後部座席でうとうとしていて、父さんと母さんは仕事の話をしていたと思う
ちょうど橋に差し掛かったときに
大きな爆発音が聞こえて僕は目を覚ました
「……何かしら」
「…わからない……ただ、結構近いな…早く移動したほうがいいかもしれん」
そう交わす両親を見上げて、しばらく寝ぼけていたときに
”それ”は―――来た
ガシャアァァン!!!!!
轟音と共に、
人と同じくらいの、けれど人とは思えない”何か”が
僕たちの乗る車のすぐ前に落ちてきた
ゴゴゴゴゴ………
その後の地響きで急ブレーキを掛けた車は案の定バランスを崩して
「湊ッ!」
母さんの手が伸びてきて引き寄せられて、
そのときに一瞬見えた母さんの顔は悲しそうで
「仕事ばかりで構ってあげられなくてごめんね…」
とささやいた
そしてその後
僕は車の外へ放り出されていた
地面に背中をしたたかに打ちつけた後
僕の両親の乗った車は爆発炎上した
「おかあ…さん、……おと…う…さん…」
痛みをこらえてその場から立ち上がり、2人の元に駆け寄ろうとしたとき
視界の端でゆらりと動く影を見た
「…!」
見ると、さっき落ちてきた”何か”が
月――やけに大きな満月――を背に、ゆっくりと移動している
闇色の襤褸をまとい、髑髏の様な仮面を被った ”何か”
僕は恐怖でその場から動けなくなった
そのとき
僕の背後で地鳴りとはまた違った音が聞こえた
そう、機械の動く音のような
―――ィン ガシャンッ
「目標、捕捉 これより対シャドウ非常制圧兵装 アイギス 対象を排除するであります」
背後の何かは女の子の声でそういうと、
僕を飛び越えて僕の目の前の"何か"に向かっていった
「召還シークエンス ”パラディオン”!!!」
すると突如また別の”何か”が現れて襤褸をまとった何かに突進した
しかし襤褸をまとった”何か”の前に見えない壁のようなものが現れて
突進は阻まれてしまった
「くっ、一筋縄では いかない様であります」
言うなり、女の子は左右10本の指を”何か”に向けた
瞬間
ドドドドドドドッ
凄まじい音と共に弾丸が放たれた
けれども”何か”には効果が無いようで
”何か”はゆらゆらと移動しながら女の子を見ると
いつの間にか持っていたのか、細い剣を掲げた
そして
女の子に突如として雷が降り注いだ。
「あぁッ!」
ガシャン――――……ゥン
女の子は黒煙を上げながらその場にひざを付いて
それでもなお目の前の”何か”をにらみつける
「わたしの……私の役目は、”デス”を封印すること……なんとしても…
任務を、遂 行……しなければ……それが、私の生きる証…!」
「…でも、私の力では及ばない……どうすれば…」
何かをつぶやきながら女の子がつらそうに辺りを見回す
そして
その蒼い眼が僕を捉えた
「――子供」
女の子の眼には呆然と立ったままの自分の姿が映っている
そして女の子の背後には、いまだゆらゆらと漂うようにしている――”何か”
「…っ……あっ」
何かどうしようもない恐怖に襲われて、逃げようとしたけれど
足が地面に縫い付けられたように動かない
女の子は首を振ると、
「……仕方ありません、”彼”に シャドウ――”デス”を 封印するしか、もう 手立てが…」
なんとか立ち上がった女の子が、僕に近づいてくる
その後のことは覚えていない
・・・・
次に意識があったのは病室で
両親は死んだといわれて、葬儀や通夜が全部終わっていて
残されたのはある程度の遺産と、両親の骨壷 そして――僕だけだった
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