俺はその日、卒業式だった もちろん俺が卒業するわけじゃなくて(まだ1年生だし) あまり顔も名前も知らない3年生が卒業するんだ。 だから今日はいつもより若干登校時間が遅くて、 あわただしく準備をしなくてもいいから落ち着いて朝食が摂れる。 まぁ、俺は基本的に始業20分くらい前には学校についてるから いつもの時間でもたいていあわてることはないんだけど。 でもひとつ、気になることがあった それは、俺の母さんだ 別に母さん自体に問題があるわけじゃなくて うちの親は2人とも共働きで、夜勤だったりなんだったりと 朝は俺が登校する前に早々に出勤するか、 夜勤明けで寝ているか、はたまた会社泊まりで家にいないかが常なのだ。 なので今この時間帯に母さんが朝食を摂っているなんてのは ここ最近まずないことで、俺はしょっちゅう斜め向かいの席に目を向けていた。 (ちなみに向かいはナオヤでいまは空いている、 そして俺の隣が父さんだ ちなみにもう出勤していた) 「ん、どしたの?」 視線に気づいたのか、母さんがこっちを見た 「今日は仕事休み?」 俺の質問に、母さんは笑って 「ううん、お休みしたの」 と答えた 日ごろ仕事熱心な母さんが休むなんて…何かあったのかな 「どこか悪いの?」 と俺が聞くと、 ちがうちがうと手を振って 「今日は直くんの大学の卒業式だから」 と答えた。 あ、そうか…ナオヤって今年卒業だっけ… いつ見てもぜんぜん変わってるように見えないから、すっかり忘れてた 「へぇ、俺んとこの学校と同じだね」 というと 「時期だしねぇ」 としみじみとした返事が返ってきた。 「じゃあ今日直哉帰ってくるの?」 と聞くと 「そうね…やっぱり卒業だし、お祝いしなきゃね……よし、会席料理でも食べに行こうか?」 うれしそうに若干ずれた回答をしてきた。 「いいんじゃないかな 直哉和食好きだし」 スルーしてそのまま答えると 「じゃあ予約入れときましょうか」 とまた嬉しそうに朝食を食べ始めた。 朝食の後母さんは 「さーて、直くんかっこよくしなくっちゃ あ、レイくん戸締りよろしく!あと早く帰ってきてね!」 とか何とか言って、あわただしく青山のアパートへ向かっていった。 あ、俺もそろそろ出ないと… × 卒業式が終わって、教室で春休みの課題やらプリントやらをまとめて帰宅の準備をしていると、 「レイヤぁー 一緒に帰ろうぜ!」 と後ろから声をかけられた 「いいよ」 振り返ると、もう帰る準備を終えたのか、肩に鞄を掛けたアツロウが立っていた 首の辺りに手をやって揉みほぐしながら 「もー来賓とか校長とか話し長くないか?俺肩凝っちまったよ…」 と唸っている 「あんたの場合はどーせパソコンで徹夜でもしたんでしょ?」 今度は振り返った姿勢の俺の後ろで声がした 「うわ、ユズ どっから沸いてでたんだよ」 アツロウが驚いて後ずさりする 「ちょっと、人を虫みたいに言わないでよ!」 「まぁまぁ…」 俺がなだめるとユズは気持ちを切り替えたのか 「ね、レイヤ 一緒に帰ろ? 卒業式で早く終わったし、なんか食べてかない?」 と俺の机に身を乗り出して訊いてくる 「はいはーい!俺、マックがいい!」 アツロウが挙手すると 「アツロウには聞いてないでしょ〜」 とさっきの仕返しに出る 「ひでぇ…!」 俺はそのやり取りに、思わず笑ってしまった 「な…レイヤ 笑うなよ!俺の傷心を…」 憤慨するアツロウをよそに、ユズが再び俺に訊いてくる 「で、どうする?どこ行く?」 …あ、そういえば今日は早く帰って来いって言われてたっけ…… 「…俺あんまり時間無いよ?それでもいいならいいけど…」 時間が無いといわれてユズとアツロウがそろって不思議そうな顔をする 「時間無い、って…何か予定でもあるの?無理ならいいんだけど……」 「あ、予定ってほどじゃないんだけど、今日ナオヤの大学も卒業式でさ 親が夕食外食にするって」 「へぇ、ナオヤさんの大学も今日なのか…」 アツロウが少し感慨深げに言う 「まぁ、そういうわけだから ここで時間つぶすのも勿体無いし そろそろ行こうか?」 と俺が席を立つと、ユズとアツロウが後に続いた。 × 「ただいまー」 俺が2人と別れて帰ってくると、玄関先に 小奇麗な革靴が二足あった 母さんもナオヤも帰ってきてるみたいだ。 …父さんは……まだみたい…かな? 靴を脱いでリビングに向かうと、 ソファに見知らぬスーツ姿の男が不機嫌そうに頬杖をついて座っていた 「………誰?」 