DAY After route GIN
 
封鎖が解除された後、俺達は渋谷901前まで戻ってきた・・・
「あー!ようやく帰れるな まったく長い一週間だったぜ」
大きく背伸びをしながらアツロウが嬉しそうに言う
「ホント、長かったよね・・・コレだけのことがたった一週間で起こったなんて信じられない・・・」
ユズも感慨深げに言う
「でもさ、私たちが日本を救ったんだよね?助かったんだよね?」
ミドリちゃんが辺りを見回して尋ねる。
「そうだね・・・一週間、いろいろあったけどみんなで封鎖から出られて 本当に良かった」
ケイスケもまた嬉しそうだ
「・・・みんな、本当にありがとう 貴方達が居なかったら、私達政府は何も出来ずに
何の罪もない多くの国民を皆殺しにしていたと思う 沢山の人を助けられて 本当に良かった・・・ありがとう」
イヅナが俺達に向き直り 深々と頭を下げる
「今回の封鎖は、私の父 クズリュウが発端となり、沢山の方に被害を与えてしまいました・・・
ですが、皆さんのおかげで また元の日常を取り戻すことができ、本当に感謝しています・・・
天使達も今回の皆さんの活躍で人間の可能性を改めて確認したと言っていました
 本当にありがとうございました」
アマネもどこか寂しそうに、それでもしっかりと頭を下げる
「な〜にいってんすか 水くさいっすよ 二人とも! 
俺達は 出来る事をした それだけだ そんなに気にしなくていいんすよ!」
アツロウが明るく言う
「そうね・・・そうかもしれないわね」
「そうですね・・・」
二人が顔を見合わせて微笑んだ
「そうさ、俺達は出来ることをやって、それが封鎖の解除につながったってだけさ そうだろ?」
ジンさんが俺達に同意を求めた
「そうですね」俺の言葉に 全員が頷いた。
「今回の封鎖について、後日政府から連絡が来るかもしれん
盛り上がってるところ申し訳ないが、帰る前に連絡先を教えておいてくれないか」
伏見さんが話に割って入った
「あ、ソレ ケータイの番号とかでいいんすか? でもケータイ 圏外っすよ?」
アツロウがたずねる まだ封鎖内にいると思ってるみたいだ
「ちょっとアツロウ? もう封鎖解除されてるじゃん 何言ってんのよ」
ユズがそれに気づいてツッコミを入れる
「あ、そうだった やべ、封鎖ボケか?」
「アツロウ しっかりしてよ・・・」
アツロウのとぼけた声に ケイスケが呆れる
「ねぇねぇ! だったらみんなの携帯の番号 私にも教えて!」
ミドリちゃんが自分のパールピンクの携帯を掲げながら言った
「そうだな この際 全員の番号を知っとくってのも いいかもな」
ジンさんもメタリックブラックの携帯を取り出しながら言った
こうして俺たちは互いの携帯番号とメールアドレスを交換して
封鎖内を後にした
 
家に帰ってからは
心配していた両親の質問攻めに遭い、開放されたのは夜12時近くだった
俺は手早く服を洗濯機に・・・その前に手洗いか・・・放り込み
風呂に入って一週間の汚れを落とした
傷などは悪魔の力―-ディアとかメディアだとか――に治してもらったけど
さすがにいくつかの傷跡が残っている
俺の記憶以外に残る封鎖の痕跡は、もはや使えなくなった改造COMPと、これらの傷跡だけだった
部屋に戻ると 早速何人かからメールが届いていた

『to;ミタカ
from;ユズ
帰ってきたらお母さんにすごく怒られた(´・ω・`)
せっかく東京を救って帰ってきたのに・・・
そんなことも言えないし・・・でもすっごく
心配したんだって言われて すごく嬉しかった
ミタカ 一週間ありがとう 私、ミタカがいたから
(あ、アツロウもだけどww)頑張ってこれた
ケイスケ君も助けられた マリ先生も敵を討てた
何よりも封鎖を自分たちで解除させることが出来たし・・・
全部、ミタカがいなくて 私だけだったら 出来なかったと思う
本当にありがとうww』

『to;ミタカ
from;アツロウ
今日は疲れたな〜
俺のPCに親からメールがすっごいはいってて
も〜容量とかダメになりそうだぜ
でも俺たち本当にすごいよな!
自力で封鎖を解除させちまうんだから!!
あ、でも改造COMPを作ったのはナオヤさんだから
すごいのはこの場合ナオヤさんなのか?
まぁともかく ミタカ、お前がいてくれたおかげだよ
ありがとう
・・・でもさ お前の中のベルの力ってのは まだ
残ってるんだよな? それってお前は大丈夫なのかな・・・
またアマネかナオヤさんにも聞いてみるよ!』

『to;ミタカ
from;ジン
この一週間 本当に世話になった
お前たちがいなかったら 俺はアヤの好きだったこの世界を
元に戻せなかったと思う
ありがとう
封鎖中にもいってたと思うが 今度みんなで一杯やろうと思う
・・・未成年はアルコール抜きだがな
日時については、明日イヅナから集合するようにメールが入ってたから
その後でいいんじゃないかと思う お前の携帯にもメールが来てると思うが
もし都合が悪いなら また折り返し連絡してくれ』
 
「明日・・・集合?」
イヅナさんからだというなら 多分政府への詳細説明だろう
受信画面をスクロールすると 確かにイヅナさんからのメールが入っている
時間が20時とある辺り、多分封鎖が解除されて分かれてから
すぐに送ったものだろう
イヅナさんからのメールにカーソルを合わせ、メールを開いた
 
『to;ミタカ
from;イヅナ
今回の封鎖 貴方達がいなかったら 私は何も出来なかった
本当にありがとう
・・・早速で申し訳ないのだけれど
明日時間は空いているかしら?
政府の機関や議員たちが記憶が新しいうちにと
詳細報告を要求してきたの
疲れているとは思うのだけれど ごめんなさいね
明日私が迎えに行くから
朝の9:00までに準備しておいてもらえる?
念のため改造COMPも持って行くようにしておいて頂戴
服装は・・・まぁ普段どおりでもいいけれど 派手じゃないようにね
じゃ、今日はゆっくり休んで』
 
空いているかしらと聞いていながらも
ほぼ確定事項とみて話を進めているあたり
よほど早急にと要求されたんだろう
政府の機関は大変だな・・・なんて考えてる内に
俺は眠りに落ちていった・・・

×

翌日
いつも起きるより若干遅い時間に目が覚め
昨日と同じようにCOMPに手を伸ばし
思わず苦笑してしまった
「一週間の慣れって恐いな・・・」
COMPは使えなくなったけど、受信したメールだけは残っていた
封鎖内で届いたラプラスメールを改めて読み返し
自分たちが良く生き残れたなと感心させられた
 
私服に着替え、髪を整え
母親が作り置きしておいた朝食を取りながらテレビを眺める
ニュースではこの一週間の封鎖について取り上げられていた
「恐怖!毒ガスによる集団錯乱!!封鎖内で見られた悪魔とは!?」
なんてテロップが流れている


『・・・今回1週間にも渡り行われた山の手線内の封鎖では停電、
自衛隊による封鎖内からの脱出を試みた人物の射殺など、近代国家にあるまじき行為が多々みられ・・・
日本医師会は病院内で治療中であった患者に対する損害賠償を求め訴訟を起こす構えを見せており・・・
政府は今後の対応に目が向けられております・・・・・・
また、毒ガスによる錯乱という形で一応の区切りのついている封鎖被害者の見たという
悪魔 はどの被害者にも共通する幻覚が現れており・・・
専門家に疑問点を指摘されています、毒ガス錯乱とされているにもかかわらず
被害者に対する健康診断等を政府は行っておらず・・・
対応の杜撰さを糾弾されており・・・現在政府は・・・・・・』


ニュースを聞き流しながら朝食をとり終え、歯を磨き終わる頃
玄関のチャイムが鳴った。
 
時計を見ると8:50分丁度
この正確さは、おそらくイヅナさんだろう
 
玄関へ向かい戸を開けると
見慣れた戦闘服ではなく、黒地のスーツに身を包んだイヅナが
「おはようございます 突然の息子さんの呼び出し・・・って あら?貴方本人だったの」
と勢い良く敬礼した右手を下ろした
「おはよう イヅナさん 今日は戦闘服じゃないんですね」
「作戦中じゃないからね 今日はただの送迎役よ」
と先ほどの敬礼に照れているのか 目線をそらして言う
「準備は出来ている?」
「うん、それなりに みんなは?」
「多分もう向こうで待ってるんじゃないかしら・・・
私は貴方達の送迎で一番最後に向こうにつくことになってるから」
「あなた・・・たち?」
どうみても俺一人しかいないんだけど
そう思っていたら

