「起きろ」 朝、俺は寝てるのと起きてるのの中間みたいなまどろみの中にいた。 意識はあるけれどちゃんと目が覚めていない その状態が結構心地よくて、寝坊の原因はコレなんじゃないかってよく考える。 「……だから、起きろと言っているだろう」 …今何か頭が揺れたみたいだ まるで誰かが俺の肩を掴んで揺すっているような… ……誰かって…誰が……って、この声… 「…っこの!」 俺はその声の正体に気付くと強制的に意識を覚醒した。 ベッドのスプリングを利用して跳ね起きると、脇に立っているその声の主――ナオヤに拳を繰り出した。 ナオヤは涼しい顔で拳を避けると、 「ようやく起きたか」 と呟いた。 俺はそんなナオヤの態度にまた腹を立て、ベッドから降りると今度は脛を狙って蹴りを放つ。 「なんでアンタが俺の部屋にいるんだよ!」 ナオヤはまたそれをひらりとかわすと、 「お前が起きないのが悪い…とっとと着替えろ」 と言った。 ちなみにナオヤ自身はとっくに着替えていて、高校の夏服姿だった。 「…っうっせぇ!とっとと出てけこの電波野郎!!」 俺が手近にあるゴミ箱や本を投げつけると、ようやくナオヤは部屋の外に出て行った。 部屋の外にまで転がったゴミを拾いながら、 「10分で支度して来い」 と言い捨てて早々に階段を下りて行った。 × 俺はナオヤが嫌いだ。 なんで嫌いなのかは自分でもよくわからない もっと小さい頃は普通になついていたような記憶があるけれど(今考えると忌々しい…) 小学校に入ったあたりから俺はアイツが大嫌いになっていた。 それなのにナオヤは俺にちょっかいを出してきて、アイツは周りから頭良いだとかカッコイイだとか いわれてるけど、単なる馬鹿なんじゃないかと思う。 そんな事を考えながら服を着替えて、1階のダイニングに向かう。 食卓にはナオヤだけが付いていて、朝食も俺とナオヤの二人分しかなかった。 俺は露骨にしかめ面になりながらも席に着き、「イタダキマス」と手を合わせてから食べ始めた。 鮭の切り身を食べながら 「父さんは?」 と聞くと 「夜勤」 と返ってきた。 味噌汁を啜った後 「母さんは?」 と聞くと 「夜勤明け、寝ている」 と返ってきた。 それから 「…物を口に入れたまま喋るな」 と言われたので、俺はそっぽを向いてやった。 …今日、休みとれるんじゃなかったのかよ まぁ、あんまり期待してなかったけどさ…… 箸が止まった俺を見て、ナオヤが 「どうした」 と聞いてきたけど、俺は 「アンタには関係ない、ごちそうさま」 と早々に会話を打ち切ってダイニングを出た。 戸を閉めたところでナオヤが 「可愛げの無い奴め…」 とか呟くのが聞こえたので後で殴ってやることを心に決めて、学校へ向かった。 × 5時間目の教室はいつもより皆がざわついているように見える。 しきりに出入口のある後ろを見たり、キョロキョロしたり・・・ 俺はそんな皆の態度にだんだんと憂鬱になりながら、じぶんの席で大人しくしていた。 「ねぇ、レイヤのお母さんは来るの?」 頬杖を付いてぼーっとしていた俺に、いつの間に来ていたのかユズが明るく声を掛けてきた。 幼なじみの登場に若干表情を和らげながら、 「ううん、今日は夜勤明けで寝てるんだってさ」 苦笑しながら言うと、 「・・・・・・そっかぁ・・・」 と自分の事のようにがっかりしていた。 「なんでユズがそんなにガッカリしてるのさ?」 と聞くと、 「だってレイヤんとこのお母さん、いっつも私にも手振ってくれるから」 と嬉しそうに言った。 「ふぅん?そうなんだ・・・」 と呟くと 「ね、ね!じゃあお兄ちゃんは来るの?」 とユズが聞いてきた。 俺は“兄”という単語を聞いて不機嫌になりつつも 「・・・アイツは兄貴じゃなくて電波でいいよ。てか、ただの従兄だよ」 というけどユズはあまり聞いていない。 「いいなぁ・・・うちもお兄ちゃんかお姉ちゃん欲しかったかも・・・」 と呟いていた。 「・・・じゃあうちのナオヤ持ってっていいよ」 といってやると 「え!?・・・それは、ちょっとなぁ・・・」 ユズはなんだかビミョーな顔になって目線を逸らす。 「・・・兄貴欲しいんじゃないの?」 と聞き返すと、ユズはビミョーな顔のまま 「だってレイヤのお兄ちゃん・・・いっつもレイヤ取っちゃうんだもん・・・」 と呟いた。 「え!?」 聞き返すとユズは 「あっ、な、なんでもない!・・・あはは、も、もう授業始まるからっ・・・後でね!」 なんでもないと言うように手を振って、自分の席に戻ってしまった。 