Raison d'etre




「…………。」

取り外したピアスを、机の上に置いた。
12の時に付けてから、滅多に外すことのなかったそれを改めて眺める。
良く見ると細かい傷が付いていて、5年という年月が感じられた。


あの時の俺は毎夜繰り返される悪夢に、それから幼い頃の母親の狂騒に怯えて、
自分が”尚也”なのか、それとも”和也”なのかが判らなかった。
どちらも同じ顔で、同じ声
俺は俺をを尚也と認識していても、それは自分の錯覚で本当は和也なんじゃないかってずっと考えていた。
自分が自分でなくなるのが、怖かった。
だから”自分”をはっきりさせるために、安全ピンで無理矢理穴を空け、ピアスをつけた。

(ピアスのある方が尚也だ。これで…もう…誰も間違えたりしない)

そんな事を考えながら、まだ血に染まったままの耳を飾るピアスを鏡越しに眺めた。
和也は8年も前に死んでいて、母親の狂騒もひとまずは落ち着いていたのにもかかわらず。

和也の死、それは紛れもない自分自身の死でもあった。
同じ顔の人間の、同じ顔の死に様
当時の母親が俺を呼ぶ時は、死んだ和也の名前
俺は生きていながら死んでいるような物だった。

だからこそ自分の感じる世界は薄い膜がかかったような、自分とは関係のない出来事のように思えていた。

けれど、今回の事件で出会ったもう一人の俺―――

”生きるつもりが無いなら、俺と替われよ!”

”お前が育てた、お前への悪意――俺は「藤堂尚也」お前なんだよ”

”その言葉――忘れんなよ”

そいつが現れた事で俺が現実からずっと眼を逸らし、逃げ続けていた事を知った。
俺は変わりたい、自分を諦めたくない。
たとえ逃げた現実に目を向けて俺が俺でなくなっても、その時はそれが俺なんだってことに気がついた。

事件が大方決着がついた今、俺自身もけじめをつけなければならない。
ずっと俺が自分の存在の拠り所にしていたピアス
自分が”尚也”である証明として付けた物

そこから、一歩踏み出さなければならない。

俺は外したピアスをゴミ箱に捨てようとして、それから思い直してそれを制服のポケットに入れた。
部屋を出て、しんと静まり返った廊下を歩く。
そして、突き当たりにある部屋の前で止まった。そこは仏間で、今でも和也の写真が飾られている。

部屋に入り、外したピアスを和也の写真の前に置いた。

それから写真立ての中で笑う幼い俺と同じ顔をした兄に、一言だけ告げる
「ごめんな、和也」
俺はあれからずっと避けていた和也の顔を暫く眺めると、部屋を出た。

もう俺の感じている世界に膜は無かった。
ただ”ここにいる”という実感があった。




漫画版初代ペルソナの小説です。ゲーム本編が終わってからをイメージで
自分が変わるためにピアスを外す尚也さんのイメージで(笑
漫画の8巻ラストでピアスが変わってますが恐らく外したはいいけどその後なんだか
慣れてなくて落ち着かないから「変わっていく」というイメージで別デザインのを
買って付けたんだろう…とか妄想して書きました。



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