玄関の向こうの塀の脇から
「お〜すミタカ! 良く眠れたか〜?」
「おはよ〜 私はあんまり眠れなかったよ〜」
「私も〜」
「おはよう御貴君 元気そうで良かったよ」
「おはようございます」
と、アツロウ、ユズ、ミドリ、ケイスケ、アマネが
顔を出していた
「なるほど・・・ね」
つまりイヅナさんは子供の引率役といったところかな
多分ジンさんやマリ先生やハルは伏見さんだろうな・・・
なんてことを考えていると
「さ、早く車に乗った乗った! とっとと説明終わらせて 一杯やるんでしょ?」
とイヅナさんに背中を押されていた。
 
イヅナさんの乗ってきたワゴンで、封鎖のその後の事後処理について聞いた
「・・・じゃあ、封鎖内で起こった暴力事件とかは 罪にならないんですか?」
「罪にならないというわけではないんだけれど・・・
そうね、毒ガスによる錯乱ということで通常の刑法よりは減免措置がとられるみたいよ?」
「そう、ですか・・・・・・」
これはケイスケとイヅナさんの会話だ
さすがに正義感の強いケイスケのことだから、また怒り出すんじゃないかとひやひやしたけれど、
彼自身も人に対して暴力で正義を振るっていたからなんともいえないんだろう
「悪魔がやった場合は、免罪になる可能性が高いけれど、
悪魔使い自身が悪魔をけしかけたり脅したりした場合は・・・多分罰金刑くらいじゃないかしら」
「じゃあ、ケイスケも・・・」
アツロウが心配そうな声を出す
「正当な理由があった場合や、人を助けるために暴力を行使した場合は、
それを罪ととらない っていうのが政府の方針みたいよ。ただし、ちゃんとした証人が要るけどね」
「はい!は〜い! 俺証人っ! ケイスケは悪くないっ」
イヅナさんの言葉に アツロウがこれ見よがしに手を上げる
「うんっ ケースケはわるくな〜い☆」
ミドリちゃんもまた挙手に参加している
当のケイスケは 若干複雑なようで
「・・・はは、ありがとう アツロウ ミドリちゃん」
「あったりまえだろ!」
「うん☆ 正義は勝〜つww」
アツロウとミドリちゃんは楽しそうだ
二人でハイタッチとかやってるよ
俺は助手席に座ってるから首を後ろにひねってみんなを見てるけど
ユズは騒いでいる3人(主にアツロウとミドリ)に加わって楽しそうにしてるけど、
俺はその隣に座っているアマネの様子が少し暗い事に気づいた
「アマネ、どうかした?」
俺が尋ねるとアマネはこちらに気づいた
「いえ・・・私の父 クズリュウが行ったことに対しては どのようになるのかと思いまして・・・・・・」
そうか、そもそもの発端は翔門会教祖が行ったことだったな
けれどアマネはそれについてずっと気に病んでいたんだろう
ちょっと迂闊だったな・・・
「・・・それについては 事が大きくなる前に防げたっていうことと、
彼は人を救おうとしたっていうことだから、何の心配も要らないわ。
天使の中の・・・レミエルだっけ? 貴方に助言をしたのは」
「ええ、そうです」
「彼女・・・彼?って言っていいのかしら・・・からも彼は人のために良かれと思ったことであるので
天使全体の総意とまではいかないにしても 主は彼自身の行為にお怒りになっただけであって
彼自身には罪はない・・・と言っていたわ」
・・・レミエルって、他の天使よりも人間のことを気遣ってんのかな・・・
けっこういい奴だったけど・・・アマネの体を借りてたから アマネにも思い入れがあるのかもな・・・
「・・・! ありがとうございます イヅナさん レミエル・・・」
アマネは肩の荷が下りたように微笑んだ
・・・・・・やべ、ちょっとかわいい・・・・・・
「あ、イヅナさん悪魔が壊したところとか どうなってます?」
「現在順調に復興中よ」
「議事堂も?」
「ええ、悪魔が消えたと同時に あそこの汚染も消え去ったから・・・
水道管をつなげなおして、コンクリートとかでまた埋めるんじゃないかしら」
お、アマネ見てたら話題が別のところにいってるや
「ねぇねぇ、今日はどこで話し合いするの? 議事堂壊れてるんでしょ?」
ミドリちゃんが話に混ざる
「そうね・・・それは封鎖が実行されてから、仮に政府として使われていた…
あ、見えてきたわ あの建物よ」
イヅナさんが指差した先には 近代的な高層ビルがそびえていた

×

ワゴンから降りると、入り口の前でジンさん、マリ先生、ハルが伏見さんと一緒に待っていた
「おはよう みんな 昨日は良く眠れたかしら?」
俺たちの姿を見つけたマリ先生が保健の先生らしく体調をたずねてくる
「俺はフツーに眠れましたよ」アツロウが朗らかに答えている
「アタシはあんまり眠れなかったよ 作った曲が気になってさ・・・」
とハルは頭をかいていた。
「・・・・・・全員そろったな じゃ、中に入るぞ」
やり取りが一段楽した所で 伏見さんが俺たちに中に入るように促した

ビルの中は、普通のオフィスと同じような造りで、スーツ姿の人が慌しく行き交っている
俺たちはその中を伏見さんとイヅナさんの先導で歩いていた
エレベーターで5階に上がり、廊下の中ほどに差し掛かったとき
見慣れた人物と行き会った
「・・・ミタカじゃないか」
意外そうに足をとめたのは 俺の従兄 ナオヤだった
「あれっ ナオヤさん・・・・・・だよな?」
「・・・たぶん」
アツロウが思わず疑問系で俺に尋ねる
どう見てもナオヤなんだけど・・・・・・俺も自信なくなってきた
なぜなら、ナオヤは普段の着物姿じゃなくて、めったに着ないスーツ姿だったから…
黒地のスーツにチャコールグレーのシャツ、それから臙脂色のネクタイをしてるけど、
正直歌舞伎町で会ったチャラ男・・・なんだったんだろアイツ・・・・・・
あれみたいな感じで どうみてもホストにしか見えないのは何故だろう・・・
「・・・そんな眼で見るな 俺だってこんなもの着たくなかったさ」
ナオヤがばつが悪そうにネクタイを緩めて言う
呆ける俺達を前に 言い訳するようにさらに続ける
「今朝突然政府の連中・・・要はこいつらだな こいつらについてこいと半ば無理やり呼ばれたんだ。
その際にそんな格好ではダメだとか何とか抜かしやがるから、仕方なくこんな格好をしているというわけだ・・・
スーツなど窮屈でかなわん 大学の卒業以来だと思っていたんだがな・・・」
そう言って鼻を鳴らすナオヤはなんだか照れてるようにも見える。
「あ、そうか ナオヤさんはプログラムの設計者だった だから呼ばれたのか・・・」
とアツロウが眼をキラキラさせて一人でふむだのうむだの納得していた
俺は俺でナオヤのスーツ姿を改めて見て

よくみれば確かに大学卒業前に買ったスーツだ
俺が全部黒系赤系で統一させたんだっけ・・・
ナオヤの髪が映えるかと思って黒にしたんだけど・・・大学で悪目立ちしたらしいな・・・・・・
なんて感慨にふけっていると、

不意にナオヤが
「・・・おい ミタカ お前、ちょっと来い」
そういって俺を手招きする
「何?俺、これから政府の人と話し合いしないといけないんだけど」
時間あるのかな?
「あぁ、それは知っている だが今奴等は俺の話についてなにやら話し合っていたから
恐らく小一時間は待たされるぞ・・・だからお前たちは先に行け
そこの角の部屋だろう?」
そういって奥の扉を指差し、伏見さんに確認を取る
「ああ、そうだが」
伏見さんは突然の展開に若干ついていけず 戸惑いながらも返事を返した
「ミタカは話が終わったら俺が送ってやるから 先に行って待ってろ」
「あ じゃあ俺も俺も!」
アツロウがやっぱり眼をキラキラとさせてナオヤに向かって挙手をする
「いや、今回はミタカとだけの大事な話だ 今度また新しく開発したプログラムを見せてやるから今日は大人しくしておけ」
ナオヤはそういってアツロウをなだめ、集団の中から俺の腕を取って歩き出した
「お前らはもういい 道順は覚えた 警戒しなくともここで何かをするつもりは無い」
ナオヤは一緒にやってきた政府の役人に言い捨てて、俺を連れてさっさと歩き出す
そして手近なあまり使われていないらしい部屋に入り、俺に向き直った

「・・・ミタカ、今回の悪魔退去の手腕 見事だったな」
「そりゃどうも」
「だが、何故お前は俺の誘いに乗らなかったんだ?」
「さあね それで本題はなんなの?」
ナオヤの質問には答えずに、俺は話の先を促した
別にごまかしたいわけじゃないけど それは今すべき話じゃないからだ。
「フ・・・そうだな では本題に入ろう・・・お前はこの後、
政府との話し合いで、今回の顛末だけでなく・・・お前自身についても聞かれるだろうな」
ナオヤは俺を指差しながら この後行われるらしい話し合いの予想を語りだした
「お前自身というよりは・・・そうだな、お前の中にあるベルの力についてだ」
ああ、そういうことね ナオヤは俺が頷いたのを見て さらに話を続ける
「現在悪魔は全て東京から消え去ったが、お前の力一つでまた呼び出すことができる
何せお前は万魔を統べる王なのだからな」
そういえば昨日のバ・ベルとの戦いで、俺はそういう存在になってしまったらしい
自覚も実感も何も無いんだけど
「恐らく、奴等はお前の監視を求めてくるだろう まぁ 憲法があるから
おおっぴらな監視ではなく、定期的な接触・・・お前たちの引率にいただろう
STFの人間が・・・奴等がその仕事を負わされるだろう その際に お前は政府に対して
お前自身とお前の周囲の今回の関係者に対する危害を加えないという話を持ちかけろ」