なのにときたまチラチラとこっちを見ていて、俺と目が合うと慌てて前を向いた。 「・・・・・・?」 俺はユズの奇行に首を傾げながら、席の後ろでざわついている保護者を眺めることにした。 ぱっと見誰の親かが一目りょうぜんの人もいれば、誰の親だか判らないような人もいた。 (眺めている途中でユズのお母さんと目が合って、小さく手を振られた) その中に自分と良く似た顔立ちの人が居ないことに軽く落胆すると、 なんだか期待してるみたいで馬鹿らしくなってきたのでまた前を向いた。 しばらくすると先生がやって来て、騒いでいる子に声を掛けはじめる。 「ほら、授業始めるよー、早く席についてー」 子供達は騒ぎながらも席に戻っていく ちょうどその時にチャイムが鳴って、ざわざわしていた周りの空気がいっしゅんだけ静かになった。 先生はその静かになったタイミングでしせいを正して、いつもより少しだけ大きな声を出した。 「それでは、算数の授業を始めます」 × 授業中も、教室全体がそわそわしていて落ち着かないふいんきだった。 いつもより教室が狭く感じられて、普段おしゃべりしてたり寝たりしてる子も真剣に授業を受けている。 それでときたま後ろを振り返って慌てて前向いたりして、 先生も先生で、いつもなら冗談言ったりして授業がだっせんするのに今日は真面目で、 ふだんのたいどはハリボテだったのかなってくらい“先生”らしかった。 俺はそういうクラスメイトや先生の態度に小さくいらつきながら、できるだけ普段と同じ様に授業を受けようと務めていた。 「では、この問題を考えて見ましょう・・・ちょっと難しいけど・・・わかるかな?」 先生の声にわれにかえると、黒板には大きめの二重丸と問題が書かれていた。 『円Aの中心から2m離れたところに円Bがあります。この円Bは円Aよりどのくらい大きいでしょう?』 半径や直径といった数字が書いてなくて、はたから見たら計算のしようがない問題だった。 クラスメイトも計算出来ないのか、頭を捻っている。 (AはBより半径2m分小さい・・・ってことは、半径2mの円の円周出せば、それがAとBの差になるんじゃないのか?) 俺は頭の中でそう考えて、ノートに計算式を書いてみる。 円周の公式 直径×3.14=円周 4×3.14=12.56 やけに少ない数になったけど・・・あってるのかな・・・ 計算できたは良いけど、不安になってきた。 さっきから発表しているクラスメイトも 「24000」だの「3946」だの大きい数字を出してるし・・・ もうすぐ自分に発表の順番が回ってくる 違ってたらクラスメイトの親の前で恥かいちゃうな・・・ そんな事を考えていたら、ふいに教室の後ろの戸が開く音がした。 それから、聞き慣れた声が 「・・・遅くなりました」 「・・・っ!?」 振り返ると、そこには高校の夏服を着たナオヤの姿が 周りの親も、俺のクラスメイトも突然現れた高校生にびっくりしている ナオヤはそんな周りの視線に気づいているのか居ないのか、 教室に視線をさ迷わせて、唖然としている俺を見つけるとなんともあくどい笑みを浮かべた。 (何で来たんだよっ!!) 目線で訴えても、飄々と受け流すだけで答えやしない 挙句の果てには黒板に書かれた問題を指差して (…お前にあれが解けるのか?) と挑発してきた。 俺はもう本気で頭にきて、 「…えー…っと、それじゃあ…この問題分かる人ー…」 と仕切り直して教室を見渡した先生に向かって声を張り上げた。 「はいっ!」 先生は俺の剣幕にびくりと肩をすくませながら、 「じゃ、じゃあレイヤ君…どうぞ」 「…12.56です」 答えた後で、やっぱり違うかもしれないと内心冷や汗を書いていると、 一拍後に先生が 「おぉ、正解!すごいねレイヤ君!」 と俺を大仰に褒め称えた クラスメイトからも 「すげー」 「え、何!?レイヤエスパー?」 と囁き声が聞こえてきた。 俺はそのことでさっきまでの緊張感が緩み、 誰も解けなかった問題を一発で解いたことへの嬉しさがこみ上げてきた。 得意気に後ろのナオヤを振り返ると、 そこにナオヤの姿はなく、俺の方を見ていたクラスメイトの保護者達と目が合うだけだった。 慌てて視線をそらし辺りを見回すと、ナオヤは廊下に出てなにやら電話をしているようだった。 (…んだよ…人を焚きつけといてさ…) 軽くむくれていると丁度ナオヤが教室に戻ってきた。 俺はナオヤと目線が合うよりも早く前を向き直し、そのあとはずっとナオヤを無視するように授業を受け続けた。 × 授業が終わった後は、普通に帰宅するだけだった。 保護者達は懇談会があるとかで、俺たちが帰りの会をしている間に別室に移動していた。 事情で懇談会に出られない親やその他を除いて。 「…何でいるんだよ」 俺のぼやきに、その他約一名が答えた。 「俺がお前の懇談会に参加する必要があるのか?」 「とっとと高校戻って先生に怒られてくれば?」 「生憎と俺を言い負かすような教師はいないな」 「じゃあ帰れば?」 俺の言葉攻めすらも飄々と受け流して、その約一名―――ナオヤは 「では、そうするとしようか」 と呟くと、勝手に俺の手を取り歩き出した。 予想の斜め上を突かれた俺は、そのままナオヤに連れられる形になって一瞬反応が遅れた。 「…あっ、テメ…放せ!」 一応もがいてみてもナオヤの細い右手はビクともしない 暴れる俺を意に解した風もなく歩いていく 途中でユズに出会ったけれど、ナオヤは軽く一瞥しただけでスピードを変えずに廊下を進む。 ユズは廊下でびくりと足を止めて、俺たちを茫然と見送るだけだった。 俺はナオヤにつかまれてない方の手でユズに 「じゃあな!ユズ!!また明日ーっ」 とか何とか言って、またナオヤに引きずられていった。 玄関で靴をはき(当然というかなんというか、ナオヤの靴は俺の下駄箱に一緒に押し込まれていた) また勝手に手を捕まえられて夕焼けに染まった通学路を歩きだす。 西日で人の影が長く伸びて、歩くたびにゆらゆらと揺れる様を眺めながら俺は歩く ナオヤの手はそれほど強く俺の手を掴んでいるわけでの無いのになんでか振りほどけなくて、 俺は半ば諦めつつも諦められなくて、時たまナオヤに蹴りや拳を繰り出しながら(全部避けられた) ふと疑問に思ったことを呟いた。 「…なんでわかった?」 「なにがだ」 「………授業参観、今日って、なんで知ってる」 片言っぽい日本語になりながら呟くとナオヤは何だそんな事かとでも言うように、 「お前が今朝投げたゴミ箱に案内が入っていた」 と答えた。 「…それ、プライバシーの侵害じゃねぇの」 と言うと 「投げたお前が悪い」 と取り付く島もない返答が返ってきた。 「別にアンタが見に来なくてもいいだろ」 「…偶には弟の成長を見ておくのも悪くないと思ってな」 と嘯くナオヤに 「別に俺あんたの弟じゃねぇし」 と返してやると 「いや、お前はずっと昔から俺の弟だよ」 と意味のわからない返答が返ってきた。 「………だから電波野郎だってんだよ」 小さく毒づいてやると、聞こえているとでも言うように俺の手を握った右手が僅かに動いた。 「そもそもアンタ俺の発表聞いてなかったじゃんか」 と言ってやると 「見なくてもわかるさ、解いたんだろう?」 となぜかしたり顔で言われた。それから 「あの程度の問題、お前ならば簡単に解けることは分かっていたからな… 別に見ようが見まいが結果は変わらん」 と付け足された。 「……………」 もはや返す言葉もなくて黙り込んだ俺に 「…なんだ、見ていてほしかったのか?」 と意地悪い笑顔を浮かべながら横目で俺を見る。 俺はとっさに 「なわけねぇだろ!誰があんたなんかっ……」 と切り返しそっぽを向いた。 そこでナオヤは小さくため息をついて 「…可愛げの無い……」 とかなんとか呟くので俺はまた蹴りを入れながら二人で商店街を歩く 西日に影を伸ばしながら、ゆらゆらと、ふわふわと 心に自分でもよくわからない、充足感を感じながら
友達の遠夜ちゃんに捧げた20000Hitお祝い小説です。
前回の誤爆を意識して、ナオヤ嫌いなレイヤ君…のはずが……
なんていうかごめんなさい、ツンデレイヤ君になりました(土下座
内容もなんていうか王道ですね…これは王道だからこそ面白いといいのです…が…?
個人的には夕焼けで仲良し(!?)こよしで歩いている辺りを楽しく書かせていただきました。
「見ていてほしかったのか?」っていうセリフに書きつつ吹きました(ぉぃ
こんな管理人のこんな作品ですが、よろしければどうぞお納めください遠夜ちゃん!
そしてこれからもよろしくお願いしますです。
ちなみに作中の問題は管理人の中学校で実際に授業参観中に出された問題です。
一人だけ一発正解した人間がいましたね。確か…それを小学生設定のレイヤ君に解かせる管理人は馬鹿です
なんだかいろいろとすいませんoyz
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