たっぷり数十秒は固まった俺がようやく言葉を発すると その男が顔を上げた 独特の白い髪に、目立つ赤眼・・・・てことは 「え、これナオヤ!?嘘!」 思わず声を上げると 「…人を”これ”呼ばわりとはご挨拶だな」 直哉が不機嫌そうに言う まぁ、そうだけど…… だってさ、普段のナオヤからはどう考えても無理な格好をしてるんだよね まず、黒地のスーツに、チャコールグレーのドレスシャツ、で臙脂のタイに… 極め付けが コレだ、普段のあのうっとうしそうな髪の毛を オールバックにしてるもんだから 俺が見たってどっかのホストと同格だ。 「…言って置くが、”コレ”は俺がやったんじゃないぞ」 俺の今の表情で考えていることが分かったのか、ネクタイを乱暴に緩めながら 言い訳がましく言ってくる 「どこのホストかと思った」 と俺が言うと、 「…………」 苦虫を百万匹くらい噛み潰したような表情をした。 「あらっ レイくんおかえり!直くんすごいでしょう?母さんがかっこよくしたのよ!」 と奥のキッチンからこっちは見慣れたスーツ姿の母さんが現れた 自分でコーディネートしたらしいナオヤをこれでもかと褒めちぎっている 「やっぱり直くんは素がいいから何着せても似合うわ〜」 とかなんとかいって小躍りしている 「………」 当のナオヤはそっぽを向いてため息をついていた まぁ、母さんから逃げるのはナオヤでも難しいだろうな…我が家の最強だし 俺は軽く同情しておいて、 「父さんは?」 とまだ踊っている母さんに聞いてみる 母さんはようやく踊りをやめて 「さっき連絡したら もう来るって」 と言った 「ふーん 会席なら俺は学ランのほうがいいのかな?」 とナオヤの隣に腰を下ろしながら聞くと、 「レイくんの好きでいいんじゃないかしら?あ、それともレイくんも直くんみたいにかっこよくする?」 といたずらっぽく訊いてくる母親をなだめてしばらく待つと 「帰ったぞー」 と玄関から父さんの声がした 「あらっ」 母さんがうれしそうに玄関へ掛けて行った。 そのあとになにやら楽しそうな会話が聞こえてきた 「ナオヤ」 「何だ」 声を掛けると、不機嫌さが幾分か直ってきたのか いつもの声音に戻ってこっちを向いた。 「………卒業おめでとう」 いつも見慣れている筈のナオヤがいつもとは違う格好をしていて、 それがまた似合いすぎていて妙に落ち着かない 何を言おうと思ったか忘れたのでとりあえず祝いの言葉を述べてみると 「あぁ、ありがとう」 と満足そうに頷いた 「あ、俺ナオヤに……」 そのあとで俺が何を言うつもりか思い出したので言おうとしたら いいかけたところで玄関から母さんと父さんが入ってきた 「じゃーん 見てみて!すごいでしょう?」 と興奮気味の母さんをよそに 「ほぉ…こりゃあまた…すごいな…」 と父さんが言った 「………」 俺とナオヤは向かい合った姿勢のまま固まってお互いに瞬きをした そしてその後同時にに顔を父さんと母さんのほうに向けると 父さんが 「卒業おめでとう 直哉」 と、さっき俺が言ったように言った ナオヤはまた 「ありがとう 叔父さん」 と返した 「さて!みんなそろったし、会席行きましょう!」 と母さんが柏手を打った 「どこの店頼んだの?」 と俺が聞くと 「せっかくだし、超豪華よ フルコース!」 「母さん…それはフランス料理とかじゃないかな…」 テンションの高い母さんに、さりげなく父さんが突っ込みを入れつつ、 俺たちは家を後にした × 結構値のはる会席を堪能した後、家に戻ってきた。 家に戻った後も母さんがナオヤと父さん相手に酒盛りしていて、 さっきようやく父さんをつれて母さんが二階へあがっていった。 父さんは酒にそこまで強くないのに酒豪の母さんに付き合わされて、 早々にダウンしてしまって若干かわいそうだった。 そしてもう一人、ナオヤはというと… 「生きてる?」 「……あぁ」 ソファにもたれ、酔いを醒ますためか新聞を読んでいるナオヤの隣に座る さっきまでのホストみたいなスーツから、いつものシャツと着物に着替えていて オールバックになっていた髪も元に戻っている。 ようやくいつものナオヤが見られた といった感じだ 「はい」 俺は酔ったときに飲むらしい、正直こんなもん飲んで平気なのかとでもいいたくなる あのドロッとした液体薬(液××ベとでもいえばいいのか)を渡した。 