ナオヤの先読みはほとんど当たる。だから今回もそれの一環で俺に何か対策を
立てさせようとしてるんだろう・・・でも、どうしてそんな話を持ちかけるんだろう・・・

「いいか、必ず持ちかけろ さもなければ政府の敵になり得ると分かった段階で
消しにかかる無能な奴等だ・・・お前達の命など一瞬だぞ」
俺の不可思議そうな顔を見て取ったのか、その話を持ちかける真意を伝えてくる
「・・・そうだな 奴等はただ話を持ちかけるだけでは納得しないだろう 
この際、お前の取り込んだベル神の情報でもくれてやれ アマネが詳しく説明してくれるだろう
この情報と引き換えで お前は必ずお前の関係者に危害を加えないという交渉を成立させて置け」
「・・・・・・つまり、政府は俺を殺す可能性があると?」
今の話を聞いている限りでは、そういう風に捉えられる
まぁ、せっかく消した悪魔をまた呼ばれちゃ政府もたまったもんじゃないだろうけど・・・
「そうだ、お前を殺せば永久に悪魔がでないと奴等は考えるだろう・・・
もしくは、再び悪魔を呼び出し、軍事力として国連常任理事国入りを狙う馬鹿が現れんとも限らん
お前の力をそんな下らんことに使われてはたまらんからな」
あ、そっちの意味もあるのか・・・さすがナオヤが考えることだ。常に先へ先へと向かっている
「じゃあ、ベル神のことは全部喋っちゃっていいんだね?」
「構わん もう存在しない奴等のことを喋った所で何の意味も無いからな・・・
だがミタカ、交渉が成立した後は必ず奴等の呑んだ条件を公式文書にして提出させておけよ」
「どうして?」
そこまでする必要あるのか?
「・・・奴等は条約や法律の裏を書くのが得意だからな・・・口約束ではいつ反故にされんとも限らん。
必ず交渉の証拠を握っておけ・・・そうすればお前も、お前の周りの奴等も安泰だ」
ナオヤって、とことん政府が嫌いだな・・・まぁ、俺もあんまり好きじゃないんだけど
とりあえず従っておいて損はなさそうだ
「分かった そういう風に交渉しておくよ ありがと 直兄」
普段はナオヤと言ってるけど、昔は直兄と呼んでいた
その癖がまだ抜けないんだ
「フ、気にするな 愛しい俺の弟よ」
ナオヤもまんざらではなさそうだな・・・
「さて、話も済んだ 奴等のいる部屋へ戻るぞ」
ナオヤは俺の手を引いて部屋を出た

×

「あ、おかえりー」
部屋に入った俺を、ユズが出迎えてくれた
「ナオヤさん 何の話だったんだ?」
アツロウが早く知りたいと言わんばかりに寄ってくる
「それは後で分かるから お楽しみで」
今伝えておくと政府の交渉相手に伝わって裏を書かれかねない
奥の手はめったに出さないからこそ効果を発揮するんだ
「あと2〜3分で会議が終わるらしいから、もう少し待ってて」
イヅナさんが内線電話を置いて言った
「なぁ、ミタカ君 さっき行き会って君を連れてった彼は・・・君の従兄なのか?」
ジンさんが俺に顔を向けて聞いてくる
あ、しまったジンさんの店にCOMP置いてったの ナオ兄だったっけ・・・
「そうっすよ コイツの従兄で、俺の師匠っす!
そんでもって悪魔召喚プログラムを作ったのもあのひと・・・むがっ!?」
アツロウ 正直なのはいいけど 迂闊だから・・・というか空気読んでくれ
尊敬する師匠の話になるとどうもアツロウは饒舌になる気がする・・・
普段は空気の読めるヤツなんだけど・・・・・・
俺がアツロウの口を急にふさいだため全員吃驚してしまっている
・・・これはコレでやりすぎたかも・・・・・・
「えーっと そうなんですよ 俺の従兄、でもってジンさんの店にCOMP置いてったのも あの人」
とりあえず大体正直に答えとけ
ジンさんは六本木で東間と戦ったときに知ったけど、怒らせるとカイドーばりに恐いんだよな・・・
「・・・・・・そうか・・・」
あーなにやら複雑そうな顔で黙っちゃったよ・・・怒らせたかな・・・・・・どーしよ
俺が焦ってるのを見てか、アマネが助け舟を出してくれた
「ええ、月森さんの従兄である彼が我々翔門会の依頼で召喚プログラムを製作したのです・・・
その際東間がつれてきたアヤという女性を我々の目的のために犠牲に・・・・・・
申し訳ありません・・・」
あーそうか そうなるよな・・・アヤさんは翔門会のせいで消えたんだよな・・・その辺この2人大丈夫かな・・・
俺の懸念を知ってか知らずか、ジンさんが顔を上げ、心配するなとでもいうように手を振る
「気にするな、あいつはそれでも俺たちに帰還用の歌を残してくれたんだ
それにお前たちだってもともとは悪気があったわけじゃないんだろう?」
・・・よかった ジンさんその辺は割り切ってるみたいだ
と俺が安堵していると

ドカッ!!

突如俺は座っていたソファから転げ落ちていた
転げたままの姿勢から視線を横にスライドすると
 隣でずっと俺に口をふさがれていたらしいアツロウが精一杯俺を押したらしく、
左手を突き出した形で息を荒げていた
「・・・・・・はっ・・・はっ・・・はぁ・・・っ ミタカ!!お前 俺を殺す気か!!!」
真っ赤な顔をして怒鳴ってくる
「あーゴメン 苦しかった?」
とりあえず謝っておいた
「当たり前だろ!」
アツロウはまだ真っ赤な顔をしていたが、呼吸は収まったらしく ソファに座りなおした
「もー何やってるのよミタカ」
「ミタカさんのばか〜」
ユズとミドリも笑いながら俺を非難してくる
「ミタカ君 背中とか、大丈夫かしら?」
マリ先生も笑いながら俺に手を貸してくれる
「そっちより俺の心配してくださいよ」
アツロウが若干ばつの悪そうに言う
なんと立ち上がって、またアツロウの傍に座りなおすと、
アツロウが俺から若干身を引くそぶりを見せたので、全員でまた笑った
・・・暗い空気も消えたみたいだ、コレはコレでよかったかもしれない
俺も一緒になって笑っていると、扉から伏見さんが現れて
「?・・・何を盛り上がっているんだ」
「な・・・なんでもないっすよ、話し合いの準備 できたんすか?」
アツロウが目の端にたまった涙をぬぐいながら聞いてくる
「ああ、全員隣の部屋に来てくれ」
伏見がドアノブに手を掛けながら 俺たちを手招きした


入った先で待っていたのは
テレビでは見慣れた人物が2人と、見知らぬ人物が1人の、計3人だった
「すごいな・・・官房長官と防衛大臣と・・・あっちは内閣府の役人かな?」
さすがにこういことには詳しいらしいケイスケが、小声でつぶやく
有力議員あたりが出てくるとは思ったけど、まさかここまでとは思わなかったな
「これだけの人物が出てくるって事は、それだけ今回の封鎖が大事だったのね・・・」
マリ先生も驚いている
「・・・さて、今日はわざわざ来ていただいてありがとう 早速で済まないが、
こちらに掛けて今回の事件についての 解る範囲でいい、顛末を教えてくれないだろうか・・・」
いちばん左の・・・官房長官だったかな・・・が俺たちに声をかける
しかし、さすがに最初に席に着くのは躊躇われるようで、俺の後ろで暫くみんな顔を見合わせていた

・・・この場合は俺が会話の主導権をとっておくべきかな
この後に交渉を持ち込むことを考えれば、俺がこの中の誰よりも話に参加し、
余計な隙を与えずに話を進める必要がある。 それならまずは相手に優位な感情を抱かせないことだ

そう考えた俺は、真っ先に目の前に用意された椅子に深々と腰掛けた
そんな俺の様子に感化されたように、俺の隣にアマネとアツロウそしてジンさんとユズ、
後ろにマリ先生とハルとケイスケとミドリちゃん、伏見さんとイヅナさんは
今回は任務だからか、少し後ろで直立不動の姿勢をとっていた。

「今回は翔門会が神による試練を排除するために悪魔召喚プログラムをあの男・・・
月森直哉に依頼したのがきっかけだったんだが・・・なぜ悪魔を使おうとしたんだ?」
防衛庁長官が尋ねる
これにはアマネが答えた
「・・・それは、かつて紀元前にベルと呼ばれた存在がおり・・・・・・」
ここから説明がはじまった
・・・・・・・・・

