始まりのひとつ




・・・俺は車を走らせながら、今日何度目かになる言葉を溜息と一緒に吐き出した。

「・・・ハァ、随分と辺ぴな所に来ちゃったな・・・」

運転席から見える景色はひたすらにのどかで、
畑や田んぼの中にちらほらと民家が見えるというだけ。
頭に“ド”を幾つ付けても足りないような田舎の景色だ。

「ハァ・・・」

また溜息を付きながら、
のろのろと車を走らせる。

仕事のちょっとしたミスで、本庁に配属されて4年目の俺はいきなり左遷の憂き目に遭った。
・・・正直言って俺は何も悪くないと思う。
だが、上司である叩き上げの連中はそう思わ無かったらしく、
ミスの翌日にはこの忌ま忌ましいド田舎・・・八十稲葉への転属が決まっていた。

“そもそも連中は俺達みたいなキャリア組を目の敵にするからな・・・”

声には出さず、今度は胸中だけで悪態をつく。
転属先の上司もまた叩き上げの人間らしく、下手に独り言で愚痴を言ってまた妙な所に飛ばされたらたまったもんじゃない。

「・・・能力だけじゃなくて頭も古いからね・・・・・・っと」

考えていたら軽くイラついてきたので、小さく呟きながらハンドルを切ると、
ようやく人の住んでいそうな商店街に入った。
しかしその商店街もまたさっきの田舎道同様に人の気配が無く、良く見たらシャッターの閉まった所が多い。

「うわー・・・こんなトコ人が生きていけんの?」

以前住んでいた東京を懐かしみ、商店街の中を進む。
細い路面に僻益しながらさらにスピードを落とすと、
割と有名なガソリンスタンドが見えてきた。
ここは流石に経営してるらしく、赤とオレンジの制服を来た店員が見える。

(・・・結構走ったし、ちょっと入れてくか)

そう思って車を店内にいれると、すぐさま店員が寄って来た。
「らっしゃーせー!」

にこやかにこちらを見る店員にカードを差出ながら、
(・・・うわ、今時セルフじゃないのかよ)
と考える。

「・・・・・・レギュラー満タンで」
「ありがとございまーす!」

それだけ告げると俺は店に設置されている自販機でコーヒーを買い、
甘ったるいそれを啜る。
その間にも店員はテキパキと車に管を差し込み、ガソリンの入り具合を見ている。
一通り終わると俺の方に近寄って来て、また営業用の笑顔を向けた。

「ここには出張か何かで?」

俺は大して何も考えずに上っ面を取り繕うと、
「いやーそれが仕事でミスしちゃてさ、ここに飛ばされたワケ」
苦笑しながら言い放つと、店員はさも驚いたような顔をして、
「うわ、大変じゃないですかー・・・ここってなーんも無いから、退屈ですよー」
と自分の住む街だろうに、平然と“何も無い”といってのけた。

「・・・だろうね、まぁ・・・来る途中に畑がいっぱいあったから・・・キャベツが旨いのに期待するかな」
というと
「そっすねーここじゃそれくらいしか取り柄なさそうっすよねー」
と苦笑している。
俺もそのさっぱりとした態度に笑みを浮かべる。

丁度満タンになったのか、店員が車の方へと駆け出す。
俺も飲んでいたコーヒーを三分の一ほど残したまま空き缶用のごみ箱に放り込み、そのまま車に乗り込む。

伝票と一緒にカードを受取ながら店員を見ると、
一瞬だけだったがコイツの眼が赤く光ったように見えた。
「・・・・・・?」
その後に妙な目眩を感じたが、すぐに消えてしまった。

「・・・今日は早く寝て旅疲れを癒した方がいいっすよー」
店員の社交辞令を適当に受け流しながら、ガソリンスタンドを出る

「あざーっしたー!」


徐々にスピードを上げながらバックミラーを見ると、
さっきまで見送っていたはずの店員が見えなくなっていた。
(・・・態度ワリイ)
そう思いながらカーナビに視線を戻すと、
丁度携帯が鳴った。

「・・・うわ」
その相手と時間を確認して悲鳴を漏らし、
運転中だが気にせず電話に出る。

「・・・はい、もしもし」
『・・・足立か?・・・今どこにいる?』

新しい上司の声を聞きながら、さらりとウソを言って返す。
「・・・ああ、スイマセン 丁度着きました」

『・・・・・・そうか、この辺は道が入り組んでいるからな・・・気をつけて来いよ』
さして疑っていなさそうな声音でそう告げると、電話は早々に切れた。

(・・・俺達キャリア組が遅れるとたいていの奴はくどくど説教垂れるのにな・・・)
まだ顔すら見たことの無い上司とかつての連中を比べながら、ぼんやりと車を走らせる。
「・・・ま、いいや どうせ大した人じゃないんだろうし・・・」
俺はそう呟いて商店街を抜けた。




P4小説です。主人公が転校する前、足立が転属して来た頃の話的なイメージで
書いてみました。若干(?)黒足立系のつもりですがそう見えないかもです。
なんだかすごく大人としてどうなの足立さん!みたいな感じになりましたが
もともと足立はそういうポジションなのでいいかなと(笑)
「キャベツがうまいのに〜」の台詞はわざとですww



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