ナオヤはさほど酔ってないように見えるんだけど、 昔母さんが呑んでも顔の赤くならないナオヤにしこたま飲ませてえらいことになったらしいから 用心しておくに越したことは無い 「あぁ、悪いな」 とナオヤは器用に片手でその蓋を開けて、さしてまずそうにもせず一気に飲んだ 見ているこっちの口内が不味くなりそうな薬なのに…よくああも一気にのめるな… 「不味くないの ソレ」 と聞くと 「…不味い」 としばらくして返答が帰ってきた ナオヤでも不味いものは不味いらしい… 「やっぱり」 と俺が言うと 「水汲んで来い」 と細い人差し指をキッチンに向けた 俺は特に断る理由も無かったのでナオヤが飲んだ薬のビンを回収してキッチンに行き、 せっかくだからと緑茶と、今日の帰りに寄った和菓子屋の和菓子を添えて持ってきた。 「……気が利くな」 正直予想してなかったのか、ナオヤが新聞を読む手を止めて和菓子を見る コレはナオヤの大好物ってのを俺は知ってるんだ。 「今日の帰りにユズとアツロウと寄ってさ 卒業だし、どうせならと思ってね」 と笑って皿と緑茶を差し出すと 「及第点だな」 と早速緑茶で薬の苦味を流してから和菓子を食べ始めた 正直夜にお菓子ってどうかと思ったけど、 ナオヤは太らなさそうなので多分大丈夫だろう 「さっき渡そうと思ったんだけどさ…ほら、帰ってきてソファ座ってる時に、 でも母さんたちがきたからタイミング逸れちゃってさ」 というと、 「別にいつでもかまわんさ」 と和菓子を食べながら言った。 「ナオヤ」 俺が呼ぶと、和菓子をすべて食べ終え緑茶を飲み干したナオヤが 「何だ」 と顔を上げこっちを向く そして俺はその瞬間に パシャリ と、携帯のカメラを構えてシャッターボタンを押していた 「何だ、急に」 と怪訝そうなナオヤに俺は 「ふうん…別に写真が嫌いってわけじゃないんだね」 というと 「どういうことだ」 とますます顔を不可解だというような感じにした 俺はナオヤに、前にナオヤが中学や高校の時の卒業アルバムを見たときに、 ナオヤが遠足や修学旅行の写真にまったくといっていいほど写っていないことを説明した。 「……だからさ、ナオヤ 写真に写るの嫌いなのかなーと思って、 班とかクラス写真だとたいてい無表情…てか仏頂面に近いし」 と俺が言うと 「…あんなもの、撮る相手も撮る意味もないしな」 といった 俺はその言い方に妙な引っ掛かりを感じたけど、あまり気にしないことにした。 「まぁ…ナオヤがみんなと写真ってのも想像できないしね」 と俺が言うと 「どういう意味だ?」 とまた不可解そうな顔をした 「だってさ、ナオヤが友達とピースサインでにっこり笑顔 とか…俺想像つかないもん」 としたり顔で言ってやると 「…………」 直哉は妙に神妙な顔をして黙ってしまった 図星だった…かな………? 「………………」 俺が地雷を踏んだか!? と若干冷や汗をかいていると 「いいだろう なら 見せてやる」 と耳元でナオヤのいつものあの最っっ高ににやりと笑ったときの声が聞こえた 「!?」 俺がソレに反応して顔を上げたとき――――――― 「ぅ…ん……?………あれ…?」 気づいたらもう朝で、俺はソファで眠っていて、体にはナオヤの着物がかかっていた 「あ…れ 夢……?」 先ほどまでの出来事は夢なのかと思って回りを見渡すと ソファの前の机には昨日俺があげた和菓子の皿と湯のみが置いてあって (ていうか自分で片付けろよ) 近くには新聞も置いてあったから、昨日のアレはたぶん夢ではないんだろう ……けど…最後に見たナオヤのアレ… 夢だったのか現実だったのか 正直俺には分からなかった。
友達の遠夜ちゃんに捧げた1000Hitお祝い小説です。
なんというか、コンセプトは「主人公の携帯の写真はなんだろう」と「ナオヤをどこまで弄れるか」
だったんですが(ぇ) すいませんすいませんすいません といった感じです。
主人公父母はもう、適当です(笑)母親は天然酒豪で父親は温厚といった具合
ナオヤですら逆らえません(マリ先生にめっぽう弱いカイドー的な感じです)
主人公はこんな親に育てられてあんな風に育ったんだろうとか思います。
遠夜ちゃん宅のレイヤ君、実はナオヤ大嫌い設定だったらしいですが誤爆して
自分宅の主人公と大差が無いような…ますますすいませんorz
次回(まだ書く気か)気をつけます…
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