×

小一時間は話をしていただろうか・・・ようやく顛末や内容を説明し終わった頃、
官房長官が口をひらいた
「・・・今回は、仕方がなかったとはいえ、我々の対応の悪さで皆さんには本来我々の
やるべきことをやらせてしまった 大変申し訳ない」
と頭を下げた
「特に・・・月森御貴君」
不意に名前を呼ばれて若干吃驚した
「・・・はい?」
「君には特に大きな重荷を背負わせてしまった・・・ベルの王・・・だったか?」
「ええ、そういうものらしいです」
俺にはさっぱり自覚がないのだけどね
「そうか・・・」
官房長官も良く解ってないようで、複雑な顔をしていた
その時


「あの・・・このようなときに大変失礼かとは思うのですが・・・」


不意にずっと黙っていた内閣府の人が口を開いた
「!」
来た、たぶん今後の俺についてだ
「な・・・なんすか?」
アツロウも何かを察したらしく、役人のほうを見る
「・・・・・・・・・」
他のみんなも黙って彼のほうを見ている
「あ、あの えっと・・・月森さんは現在 悪魔が消え去ったとしても
まだその身にベルの王の力を宿してらっしゃるんですよね・・・えと・・・ですから・・・
今後何かあると大変なわけでして・・・・・・その・・・・・・・・・」
みんなの視線を浴びて若干たじろぎながら言葉を発する役人
内容がないようなだけに 言いづらいみたいだ

「・・・つまり、俺に監視のようなものをつけたい と?」

先手を打ってみた
「!!」
書類に目を落としていた役人が
一瞬でこちらに目を向ける
アツロウやユズ、ジンさんまでもが俺の発言に目を疑った
「ちょっ・・・オマエ それは・・・」
「・・・監視って どういうことよ・・・」
「おいおい マジかよ・・・」
三者三様の反応を聞きながら、俺は役人に向き直り 話を進める
「・・・そういうことでしょう?」
「ええ・・・・・・大変失礼かつ申し訳ない話なのですが・・・」
役人は肩をすくめる
「・・・でもそれって、月森君の人権を認めないといっているようなものではないですか?」
ケイスケがもっともな意見を述べる
「確かにそうなんです 憲法上 いかなる人権も犯してはならないと規定されています
ですが、今回の様な事件を再び起こすわけには行かないのです」

「それって、ミタカさんがまた悪魔を呼び出すってこと!?」

ミドリちゃんがその言葉に立ち上がる
「あたしたちは悪魔を消そうとこの一週間頑張ってきたのに! それを・・・っ」
「あの・・・すいません 月森さんが悪いというわけではなくて・・・」
役人がその剣幕に圧されたように若干の弁解を述べる
「へ?そうなの・・・?」
ミドリちゃんはそこで少し頭が冷えたらしくて、また椅子に座りなおした
「えーと、その 言い方が良くなかったですね・・・あの、今回の事件で、
悪魔は総て毒ガスの錯乱 という見解にしてあるのですが・・・
封鎖内にいた人々はそうは思わないため、企業や一般人が、悪魔の力を利用しようと考えないとも限らないんです」
説明にジンさんが納得が行ったように頷く
「なるほどな、それでコイツを利用しようとも限らない・・・と」
「ええ・・・そうなんです・・・彼を無理やり拉致して強制させるなんてことも考えられるわけで・・・」
「でもさ、それはアンタら政府の側にも言えるんじゃないのかい?」
「そうね・・・こう言う言い方はそちらの方には失礼だけれど・・・」
ハルの指摘にマリ先生も同意する
「!・・・・・・そうです それはこちらにも言えることなんです だからこそ
そのどちらもが接触しないように監視を・・・とおもったのですが・・・・・・」
「そもそも監視なんてのは今の世間上ありえてもいいのか?ってことも含めて言ってんだよ」
ハルが若干いらだったように言う
「監視・・・というよりは 定期的に話を伺う という形で憲法上のリスクを回避しようとは考えています」
「そうですか・・・で、その話を伺う人物というのは 誰にやってもらおうと思っているんですか?」
マリ先生が訪ねる

「それは、今回あなた方とともに封鎖解除に手を尽くした イヅナ一尉に依頼してあります」

「!!」
役人の言葉に、ナオヤに前もって聞かされていた俺以外の全員が一斉に後ろのイヅナさんを振り返った
「依頼はされているわ」
イヅナさんは事実だけを端的に述べた
「それで・・・月森さんのほうでそれに同意がなされるか という話なんですけれど・・・」
役人は俺のほうに向き直り、俺の目を窺う 彼の目は怯えている様でもあり、焦っている様にも見える
恐いのだろうか ただの高校生にしか見えない俺が
「・・・ミタカ、どうすんだよ?」
アツロウが小声でたずねる
「イヅナさんならまだ大丈夫だと思うけどさ・・・」
ユズも小声で言う
「・・・構いませんが、交換条件があります」
俺はそのどちらにも返事をせず、役人の目を見据えて言った
「?・・・・・・交換条件 とは?」
役人が若干訝しんだ様子を見せる
まさか断りこそすれ、条件を出されるなんて思わなかったんだろう

「俺を含め、今回の封鎖で俺にかかわった全員の安全の保障をしてもらいたい」

「えっ?」
その言葉に、役人だけでなく、俺の横や後ろに座るみんなからも疑問の声が上がる
「・・・俺個人を脅す可能性だけ出なくて、俺の周りの人間を人質にとって脅すという可能性もある・・・
それが政府かそうでないかの違いがあるにしろ・・・そして政府のほうでその安全を保証すれば、
政府は自分たちが手を出せないし、政府でなければ政府の保護によりどっちにしろ手を出せなくなる」
違いますか? と俺が静かに畳み掛けると役人は黙ってしまった
「・・・・・・・・・」
防衛大臣と官房長官は思わず顔を見合わせた
「割に合わないというのであれば、俺の中にあるらしいそれぞれのベル神の能力について話してもいいですよ」
「ちょ、ミタカ それっていいのか?」
「もう居ないベル神の力を知ったところでどうにもならないとは思うけどね」
小声でいさめてくるアツロウに、同じく小声で答える
政府側でも暫く目での会話がなされたようだけれど 最終的にまとまったらしく
「・・・判った、それで手を打とう」
と官房長官が言った
「では誰を保護するかについてなんだが・・・」
と話を続けようとした官房長官の言葉に割り込むように俺は続けた。
「誰を保護するかについては、そちらで調査して可能性があると考えられる全員を保護してください」
「なっ!?」
俺の一方的な要求に、官房長官が思わず絶句する
「俺が言った人だけだとたぶん言いもらしがでてくる
そこを付け込まれたらイミがないでしょう?それに、人間一人の関係調査くらい
今の日本政府にはたやすいと思いますが?」
しれっといいはなつ俺に全員が唖然としている
「・・・・・・・・・・・・わかった そうしよう」
たっぷり数十秒は固まった官房長官が苦々しくそれを承諾する
やっぱり裏があるみたいだ 俺はその態度にそう当たりをつけておいた
「あと、今回のこの話については、きちんと公式文書でこちらにも提示をしてください
あとで反故にされてはかないませんから・・・それに、口約束だけではどうとでも解釈できる
提示は10日以内 それ以降になった場合はこの話はなかったことにしてください」
これでとどめ とばかりに畳み掛ける俺に、もはや政府の人間はぐうの音も出ないようだった
そこで話はお開きとなり、静寂な空気に若干のざわめきを生む
「・・・・・・・・・オマエ、ナオヤさんに似てきたな」
アツロウが若干の引きつり笑いでそうもらす
「そうかな?」
俺は普段どおりに答えた
「あ、そうそう」
俺は席を立ちながら付け加える
「もしも怪しい動きがあれば俺も防衛本能ってのがありますから」
COMPを取り出しながら
「お忘れなく」
そうしてにっこり笑って部屋から出た
政府の役人たちはもはや呆然と俺たちを見送るしかなかった

×

「ミタカさんなんだか映画の交渉する人みたいだったね〜☆」
とミドリちゃんが帰路につきながらいう
「うん、なんだかプロっぽかったよ」
ケイスケも賛同する
「・・・アンタ、ほんとに高校生かい?」
ハルが俺の頭をぐしゃぐしゃとしながら聞いてくる
「・・・うーん たぶんね」
俺が若干悩むふりをすると みんなが笑った
「じゃあ、イヅナさんがたびたびミタカのところにきて話をするだけなんですね?」
「そうなるわね、たぶんただの雑談で終わるんでしょうけど」
とユズとイヅナさんが“監視”の内容を話している

ビルの外に出たとき
「よし、これから俺たちは一杯やる準備をしてくる 買い物とかな・・・
その間お前たちは・・・どうする?どこかで時間潰しといて欲しいんだが・・・」
とジンさんが言う
「うーん どうしようか・・・渋谷とかは復旧中だから大して遊べないし・・・」
ユズが悩んでいると
「ねぇ、ジン ちょっと」
とハルがジンさんに何かを耳打ちする
「ん? ・・・ ・・・ ・・・ お、それはいいな! じゃ、そうしてくれ」
となにかジンさんも明るい顔になった
「これからアタシはあんたらと同じ車に乗るからね」
ハルが俺たち子供組(といっていいものか)のほうに混ざりながらいう
「手伝いしなくていいんですか?」
とユズが聞くと
「あたしは歌が専門だからね、あっちについたら歌ってやるよ」
と格好よく笑っていった
「えぇえぇぇっ!!!!本当ですかっ! うそ!ハルのライブをこんなに近くで聴けるなんて!!」
と案の定ユズはテンパってしまった
「そういうわけでさ 道具取りに行くから頼んでいいかな?」
とハルはネジの飛んだユズを置いといて、イヅナさんに尋ねる
「ええ、いいわ 今日は送迎役だしね」
とイヅナさんも答える

「・・・じゃあ、まずはハルさんの道具をとりにいって・・・それからね」
イヅナさんの言葉に俺達はワゴンに乗り込む
「ジンさんのバーってライブできるんすか?」
「ああ、うん アタシもたまに歌わしてもらうのさ、手伝いもするけど」
アツロウの言葉にハルが応える
ジンさんはD−VAの世話役…というか、ハルの保護者でアヤさんの恋人だったっけ
本拠地みたいなもんなのかな・・・
「・・・あ、そこの道を左に・・・・・・次は右ね」
今度はハルが助手席に乗り込み、運転席のイヅナさんに道案内をしている。


「・・・はあぁー・・・・・・ハルのライブかぁ・・・封鎖の初日に見たっきりだったなぁ・・・
てか普通のライブみたいに遠目に見るんじゃなくて・・・ホントにこんな近くで・・・
もしかしたらギター教えてもらったりとか出来ちゃったりして・・・・・・」
ユズは本当に幸せそうに何やら呟いている。
ふと眼を逸らすと隣に座るアツロウと眼が合った。
『コイツ、なんとかして』
口パクで伝えてくるアツロウの横では、いまだにユズが夢見心地の顔をしている。
『・・・ゴメン、無理』
俺も口パクで伝えると、その様子を見ていたケイスケとミドリちゃんがクスクスと
忍び笑いを漏らした。よく見るとアマネまでもが笑みを浮かべている。
「・・・えっ、何 どうしたのみんな」
ようやくユズが周りの状況に気づいて車内を見回す。
「・・・いや、なんでもないよ」
俺が笑いを噛殺しながら言うと、
「気になるじゃないっ、教えなさいよアツロウっ」
ユズがアツロウに詰め寄った
「だから、なんもないってば・・・・・・・・・ってオイ!引っ張るな・・・ってか締まってる!
俺の首締まってるから・・・・・・っぐぇ」
その様子にまたみんなで笑っていると
「ハイ着いたよ!ホラホラ喧嘩しない・・・」
ワゴンが停車し、ハルがこっちを向いて言う。
「・・・アタシは道具取って来るから、ちょっと大人しく待ってな」
ハルがワゴンから降りた時、
「手伝ったほうがいいかしら?」
とイヅナさんが声を掛けた。
「ああ、うん 大丈夫 ギター一本だからさ」
そういって自宅らしいアパートに入って行った。

しばらくして戻って来たハルは、ワゴンの荷台にギターを積み込むと、
「じゃあ、アタシの用事は終了だね。次どうすんだい?」
と言った。
「・・・そうね・・・・・・みんな、どこか行きたい場所はある?」
とイヅナさんが尋ねる。
「ん〜・・・振り出しに戻る、か・・・・・・」
「そうだね・・・」
アツロウとケイスケが首を捻っている。
この辺・・・って言ったらナオヤのアパートか神田位しか最近行ってないしな・・・
そう考えながら窓から外を眺めると、通りを歩く見覚えのある人影を見つけた。
あれは・・・・・・アイツは・・・ッ
俺はそのままワゴンのドアを開けると、遠ざかって行く人影を追って走り出した。
「あっ・・・オイ、ミタカっ!?」
アツロウが俺の背中に声を掛ける。
俺は若干振り返りながら、
「ゴメン、ちょっと急用思い出した!・・・悪いけど後でジンさんのお店行くから先行っといて!」
「ミタカさんっ?!」
「ちょっとミタカ?」
後からミドリちゃんやユズの声が聞こえてきたけど、俺は無視して人込みの中に飛び込んだ。


「・・・ったく、なんなんだ急に」
アツロウがぼやく
「すごく慌ててるように見えたね・・・」
ケイスケがミタカの走って行った方に眼をやりながら呟いた。
「彼にしては特異な行動ですね・・・」
アマネも不思議そうに首を傾げている。
「・・・とにかく、後で来るんなら・・・仕方ないけど私たちだけで回りましょうか」
イヅナが仕切直すようにいって、ワゴンを発進させた。

×

俺は走っていた。
人込みを避け、道に転がるゴミや看板を飛び越えながら
(・・・クソッ・・・・・・アイツ、どこ行ったんだ・・・)
ただひたすらに街を駆け、周囲に視線を巡らせる。
すると、急に視界が広がった。
立ち止まって見ると、そこはどうやらちょっとした広場のようで、
設置されたベンチに人が何人もたむろしている。
周囲の人達は、突然現れた俺を一瞥するだけですぐに仲間内の会話に戻る
俺は肩で息をしながらもう一度視線を巡らせると、

「おやおやぁ?珍しいねぇ、こんな所で会うなんてさ・・・」
「!?」

突如俺の背後で声がした。
「・・・お前は」
振り返ると、封鎖内でも会ったチャラ男が立っていた。
「久しぶりだねぇ 元気だったかい?」
ニヤニヤと言う。
「お前には、関係無いだろ」

あくまでそっけなく言う俺に対して、男はニヤニヤした表情を崩さずに
「そうだねぇ、君の事は僕には一切関係無い。・・・でも、もしかしたら
関係するかもしれないよねぇ・・・・・・」
芝居がかった口調でそういうと、横目で俺を見る。
「・・・どういう意味だ!」
俺が声を荒げると、男は外人の様に肩を竦めて
「いや、意味なんて無いよ?・・・あるのは・・・・・・事実だけさ」
といった
「ふざけるな!」
俺はその思わせ振りな態度に腹が立って、男に拳を繰り出した。
「おおっと、危ないねぇ」
そういいながらあっさり上体を逸らして拳を避けると、そのまま俺の腕を取って捩り上げた。
「・・・・・・ッ」
「この状態で悲鳴を上げないなんて・・・少しは封鎖で鍛えられたのかな?」
男は感心したように言うと、すぐに俺を解放した。
そして俺の顎を取ると、
これまで一度も見たことも無い真剣な表情になって、俺の顔を覗き込む。
「・・・なにすんだよ・・・・・・離せっ」
どういう押さえ方をしているのか、俺がいくら逃れようとしても、男の手からは逃げられなかった。
諦めて男の顔を睨み付けてやると、
「・・・君はさぁ・・・あれで終わりだなんて、思ってるんじゃないよねぇ・・・」
真顔でいきなりそんな事を言われた
「は?」
俺が聞き返すと、
「だから・・・非日常を追いやって、退屈な毎日を取り戻して・・・それで封鎖は終わり、
悪魔はもう来ません・・・・・・なんて甘〜い事考えてないよね?って聞いたんだよ」
「・・・なんだと?」

俺はこれで終わったんだとばかり思っていた。
日常を、取り戻したと思っていた。

「フフ・・・やっぱりねぇ・・・・・・」
男はそこでようやくいつもの軽薄な笑みを見せると、独りでクスクスと笑い出した。
「・・・・・・・・・」
無言で男を眺める俺に、
「君は非日常が本当に全部消え去ったと思っている様だけどさぁ・・・・・・
まだ一つ、大〜きなのが残ってるじゃない?」
男は笑いながら俺の顎を押さえていた手を離すと、

「・・・・・・ここにさぁ、まだ・・・あるじゃない?」

男が指差した先には・・・俺が
俺の躯があった。
「・・・・・・まさか」
なんとかそれだけ搾り出した俺に、男は追い討ちの様に告げる。
「そう、そのまさか・・・君はベルの王になったんだよねぇ・・・・・・?」
纏わり付く様な、愉しそうな声に俺は言葉を失った。

世界が反転したような感覚
周りの雑音が、総て遠退いたような
ぐらぐらと、揺れる視界
揺れているのは俺なのか、世界なのか
なんだコレ
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い・・・・・・

「おっと、大丈夫かい?」
その声で、俺は現実に引き戻された。
気付くと俺は男に支えられており、男はそれを愉しむように見下ろしている。
「・・・・・・・・・」
俺は男の腕を押し退けると、なんとか自力で立った。
男はニヤニヤしながら腕を離すと、こう続けた。

「君はもう踏み込んでしまったんだよ、引き返せない所まで・・・他の誰もが日常を楽しんでも、
君だけはずっと非日常に取り残される・・・・・・いずれは、呑み込まれるかもしれないねぇ・・・
その時、君は一体どうするんだろうね・・・・・・?」

「・・・・・・・・・俺は」
何か言おうと思っても、何をいえばいいのか判らない
「・・・まぁ、すぐに決めなくてもいいんじゃない?まだ多少の時間はあるみたいだから・・・・・・
今日はコレで帰るよ。このまま話してたら君が日射病で倒れてしまいそうだからねぇ・・・・・・」
男はそう言いながら、ゆっくりと歩きだす。
しかし、数歩歩いた所で一度だけ振り返ると

「・・・けど、忘れちゃあいけない・・・・・・例え君が嫌だとしても、忘れたくても、
その“力”は必ずついて回る。・・・・・・・・・逃れられないのさ・・・それじゃ、さよーなら」

男はそれだけ言い切ると、人混みの中に消えて行った。

残された俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。
「・・・・・・・・・俺は・・・」
どうしたらいい?
そのままぼんやりとしていたら、今度は別の声が聞こえた。

「おう、ミタカじゃねぇか」

声のした方を見ると、数人の仲間らしき人を連れたカイドーが立っていた。
「・・・久しぶりだな、元気してたか?」
前に会ったのが封鎖内だったから、普通の街で会うのは初めてだ。
「・・・・・・うん、まぁ・・・」
対応に困って、曖昧な返事になってしまった。
「・・・・・・・・・」
カイドーはそんな俺をしばらく眺めていたけど、急に周りにいた仲間に
「・・・悪ぃな、先いっててくれや」
と言った。
仲間の人達は得に疑問を持たずに
「うす、じゃ・・・失礼します」
と言って一礼して(何故か俺も一礼された)去って行った。

「・・・・・・ミタカ、お前・・・・・・なんかあったのか?」
カイドーは俺に近づいて、じろじろと顔を覗き込んでいる
「・・・いや、特には・・・・・・」
ベル神の事を知らないカイドーに心配を掛けるわけにはいかない
そう思って俺は言葉を濁そうとしたけど、
どういう訳かさっき感じた気持ち悪さがまだ抜けないでいる
ぐらぐらと、波打つように視界が揺れる

「・・・あっ、オイ!?ミタカ どうした!」
俺はカイドーの声をききながら、波打つ視界が反転してひっくり返ったのを感じた。

・・・・・・・・・
気付いたら、俺はさっきの広場のベンチに寝かされていた。
「・・・・・・?!」
上半身を起こすと、額から濡れタオルがずり落ちた。
「・・・・・・・・・・・・」
タオルを手にとり辺りを見回すと、ちょうどカイドーがジュースを両手にこっちに走ってくるのが見えた。
「お、起きたのか」
俺の前まで走ってくると、手に持っていたジュースを一本放ってきた
「ありがと」
礼を言いながら受け取り、遠慮無くプルタブに手を掛ける。
「・・・ったく、急に倒れるからビビるだろうがよ」
カイドーもプルタブを空けながら俺の方を見る
「あんな暑いトコでボケッとつっ立ってんなよ・・・
んな変なヘッドホンするくれーなら、帽子の一ツでも被れっての」
「・・・・・・」
どうやら、チャラ男が言うように俺は日射病になっていたようだった。
数分のつもりだったけど、随分とあそこで立ち尽くしてたんだろうな・・・。
「・・・オイ、まだ気分悪ぃのか?」
カイドーがしゃがみ込んで俺の顔を覗き込む。
「・・・いや、もう大丈夫・・・ゴメン 面倒掛けた」
俺がそういうと、カイドーは照れ臭そうに顔を背けて
「いや、気にすんな・・・お前も俺のダチみてーなもんだしよ・・・」
とぼそぼそと呟いた。
俺はそんなカイドーの態度に苦笑しながら、
「・・・そういやカイドー、仲間の人とどっか行く予定だったんじゃないの?」
と尋ねると、カイドーは仲間達が去って行った方を見遣って、
「あぁ、封鎖も解けたし・・・どっかセンター街にでも行くかっつってたんだよ」
と言った。
「そっか・・・追いかけなくていいのか?」
「まぁな・・・・・・けど、病人一人ほっといて行くってのもアレだしよ・・・」

といってまたそっぽを向いた。
なんだかんだ言って俺を心配してるらしいカイドーに若干申し訳なく思って、
「・・・じゃあさ、お詫びに夕飯奢ってあげるよ」
と俺は切り出した。
「あん?」
聞き返すカイドーに、
「・・・今日さ、ジンさんのお店で宴会やるんだ。良かったら来ない?」
と改めて誘うと、
「宴会・・・ジンさんの店で・・・」
と何故か訝しげにしている。
「・・・あ、未成年はお酒抜きだから大丈夫だよ」
と俺が付け足すと、
「んな心配はしてねーヨ・・・ってか、ジンさんが飲ましてくれねぇって」
と言った。
「あと、マリ先生も来てるよ」
とさらに付け足すと、
「お・・・おまっ、・・・バッカそういうことを先に言え!」
と顔を真っ赤にして口をぱくつかせる。

そういうことだから先に言わなかったんだけど・・・

案の定テンパったカイドーを眺めながら、俺は内心で一人ごちる
口にだしたら絶対殴られるからね。

「・・・じゃ、もうそろそろ準備も出来てるだろうし 行こうか?」
俺は軽快にベンチから立ち上がった。

×

「ごめんごめん…遅くなった」
そういいながら「BER EIJI」の扉を抜けると、
すっかり宴会の様相を呈している店内が広がっていた

「おそーい! もう、どこまでいってたのよ!」
と、ミドリちゃんやアマネと料理を並べていたユズが頬を膨らませる。
「…あれ、後ろにいるヒト…誰?」
ちょうど皿を運んできたケイスケが、俺の後ろにいる人物について尋ねてきた

「あッ…えぇ……っと…」
俺の後ろのカイドーを見たアツロウが、何故か口ごもる
「?」
ケイスケはアツロウの妙な態度に首を傾げている

アツロウはそんなケイスケを見遣り、再び俺のほうを見ると
(おいっ、何でカイドーつれてきてんだよ!)
と目線で訴えてきた
「?」
最初は俺も思い至らなかったけど、ようやくその事実に思い至った
…そうか、そういえば封鎖内でカイドーはケイスケを探してたんだっけ…
そこに気づくと、俺もアツロウから伝染したのか、なんだか妙に焦ってしまった。

(しょうがないだろ!行き会ったんだから!!)
焦りながら目線で言い返すと
(だからってお前…この状況でこの鉢合わせは無ぇだろ!)
とアツロウがちらちらとケイスケを気にしながらまた訴える。

「…どうした?はいらねぇのか?」
俺の後ろでもカイドーが怪訝そうにしている。
「あ…あぁ! ゴメン」
俺はあわててその場を退いた
「ちぃーす」
カイドーが若干頭を屈めながら店内に入る。

「あっ…貴方は…」
案の定ケイスケがカイドーに反応する

(あっちゃぁ〜…)
アツロウが額に手を当て、大げさに天を仰ぐ
けれど、予想したような事態にはならなかった。

「おう、久し振りだな…」
カイドーも若干目線を逸らしながら挨拶すると、店の奥へ歩みを進めていった
そのまま奥へ消えると
「うっす、邪魔します…」
というのが聞こえた
カイドーの言葉に、まだ厨房で調理をしているらしいジンさんが
「お、カイドーじゃないか!どうした急に・・・…さては夕飯の集りか?」
冗談めかしたジンさんの言葉に、カイドーは
「は、違いますって!…俺ぁミタカに誘われて……」
「そうか…ミタカに誘われたともっともらしいウソをつきながらタダ飯か!」
という(わざと)能天気そうなジンさんの言葉に
「………」
怒りを押し殺したらしいカイドーのため息が聞こえた

「えっと…」
微妙においていかれたケイスケや俺、アツロウが厨房のやり取りに目を向けていると、

「あら、お客さん?」
と追加の買い物を終えたらしいマリ先生とハルが帰って来た。
「え、ええ…」
ずっと厨房のほうを眺めていたケイスケが返事をすると

「だぁーかぁーらぁー!俺ぁミタカに…」
「そーかそーか、ミタカをダシにタダ飯食おうとなぁー・・・」
「ちょっジンさん!?俺もいい加減怒りますよ?」
「ふうん?…やるか、タダシ…なら表へ出ろ」
「えっ……いや…」

見たいな会話がさっきからずっと続いている
「…なんだ、カイドーじゃん」
ハルが荷物を空いている机に置きながらつぶやく
「もう、タダシ君ったらまた年上の人にあんな態度とって…」
マリ先生が厨房に入っていく

「…………」
俺たちは顔を見合わせる
そしてまた厨房に目をやる

「だぁーッいい加減にしやがれ!!」
「相変わらずだな本当に」
「………ッこの!」
「こらタダシ君!駄目じゃないの年上の人に向かって!!」
「…っぎゃあぁ!!! ま、マリ姉!」
「なーに?人を化物みたいに…」
「いや…んなつもりぁ…」

再び俺たちは顔を見合わせる
「………」
そして数秒笑いをこらえた後、大爆笑した。

「あれ、カイドーってマリさんと知り合いだったんだ?」
と一人ハルが吃驚していた。

×

宴会が始まった店内は、まさに賑やかの一言に尽きた。
ハルのライブにユズだけでなく他のみんなも酔いしれ、
カウンターでは酔いつぶれたイヅナさんが突っ伏し、
その脇では何本ものワインやウィスキーのビンを転がした伏見さんとマリ先生が杯を交わしている。
ジンさんはそんな二人の会話に加わりながら酒を追加したり料理を配ったりと慌ただしく行きかっている。

俺たち未成年は封鎖内での思い出話に花を咲かせたりした。
(途中でミドリちゃんがジャア君を思い出して泣いてしまい、なだめるのに苦労した)
カイドーとケイスケは完全に和解したようで、今ではなにやら力がどうのとか議論を交わしている。
アマネはユズやミドリちゃんたちとファッションや最近の流行について尋ねており、それなりに楽しそうだった。
アツロウはそんな3人に突っ込みをいれたり(物理的な意味で)入れられたりしながら、
こんなところでもPCと改造COMPを持ち出して作業をしていた。

俺は楽しそうなみんなを端のほうの席で眺めながら、今日の昼間に会ったチャラ男の言葉を思い返していた。


『君はもう踏み込んでしまったんだよ、引き返せない所まで・・・他の誰もが日常を楽しんでも、
君だけはずっと非日常に取り残される・・・・・・いずれは、呑み込まれるかもしれないねぇ・・・
その時、君は一体どうするんだろうね・・・・・・?』

俺だけが…ひとり、ずっと…
呑み込まれる……
「…逃げられない か…」
思わず口をついた言葉が、自分自身で痛かった

「アンタは会話に入らないのかい?」

気づくとハルが俺の隣に座っていた。
「…アンタさ、前にアタシに言ったよね。”自分のこと大事じゃないのか”って…」
「…そうだったね」
いきなりの話に若干驚きながら、俺はハルにその言葉を言った情景を思い浮かべた。

「…あれさ、今だから思うのかもしれないけど…アンタ自身にも向けられてたんじゃないの?」

「!」
核心をつく言葉に、俺は固まる。
「今のアンタ見てるとさ…なんか、そう見えるんだよね……って、
あ!…ゴメン、違ったら別にいいんだけどさ…」
とハルは慌てた様に付け足す
「いや、合ってるよ」
俺はユズたちを眺めた視線はそのままに、唇だけを動かす
「俺はあんまり自分自身に対してコレといって思ったことはないよ
…ないって言うか、思ってないわけじゃないと思うけど…なんていうか…そう、
客観 みたいな感じ」
日ごろ滅多に口に出さない感情を、ただその場の空気に滲ませる
「客観…?」
ハルがよく分からないというように聞き返す
「そう、客観。 自分の置かれた状況を感じてる自分と、
ソレを感じる自分をただ冷静に見てる自分がいるみたいな……
自分が自分じゃないみたいな……そんな感じ」
だから今もみんなとはしゃいだり出来ずに傍観に徹している。
「……」
ハルが思わず無言になると、俺もはっとなって
「…あっ、ゴメン…こんな空気にするつもりじゃなかったんだけど」
と言うとハルは
「あー…いいって、アタシが尋ねたんだからさ」
と言った。

「そ、そういえば…さ」
俺はあわてて別の話題を探す
「さっきのハルの歌…たしか封鎖内でも歌ってたよね。あれ、何てタイトル?」
「ん…アレかい?」
ハルは目を閉じて、それから誇らしそうに言った

「アレは『Reset』っていうのさ」

「Reset…」
俺がつぶやくと
「そ、…アヤさんが、初めてアタシに歌わせてくれた歌でさ。アタシのお気に入りなんだ」
と嬉しそうに言った。
「そっか…俺も、あの曲が一番好きだな」
と言うと
「おっ?いいこと言うねアンタ!」
と肩をたたかれた。

しばらくハルと話し込んだ後、
店内の時計を見ると、結構夜が更けてきている
俺は椅子から立ち上がると、ようやく潰れたらしい伏見さんとマリ先生に毛布をかけているジンさんに声をかけた
「ジンさーん、俺 用事あるんでそろそろ帰りますー…」
ジンさんはこっちを振り返って、
「ん…そうか?もしアレなら、泊まっても明日は定休日だから問題はないぞ?」
と気遣ってくれる
「いや、大丈夫 それよりもさ…残った料理…若干もらって帰ってもいいかなぁ?明日夜勤で親居ないんだ」
というと、
「容器はキッチンの戸棚にあるから、使ってくれ」
と厨房を指差した。
俺は礼をいいながら容器をいくつか借りると、残っている料理を手早く詰め込む
それから伏見さんとマリ先生が飲み残したらしい酒ビンを一本手に取ると
「あとさ…コレももらって行っていい?」
と聞いた
「おいおい…未成年だろうが」
と呆れるジンさんに
「いや…俺が飲むんじゃなくて」
というと、なんとなく事情を察したのか
「…しょうがないな…なら、定価の5割ってトコだな」
と言ってニヤリと笑った
「……ナオヤにツケといて」
俺はそういって料理の入った容器と酒ビンを抱え、夏の生ぬるい外気に身をさらした

「あれー?ミタカかえるのー?」
ユズの声に
「うん、また明日」
と返して、他のみんなにも挨拶をする

「またな」
「お気をつけて」
「あたしのイベント見に来てね!」
「それじゃあ…」
「店が開いてるときなら、いつでも遊びに来てくれ」

俺は手を振って扉を閉めると、
夜の静寂の中を歩き始めた。

しばらくすると、後ろから足音が聞こえてきた
「ミタカ!」
立ち止まって振り返ると、アツロウが追いかけてきた。
ある程度まで追いつくと、ひざに手をついて息を整えている
「どうしたのさ、アツロウ」
と俺が尋ねると、
「どーしたもこーしたもねぇって、…ナオヤさんとこ行くんだろ?」
といった。

「まぁ、そうだけど…」
と俺が答えると
「俺もあの人のところ行きたかったんだ。…やっぱCOMPの構造がいまいち難しくってさ…
直接聞いたほうが早いかと思ってさ」
とノートPCの入った鞄を示しながら言う。
「そっか…じゃ、一緒に行こうか」
「おうよ!」

×

「…で、わざわざ酒を手土産にCOMPについて聞きに来たという訳か」
玄関先で俺たちを迎えたナオヤさんは、特に驚きもせずに俺たちを部屋の中に上げた。

ミタカがジンさんのところでもらってきた料理をつまみに、ナオヤさんは酒を飲みつつ、
俺の質問に順番に答えていった。

「…だから、何度も言わせるな この構造を見てみろ」
「あっ、それがこっちのパーツと関連して動くんすね!」
「…俺、ぜんっぜんわかんないんだけど」
「ならそこで大人しくつまみでもつまんでいろ」
「……(いつか殴ってやる)…」
「まぁまぁ…」

みたいな会話を夜中まで続けて、
COMPの話題が一段落した所で、ナオヤさんがふと切り出した。

「・・・ミタカ、政府でも聞いたが・・・・・・何故お前は俺の誘いを蹴った?」

俺はその質問に思わずミタカを見る。
ミタカは俺の視線に気づいているのかいないのか、
特に表情を変えずに言った。

「・・・だってさ、こんな判りやすいタイミングで反乱なんて起こしても 返り討ちがオチじゃない?」

「・・・なんだと?」
「・・・・・・どういう意味だ?」
声に若干の怒気を滲ませたナオヤさんと、
余り良く解っていない俺の声が重なった。
「・・・・・・・・・」
俺とナオヤさんは顔を見合わせると、またミタカの方を見た。
「・・・今回の封鎖はさ、悪魔が大量に呼び出されたことに神が気づいて行われた訳でしょ?」
と俺達に向かって問い掛ける。
「あ、ああ・・・」
俺の返事にミタカは頷いて、
「だからさ、神は一応予測したはずだよ。俺が封鎖を何とかする以外にも・・・
逃げる、あるいは力に溺れて好き勝手する・・・・・・もしくはアツロウが言ったみたいに
悪魔の力を利用する・・・後は・・・・・・神に仕える・・・とかね」
と指を一つづつ立てながら言う。
「!!」
その言葉にナオヤさんが頬杖をついていた顔を若干浮かせた。
「?」
首を傾げたミタカに対して、
「・・・いい、続けろ」
と、ナオヤさんは続きを促した。
ミタカは仕切直すように一つ頷くと、今立てた四つの指をひらひらとさせながら、
「神としては多分自分に仕えてほしいと思ったんだろうけど・・・・・・俺は御免だった」
と言った。
「・・・どうして?」
俺はミタカが何を言いたいのかがよく解らなかった。
「だってさ・・・そんなことしたら、この世界全部丸々 神の手に落ちることになるじゃない・・・・・・
そうなったら、間違いなくアレの都合のいいように世界は動くよ」
「・・・!!」
絶句する俺を余所に、ミタカは続ける
「・・・今じゃアレがこの世界を作ったなんて言われてるけど、
そんな事言ったらベル神や他の神話の説明がつか無くなる。・・・・・・だから、
俺はそんな胡散臭い見たことも無い奴に仕えたくなかった。それに、
支配されると解ってそこに出向くなんてのは・・・馬鹿のすることだよ」
「・・・そ、そうか」
納得する俺の隣で、ずっと黙っていたナオヤさんが言った
「・・・だが、それだけでは俺の誘いを蹴った理由にはならんぞ。支配を拒絶するならば、
俺が言うように奴を倒せばいいだろう・・・・・・」
「・・・だから、最初に言ったじゃない。そのくらいアレは予測してるって 
今そんなことしたら蟻地獄の作ったスリバチの中に墜ちる蟻位愚かだよ・・・
反乱したら間違いなく大人数・・・ってカウント人でいいのかな・・・・・・ま、いいや
天使の大群に攻め込まれて長期化して劣勢になって・・・
天界でも魔界でも無い俺達の世界が被害を被るんだよ」
「・・・・・・・・・」
俺はある意味ナオヤさん並の予測を立てるミタカを呆然と見遣った。

「・・・・・・お前はいつもそうだ、俺の話を聞いた上で予想と違う行動をする」
どこかウンザリしたようにナオヤさんが言うと、
「俺には俺の考えがあるの・・・・・・アマテラスの話だと度々俺達の世界はなんか裏で危険になったりするんだけどさ、
俺達以外の昔からいる悪魔使いがいたりとかで、そういう人のお陰で結構平和なんだって・・・
だから、そういうことに悪魔を使うのは黙認してるのに、自分に火の粉が降り懸かりそうになると
妨害する神の姿勢が俺は気に食わないね・・・・・・まぁ、今回俺は現状維持を選んだけど
・・・もしまたこういうことが有れば俺はナオヤに従うよ」
それでいいでしょ?
とミタカがナオヤさんに言うと、
「・・・まぁ、そうだな」
とナオヤさんも納得したみたいだった。
それを区切りに話しはお開きになって、
俺達はナオヤさんの部屋に泊めてもらう事になった。

「…あっちぃ…」

俺はリビングの床を借りて寝てたんだけど、8月も終り近いとはいえ まだまだ暑い
月明かりが差し込んでぼんやりと明るい部屋を見回すと、
ナオヤさんが俺と同じく床で掛け布団を被って眠っていた。
身じろぎもせず、規則正しく寝息が聞こえることを除けば、
まるで彫像のようなナオヤさんの寝姿を見て、俺は思わず
(寝相までかっこいい人種って居たんだ…)
なんて考えた。
部屋はスタンバイモードになったデスクトップ型のPCと、ソレにつながれたLANの光が
ぼんやりと部屋を照らして奇妙な陰影を作り出しているだけで、
深夜独特のぴんとした空気に包まれている。
「…あれ」
ソファを見ると、そこで寝ていたはずのミタカがいなかった。
(どこで寝るかはジャンケンで決めた)
「どこいったんだ…?」
俺は辺りを見回して、それから水でも飲みに行くついでにキッチンのほうも見てこようと思って、布団から抜け出した。

ミタカは厨房のシンクの前でぼんやりと立っているのが見つかった
なにもせず、ただ窓から見える月明かりを眺めてるような感じだった。
(寝ぼけてんのかな…)
俺は極力音を立てないように厨房に入ると、小声でミタカに声をかけた
「ミタカ?」

ミタカは俺の声に反応すると、ゆっくりとこちらを向いた
「!!」
そこで俺は思わず絶句した。

ミタカの目が―――真っ赤に染まっていた

ミタカは…というか、ミタカの家はみんな色が薄くて(ナオヤさんなんかはその極端な例だ)
髪や瞳の色なんかが、俺たちよりも非常に薄い。
だから…外なんかで見ると、ミタカの髪は青空を写してるせいか、全体的に青っぽく見える。
瞳も同じように、髪よりは若干深い青色に俺は見えていた。
…けど、今見えているミタカの目は、充血とかじゃなくて・・・
…本当に瞳全体が真っ赤に染まっていて、そこだけが現実離れした雰囲気を作り出していた。

「おい…どうしたんだよ…その眼」
俺が声をかけても、寝ぼけてんのか焦点の定まらない目線をこっちに向けるだけで反応が無い
俺はミタカに近寄ると、肩をつかんで揺すってみた。
「……。」
今度はわずかに反応があった。
俺はソレに安堵すると、肩をつかんでいた手を離した。
すると、ミタカの眼は徐々に元の色に戻り、焦点も定まってきた。

「………アツロウ」
意識がはっきりしてきたのか、ミタカが俺の名前を呼ぶ
「ようやくおきたか?」
俺が尋ねると、ミタカはそのまま俺にもたれかかってくる。
「おい、だいじょぶか?」
俺はミタカを受け止めながら、尋ねる

「アツロウ……俺、ヘンなんだ」

もたれかかったままミタカは、普段とは打って変わった弱弱しい声で、ぼそりといった
「え?」
俺がミタカの頭の載った右肩のほうに顔を向けると、ミタカは小さな声で言葉を連ねた

「俺…おかしいんだ……封鎖が終わってから…ずっと、気にしないようにしてたけど……
けど、今日…あの チャラ男に言われて、分かったんだ…」
俺の知らない話が混じっているけど、何も言わずに続きを待った。

「俺の…俺の、中に……何かいて、ずっと ずっと蠢いてるんだ…!
…機会を狙うみたいに……」
そういって自分の服の心臓の辺りを掴む
「このままだと……俺が、得体の知れないもんに変わっちゃいそうで……
怖いんだ、俺がもうみんなとは同じように過ごせなくなることが…………
アツロウや、ナオヤと……一緒に過ごせなくなるのが……怖いんだ!…・・・ッ」

そういって、俺の背に腕を回してミタカがしがみついて来る。
ぱた、ぱたり と何かが床に落ちる小さな音が聞こえた。
それはこいつがコレまで過ごしてきて俺にはじめて見せた弱さだった

「…大丈夫」
俺はミタカを抱き返しながら、あやすように背中をたたいてやる。
「俺は今ここにいるし、これからもずっと傍にいるから……ナオヤさんだって、
ユズだって…みんな、お前の傍を離れたりしねぇよ……大丈夫だから…」
そういって暫く、震えるミタカを抱きしめていると

「ほんとに……だいじょうぶ、なんだな…」
とつぶやいた。

「ああ、……俺は、絶対にお前から 離れないから…」
(絶対に、お前を 放さないから…)
その言葉がミタカを安心させるためだけじゃなくて、自分自身のエゴでもあるってことは気づいていた。
けど、それでも俺はミタカを離したくは無かった。
お前は、俺の…たった一つの居場所なんだから……

もっと力を込めて抱きしめると、ミタカも同じように力を込めて抱きしめてくれた
暫くそうしていたら、俺たちはいつの間にか眠っていた。

×

俺はいつもの時間に眼が覚めると、部屋で寝ていたミタカとアツロウが居ないことに気がついた。
リビングを出て、いくつかある部屋を見て回っていた時に
厨房でお互いに身を寄せ合うように眠る二人を見つけた。
「・・・居ないと思ったら・・・こんな所で眠っているとはな」
(寝ぼけていたのか・・・それとも部屋が暑かったのか・・・・・・)
俺はそう呟くと、二人をそれぞれ肩に担ぎ上げ、来た道を引き返す。

「・・・・・・まぁ、今回はお前の奴に対する感想が聞けて良かったよ・・・」

そう呟き、堪え難い愉悦に口端を吊り上げる
「ククク・・・いずれお前は本当の意味で逃れられなくなる・・・そうなった時、
あるいは・・・そうなる前に・・・俺はお前と共に奴を倒す・・・・・・そうだろう?ミタカ・・・・・・」
俺は二人を寝室のベッドに下ろすと、慈しむ様にその髪を撫でる。

「それまでは・・・俺もお前と共に在ろう・・・例えお前がどれだけ変わろうとも、
俺にとってはたった独りの弟なのだからな・・・・・・」
俺は暫く弟の寝顔を眺めると、二人に掛け布団を被せ部屋を後にした。


やがて、部屋はまた元の静寂を取り戻した




アトガキのようなもの
だいぶ妄想入れまくってます。展開がナオヤルートと大差ない気が…しないでもないです
今回はチャラ男に揺さぶられてアツロウに癒される主人公みたいなのを書こうかと
んでもってちゃっかりナオヤに愛でられるみたいな(意味不明すいませんorz)
なんというか管理人の嗜好なのかやたらと主人公がへタレですいません…神に対しては
なんかえらそうなことを言ったりしているのに…なぜでしょうか…笑
作中のアツロウの居場所云々のネタもいつか書いてみたいです。



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